3. 私の優しくて愛おしい幼馴染に対して暴力ツンデレになってしまうのだけれど……
私こと立花飛鳥には幼馴染兼彼氏がいる。私はどうも照れ隠しに罵倒や暴力をふるってしまう悪癖がある。もちろん治そうと、今頑張っているのだけれどあいにく成果は出ていない。それには私の彼氏である富岡壮太が優しすぎる事も関係していると思う。だって彼は私が罵倒や暴力をふるっても笑いながら許してしまうのだ。むしろ嬉しそうな顔をしているのではないかとすら思う事すらある。でもそんなのは言い訳だ。だから私は自分のこの悪癖を直すために頑張ろうと思う。
なのに……今日もやってしまった……壮太のテストの成績がひどかったのでつい怒ってしまったのだ。私は彼と同じ大学に行きたいから勉強をがんばってほしかったのだ。でも、それならもっと素直に言えばだけなのだが、つい罵倒をしてしまった。今日謝るときに一緒の大学に行きたいのだと言ってみよう。二人っきりの時ならば私も多少は素直になれるから、そして私と一緒の大学に行くために、彼が頑張ってくれるといいなと思う。
今日怒鳴ってしまったお詫びにと、私は近所のカフェでケーキを買って持っていくことにした。お店のショーケースには美味しそうなケーキがいくつも並んでいる。
「いらっしゃいませ、お持ち帰りでしょうか?」
「ええ、持ち帰りでお願いします。この新製品のケーキはどんな味ですか?」
ショーケースを見てると店員さんに声をかけられた。バイトなのだろう。私と同世代である少年が対応してくれた。色々あるものから一番目立つものを指さして聞いてみる。壮太は甘すぎるものよりもさっぱりしたものが好きなのだ。せっかくだからと、どんなケーキが食べたいのかもラインで聞いてみたが、何やら忙しいのか既読がつかない。どうせアークナイツでもやっているのだろう。早く会いたいし、こっちで決めてしまおうと思う。
「ああ、それですか。甘くておいしいですよ」
「え? あ、はぁ……じゃあこっちのショートケーキはどんな味ですか?
「それはですね、甘くておいしいですよ」
だめだー、この店員さんは味の説明が全然できてない……このお店大丈夫なんだろうか? 私が不安に思っていると店の奥から一人の少女が走ってやってきた。
「語彙力ぅぅぅぅぅ!! 例えるならばSF映画で何もわかっていない無能な上司が、新型兵器の説明をしている場面に出くわした気分です!! 一条先輩はキッチンに戻ってください。私が変わりますから」
「え、でも誰もいなかったから対応してたんだけど……」
「いいから早く戻ってください!! ケーキの説明ですよね、私に任せてください。こちらは季節のフルーツをたくさん使っているもので、クリームの甘さも果実の甘さを引き立てるために控えめにしてますよ。ショートケーキのイチゴはあまおうを使っているので少し値ははりますが、味は保証します!!」
「あ、そうなんですか、じゃあそれと、このショートケーキをお願いします」
私は後から来た女性の店員さんにお礼を言ってお店を出た。壮太は喜んでくれるだろうか? ついでにスーパーでもペットの餌を買ってから私は壮太の家のチャイムを鳴らす。
「なんでライン返してくれないのよ」
「ごめんごめん、ちょっとバタバタしてたんだ」
「ふーん、返信なかったからケーキは適当に買ってきたわよ、嫌いな味って言ったら両方私が食べちゃうからね」
会えた嬉しさで、ついまた、意地悪なことを言ってしまった。うう……内心で反省しながら私は彼にケーキの入った袋をみせる。すると彼は本当にうれしそうに微笑んでくれた。
紅茶を淹れてくると彼に言われ部屋へと向かう。今日はちょっとがんばって甘えてみようと思う。彼の家に二人っきりだし……私は確かに恥ずかしがり屋だけど二人っきりの時なら多少は甘えれるのだ。私は胸をどきどきさせながら彼の部屋へと入った。
まず目に入るのは雑に隠されたエッチなDVDである。まったくあの男は……彼女来るときくらい隠しなさいよと思う。ちょっとした……本当にちょっとした、興味本位でみてみる。『マジックミラー号』うわぁ……男の子ってこういうのが好きなのかしら。マジックミラーにする意味ってなにがあるのだろう……まったくあの変態は……
頭を抱えつつパソコン画面を見ると『幼馴染ざまぁ』と書かれた小説だった。彼はこれを読んでいたのか、興味本位で読んでみる。どうやら暴力系ツンデレ幼馴染に嫌気がさした主人公に、その幼馴染がこっぴどく突き放される話の様だ。そして、その主人公は幼馴染を突き放した後になぜか、清楚な美少女と仲良くなるという話である。彼は、なぜこれを読んでいたのだろうか……どんな気持ちでこれを読んでいたのだろう……私の頭に嫌な考えが浮かぶ。
--もしかしたら彼は私に愛想をつかして離れようとしているのだろうか? --
それを想像しただけで私は目の前が真っ暗になるのを感じた。そりゃあそうよね……すぐ罵倒してくる彼女なんて嫌に決まっている。私だってそうだもの……
「飛鳥様お待たせーー!!」
「あ……壮太……」
元気よく扉を開ける壮太に私はかろうじで返事を返す。ああ、勝手にパソコンをみていたなんて知られたらもっと嫌われてしまうかもしれない。彼がいれてくれた紅茶に口をつけるが全然気持ちも落ち着かない。
私は動揺している姿を隠しつつ、ケーキの入った袋を渡す。すると彼はなぜか一瞬怪訝な顔をしたが笑顔で袋から中身を取り出して……あれ、ペットの餌じゃない!? え、なんで普通に食べようとしてんのよ!!
「ちょっと、そっちじゃないわよ、え、何で普通に食べてるの? それはうちのペット用の餌よ!! 早く吐きなさい。私が渡そうとしたのはこっちのケーキなの!!」
終わった……それから先のことはよく覚えていない。なぜか彼にペットの餌を食べさせてしまい、私は余計混乱してしまったのだ。というかペットの餌を食べさせる彼女なんて嫌に決まっている。結局私の頭の中はその後も混乱したままだったで、そのまま帰宅してしまった。
なんとかしないとと思った私は彼が読んでいたサイトで小説の続きを読んでみる。どうやら幼馴染を捨てた主人公は清楚系お嬢様と幸せになるらしい。ああ、簡単だ。それなら私は暴力系ツンデレではなく、ライバルの清純系お嬢様になればいいのだ。私はポニーテールを解いて、髪を下ろし鏡をみながら顔を優しくみせるためのメイクを練習をする。なかなかメイクが上手くいかず、結局ほぼ徹夜になってしまったが彼は喜んでくれるだろうか?
翌朝彼は私の変化にびっくりしていたが、困惑しつつも手をつないでくれた。私はそれが嬉しくて、すごい恥ずかしいけどその手を握り締めながら登校する。
教室がざわっとしたが正直そんなことはどうでもよかった。これでよかったのだろうか? これで彼は私を見直してくれただろうか? と思っているとラインが鳴った。
『次の休み時間にちょっと話せない?』
『わかりました』
私はラインを返して涙をこらえながらラインを返した。やっぱりだめだったのだろう……彼と目があったが思わず私は目をそらしてしまった。そうして私は休み時間に屋上へと向かうのであった。
今回の話は甘い感じの話を書くをテーマにしているので、幼馴染はヒロインはひどい目には合わないのでご安心ください。
面白いなって思ったら評価やブクマ、感想いただけると嬉しいです。特にこういう最初から両想い系は初めて書くので感想もらえると特に嬉しいです。