第六話 前哨戦最終段階 集合時間に間に合わせろ
男は予想していた。予期していた。時間に間に合わないなんて可能性があるかも知れないと。
だから、男は早めに起床するつもりだった。だが……、現在時刻は午前9時30分……。男はギリギリまで眠ることとなってしまったのだ。
男の家から集合場所である駅までは5分。それでも男がギリギリと判断したのは、ただ集合場所に5分位前に付くだけでは事実上の遅刻となると考えていたからだ。
このバイトにどれだけ人が集まるか。
それが答え。
男は、運営からのメールに書かれた番号から予測していた。
SY3546S。
前から二文字が集合場所となる駅を示していて、最後の一文字が集合の曜日を示している。そして、間の四文字は、そこに集まる者たちのうち、自分が何番目に申し込んだかを示している。分母は不明。そして、男は二日前の段階で申し込んだにも関わらず、付けられた番号はこの有り様だった。
こういった申し込みは、前日、期限数時間前に急増するもの。なら、五桁に届いているなんてことがあってもおかしくはない。
このバイトはそれだけ、あり得ないくらいにおいしい、おいしすぎるバイトなのだから。
男が駅に着くと、あり得ない量の人々で溢れていた。それも、普段駅にいないような者たちで占められている。男の予想を遥かに超えていた。
炎天下。サウナのように、じりじりとした熱気を放つ地面と空からの熱だけではない。そこに集まる、ガテンな感じ、薄汚れた感じ、そんな恰好のむさくるしい者たち。彼らから放出される、むぅぅんとした臭気と、雑巾のような湿気。
中心は何処だ、と男は焦る。
時間は残り5分。その間に男は、自分が集合場所にちゃんと来ていると証明しなくてはならない。
中心部は、分からない。
男は困惑する。
あと3分。
進展はない。男は立ちぼうけていた。そもそも、まともに移動すらできない、肉団子寿司詰め状態なのだから。
あと1分……。
男はゴリ押しすることに決めた。
自分がここにいる。それを証明する。なら、呼び掛けだ。呼び掛けるしかない。この上ない大声で、
「第二十四回 24時間アルバイト、 SY3546S 来てますぅううううう! 運営の人、SY3546、来てますよぉおおおおおおおおお」
叫び、叫び、叫び、
「SY3546S 来てますぅううううう! 運営の人、SY3546、来てますよぉおおおおおおおおお」
叫びまくった。
すると、
「了解しました、SY3546Sさん。受け付けましたよ!」
何処からか、メガホンでそう聞こえてきた。
男はやり遂げたのだ。
男の後にも同じ方法を採るかなりの数の者たちがいた。だが、彼らは互いに同時にそうしたので、彼らは自身の番号を運営側に上手く伝えることができなかった。
それに、男が上手くいかせてから、残った時間は数十秒しかなかったのだから、当然かも知れない。
しめしめ、と男はにやりとしながら、運営が用意した移動手段、トラックの荷台へと、出荷される羊のごとく、他の応募者たちと相乗りし、決戦の地へと向かっていった。




