第二十話:地下の兵器工場
スーツに組み込まれた野犬の『鋭敏な聴覚』が、地下深くから響く、規則的な金属音を、依然として捉え続けている。
キン――カン――キン――カン――
それは間違いなく、誰かが何かを鍛えている音だった。
健志郎は音の発生源へと、慎重に足を進めた。
工場の一番奥、天井まで届くほど巨大な旧式のプレス機の前で、その音は最も大きく聞こえる。
『影の探査ソナー』を発動し、足元の構造を探った。
すると、プレス機の真下に、コンクリートで巧妙に隠された、縦穴のような空間が存在することを突き止めた。公式の図面には存在しない地下施設への入り口だ。
健志郎は周囲に気配がないことを確認すると、プレス機の土台の一部となっている、巨大な鉄板に手をかけた。スーツの力が、彼の腕力を増幅させる。通常ならクレーンでもなければ動かせないであろう鉄板が、ミシミシと音を立てて、ゆっくりと持ち上がった。
我ながらすごい怪力だ……
現れたのは、地下へと続く、錆びついた鉄製の梯子だった。
地熱と、機械油の焦げたような匂いが、むわりと立ち上ってくる。
健志郎は意を決して、その暗闇へと足を踏み入れた。
梯子を降りた彼が目にしたのは、想像を絶する光景だった。
そこは、体育館ほどもある、広大な地下空洞だった。壁にはパイプが縦横に走り、天井からはいくつかの裸電球が、弱々しい光を放っている。
そして、その中央で無数の小柄な魔物たちが、黙々と作業に没頭していた。
彼らはゴブリンとは明らかに違う。身長は一メートルほどで、猫背。しかし、その腕は不釣り合いなほど太く、筋骨隆々としている。手先は、驚くほど器用だった。
彼ら――おそらくは「フォージ・グレムリン」と呼ばれる種族は、まるで工場のライン作業のように、役割分担をしていた。
ある者は、地上から運び込まれたであろう金属スクラップを炉で溶かし、ある者はそれを金床の上で叩き、粗悪ながらも、確かに武器の形へと変えていく。
剣、槍、そして、歪で不細工な形の鎧。
それらが、空洞の隅にの木箱に、山のように積み上げられていた。
健志郎は、息を呑んだ。
この廃工場は、ホブゴブリンたちの、秘密の「兵器工場」なのかもしれない。彼らは、ここで戦力を整え、地上へ侵攻する日を、虎視眈々と狙っているのだろうか……
健志郎が、息を殺してその様子を窺っていると、一体のフォージ・グレムリンが、完成したばかりの剣を、空洞の奥へと運んでいくのに気づいた。その視線の先、一段高くなった場所に一体だけ、他のグレムリンとは明らかに違う存在がいた。
体躯は、他の者より一回り大きい。そして、何よりその目には、監督者としての冷徹な知性が宿っていた。そのモンスターは、グレムリンたちが作った武具を、一つ一つ手に取り、その出来を厳しくチェックしている。
あれが、この工場の親玉に違いない。
健志郎はさらに奥の様子を探ろうとした。そして、ほんのわずかに身を乗り出した、その時だった。
錆びていた手すりが折れて落下する。
ガキーンッ――カラッ――
フォージ・グレムリン達の、大きな耳が、ぴくりと動いた。
グレムリンの親玉の頭が、ゆっくりと、健志郎が隠れている方向へと向けられる。
そして、彼は、静かに、右手を上げた。
その瞬間。
キン、カン、と鳴り響いていた、すべての金属音が、ぴたりと止んだ。
炉の火が燃える音だけが、ゴォォっと不気味に響く。
作業をしていた数十体のフォージ・グレムリンたちが、一斉に侵入者である健志郎の方へと、鋭い眼光を向けた。




