第四話 寝貯め以外の策 その2 手作り寝落ち防止グッズ
男が足を止める。
時間は朝の10時くらいだった。
男はちょっとした遠出をしたのだ。そして、今、男は海の前に立っている。砂浜の前にいる。
天気は昨日同様、晴れ。
大量の海水浴客がいる中、男は昨日と同じ恰好なのだから、酷く浮いていた。だが、男はそんなことを気にするようなやわな精神ではなかった。
目的は、ごみ拾い。
男はその持ち前のフィジカル×燃料ほぼ全開状態で、フルスロットルで浜辺のごみというごみをかき集め、分別してみせた。
偶々だが、予め交渉しており、ごみ拾いの成果如何でちょっとした謝礼と、海の家や出店の廃棄食料その日の分全てを頂戴できることになっていたのだ。
男はその機会を、燃料補給たけに収めようとはしなかった。
集めたごみの一部から男は寝落ち防止用に幾つかの仕掛けのようなものを作ることにしたのだ。
海の家の店主から貰った、もう要らない、ほぼ切れない錆びた包丁を貰い、それを無理やりその辺の石で砥いだ後、男は作業に取り掛かった。
パンパカパーン!
『ハチマキ:ユルサンコックリー』
主な材料はその辺の木片。それを棒状に尖らせた長さ2センチ程度、太さ5ミリ程度の槍のようなものを数本用意した。そして、同じく廃材のタイヤゴム。それを割いて、括って、自分の頭に付ける鉢巻の如くものを作り出した。そして、タイヤゴムに釘で、ハンコ注射のような穴を開け、そこに木片を差し込む。
そう。これを付け、寝てしまったら最後。額に大量の木片が突き刺さる、ということだ。欠点は、一度使えば木片の総取り換えが必要なこと。
男はまだ作業を続ける。
パンパカパーン!
『コメカミアッパーク』
顔の横。アゴの少し上の辺り。コメカミ。そこを圧迫すると眠気が飛ぶらしい。それを利用した装置。
千切れたベルトに穴を開け、顔に巻けるようにし、左右のコメカミの位置に、2センチ程度の小石をゴムチューブを切り裂いたもので括り付けたもの。ベルトの絞め具合を変化させることで圧迫度合を変化させることが可能。
男はまだまだ作業を続ける。
パンパカパーン!
『アシウラツボオシー』
廃棄されたクシの毛先を短くカット。それを、切り開いて平たくし、足裏の形にカットしたゴムチューブに穴を開けて差す。
当日、靴の中に仕込み、眠気を感じたとき、地面を強く踏み抜けば、刺激で眠気を吹き飛ばせるであろうという、自発的な睡眠防止の品。
男は、海岸を後にした。男は謝礼の5000円札を握り締め、それを使い、更なる睡眠防止の策を打つことを決める。もう昼の3時をまわっていた。