表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/42

36:聖獣様に立ち向かう

痛かったのは確かだ。

ただそれはソラによる引っ掻きのせいじゃなくて。

いや、もちろんそれも痛かったんだけど。

胸が痛かった。

ソラの気持ちが分かってしまうんだもん。

本当はイヤなんだよな。

イヤだけどこれがソラの使命なんだろ?

ソラの使命って、やっぱりいまいち分からないけど、俺はこんなのイヤだ。

絶対イヤだ!





気付いたら俺は床とご対面していた。

痛い。

なんでだ?

「ケリア!」

向こう側でクリストファーの声。

そしてやっとソラに吹っ飛ばされたことに気付いた。

いてぇなこの野郎…。

「親殴っていいと思ってんのかよ」

ソラを振り返ると、相変わらず冷たい目で俺を見下ろしている。

煙り臭いし血生臭い。

こんな場所、俺やソラには似合わない。

「フェニアースはもうあなたの言うことは聞きませんよ」

ソラの背から優越感に浸ったような口調でハツカネズミが言った。

怒りは湧かなかった。

俺はハツカネズミよりもソラに信頼されている自信があったから、お前には負けない。

確信に近い自信だった。

「ソラ、やめよう」

俺は立ち上がって、今度はゆっくりとソラへと歩いていく。

ソラはまた唸り声を上げた。

「ごめんソラ。俺はお前の言うことは聞けない」

自分で言っておいて理不尽だと思った。

ソラには俺の言うことを聞いて欲しいと思うのに、その俺はソラの言うことを聞けないなんて。

俺は自分が思っている以上にわがままで自分勝手な性格なのかもしれない。

でもそんなことは、一番近くにいたソラが分かってることだろ?

「これがソラの使命だったとしても、俺はソラにこんなことして欲しくない」

いろんな聖獣引きつれて、本家ボロボロにして、クリストファーやみんなを傷付けて。

いくら考えたって、これが世界の災厄から守る行為だとは思えない。

目前まで来た俺を、ソラはまた同じように吹っ飛ばした。

「ケリアやめろ!今のソラはソラじゃない!」

「ソラだ!!」

逃げるな俺。

もう逃げるな。

ソラを助けたいんだ。

どんな姿でも、どんな状態でも、これはソラだよ。

俺の家族のソラなんだよ。

逃げたくないんだ。

今逃げたらソラは俺の元に帰ってこられなくなるじゃないか。

「イヤだよソラ。使命とかそんなくだらないことで俺から離れてくなんて、そんなの許さないから」

俺はもう一度立ち上がり、ふらふらする足を叱咤しながらソラに向かって歩いた。

俺の想いの全てが伝わればいいと思った。

言葉にしきれない。

たくさんの想いがあって、でもそれを言葉で伝えるのはあまりにも難しい。

伝わればいいのに。

そしてソラの気持ちも俺に伝わればいいのになぁ。

「ぐぅ」

あぁ、ソラもそう思うんだ?

やっぱ考え方似るのかな、家族ってさ。

「そんな…バカな…!いけませんフェニアース!今のあなたの親は私ですよ!?」

ぽっと出てきたハツカネズミなんかに、この座はやらない。

ソラの親は俺だ。

他の誰でもない俺だ。

俺はソラの前脚に巻き付いて、ソラはその俺に顔を擦り付けてきた。

大きくなったな、ソラ。

大きくなったから、もう守ることはなくなるだろうと思ってたけど、違ったな。

どんなに大きく成長したって、親ってものはいつまでも子を守っていたいものらしい。

そう分かったから、あの時の父さんや母さんの気持ちに胸が痛かった。

俺を置いて死んでいくこと、きっとすごく辛かっただろうに。

「ソラ、こんなこともうやめよう。いくら使命だからって、自分のやりたくないことをやるなんて間違ってる」

ソラはまた小さく「ぐぅ」と鳴いて頭を擦り付けた。

ソラといない期間は短かったはずなのに、ソラは甘え足りないようだった。

俺だってソラのこと言えたもんじゃないんだけど。

「フェニアース!」

ハツカネズミが金切り声を上げた。

きんきんしてうるさい。

しかし俺の横を掠めた銃声によって、ハツカネズミはおとなしくなってしまった。

言わずもがな、その銃声はピーナがハツカネズミに向けたもので、見事に命中した。

「ぴ、ピーナ…。ナイス命中」

「当然でしょ。私を誰だと思ってるの?」

神様仏様ピーナ様です。


俺はクリストファーと強く抱き合った。

クリストファーと会うまでタスラの「裏切り者」という言葉が頭をぐるぐるしていたが、クリストファーは何も聞かずに俺との再開を喜んでくれた。

もちろんクリストファー1人がよければシュバート一家みんなが良いと言う訳じゃないけど、それでも俺の気持ち的には報われる。

「だいたい予想はしてたんだが、まさか聖獣様が自ら来るとはなぁ」

ははははは。

と少し焦げたちょび髭を撫でた。

「予想って?クリストファーなんか知ってるの!?」

俺がクリストファーに詰め寄ると、クリストファーは相変わらずにへらっとだらしなく笑った。

その時ピーナがハツカネズミを片手で鷲掴みにしながら俺の横に立った。

ハツカネズミはピーナの拳銃によって気絶している。

「いやぁ、それよりもケリアがこーんな可愛い女をはべらせていたとはなぁ」

「はべらすとか言うな!」

ていうかむしろ逆!

自分で言うのもあれだけど!

考えている間にピーナはグーでクリストファーにアッパーを食らわしていた。

クリストファーの吹っ飛び方を見ると、どうやら今日のピーナはすこぶる調子がいいらしい。


「洞窟だよ、どーくつ」

クリストファーが親指で下を示した。

俺は背後で不思議そうに首をかしげたソラと顔を合わせてからまたクリストファーを見つめた。

「洞窟って…。あれっ?」

あの時嘘だって、クリストファーそう言ったよね?

あれ?

あれれれれっ?

「あぁ、ケリアには嘘ついた」

また嘘かぁー!!

クリストファーがへらへらしながら「わりぃ」と言ったが、謝ればいいって問題じゃないぞオイ。

「ケリアのことを信じてなかった訳じゃなくてさ。知らない奴の方が多いっつーか、知らない方が幸せっつーか」

遠くでまたしても爆音。

ソラが正気に戻っても止まることのない聖獣たちの勢い。

カスティーダは無事だろうか?

「俺たちが悪事をしても許されていたのは、千年前からこの場所を守っていたからだ。今でこそそれを知っている奴はほとんどいないが、この洞窟は世界の災厄にとって重要なキーとなるんだよ」

俺はソラを見上げ、ソラも俺を見下げた。

俺たちはここから始まり、ここで終わる。

「俺は聖域と聞いた」

始めよう。

そして終わらせる。

さぁ、一緒に。




これにて4章おわり。


4章が終了いたしました!

とうとう次章は最終章となると思われます。

聖獣様の登場が少なく、また見苦しい点も多々あるようなこの小説に、読んでくださる方がいることを本当に嬉しく思っています。

もう少しだけ終わりに向けてわたしもケリアもあがきますので、よろしくお願いします。


そしてアンケートにご協力してくださる皆様、ありがとうございます。

反映されない方々には申し訳なく思っています。

それでも読者様の素直なお気持ちが知れて、とても楽しく、時に刺激的に受け止めております。


では、最終章に向けてもうひとふんばりいたします!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ