第七話 予想の外 光源はPCだけ 閉鎖暗室蒸し咽せ相部屋
男は仕事場となる場所へ来て、自身の想定の甘さに、がくりと、肩を落とす。
そこは、真っ暗だった。
ぷっ、ブゥオオオオオオオオンン!
何か電源が入る音とともに、そこにあった大量のパソコン、100台程度が一斉に起動を始める。
どうやらそこは、PCルームであるようだ。
だが、空調の類は作動しておらず、照明は無い。
PCのみが明かり。
部屋の温度は優に30度は越えている感じであり、湿気で禄に前が見えなかった。まるで霧煙が立ち込めているかのようで……。
それが用意されたデスクトップPCのまさかのブラウン管モニターの表面を曇らせている。
マウスもキーボードも安物の、長時間使っていると、手とかが痛くなる、人間工学ガン無視のタイプのものだ。
周囲の者たちは、男以上に狼狽していた。
そのうちの数人はわめきたてている。何だこれは、話が違うぞ、と。
だがそもそも、運営は快適な環境での仕事なぞ保障してはいない。だから、これは、応募者側の甘さの問題なのだ。
運営は彼らをしょっ引いて、説明を始めた。
「入力する内容は数字。ひたすら数字。貴方方にその意味を理解しろだとか言うつもりはありません。唯、間違いがないように打ち込んでください。間違えの率が5%を切っており、一定量以上の入力を果たした方々には追加報酬を差し上げます。また、入力量の多い方の上位数パーセントの方々のも追加報酬を差し上げます。その二つが重複する場合、両方の分の追加報酬をちゃんと払います。額は予め決まっていますが、それは今は提示しません」
男と同室の応募者たちは、歓喜の声をあげた。だが、男はそうせず、逆に顔をしかめていた。男は思っていた以上に面倒なことになりそうだと予期したからだ。
これでもし、休憩時間中に外出などができる自由時間があったとすれば、これは唯の耐久バイトから、極限状態のバトルロワイヤル、サバイバルバイトに変貌する。
バイト代を増やすには、自分以外の他の挑戦者の脱落が、最も容易な手段となるだろうから。
「実験的意味合いがありますので、後で提示することとなっています。額が後決めでない証拠は、実験終了時に貴方方に提示します」
その条件が現段階で不明というのも実に上手い。運営は、サバイバルを、競争を、煽っているのだ。
つまり、PC入力なんていうのは、唯の釣り餌。メインは、醜い争いをさせるという実験なのだと男は理解した。
「開始は正午からです。貴方方は今誰もが時計を持っていません。PCに表示されている時計はでたらめです。現時刻も知らせません。ですが、正午に席についていた人たち以外は、脱落とします。なに、席の数は既にいる脱落者のおかげで、十分足りています。ふふ、では、開始を楽しみにしています」
そこでアナウンスが切れた。
他の者たちは最後のそれを聞いて安堵しているが、男はそうではなかった。
そこには隠された情報があったからだ。だが、それは少し考えれば、時間が少し経てば分かるであろう話。
ここに用意されたパソコン、キーボード、マウス。どれもが本当にまともに動く、と思うか? ということ。
そして、椅子、机。どれもがまともに長時間使える状況であるか、ということ。
争いを誘発させる仕込みを幾つも運営がしているのは明らか。なら、そこに絶対、格差は仕込んであるなんてことは、容易に予想できる。
それに、このスタートダッシュでライバルを減らしておけば、後になって慌てたり、毛落とされるのを恐怖したりする度合は減らせる。
24時間、大量のライバルと緊張状態なんて目には誰も遭いたくないだろうから。