第三話 寝貯め以外の策 その1 食い貯め
寝落ちを防ぐ品というのは、この世知辛い現代には溢れている。だが、それらの多くは有料だ。そう高くはない。普通の人にとっては。だが、男にとっては、それは手の届かないものだ。常に金欠の男には。
男は大食いだった。
脳筋的高給な過酷な肉体労働系アルバイトを普段はいくつも掛け持ちしている男の、並みのサラリーマン以上の稼ぎは、その体を維持する為の食事代に消えていた。
飯を減らすということを男は考えなかった訳ではなかった。
だが、そうしてしまうと、男は、まるで見せ筋の如く、ひ弱になってしまい、まともに仕事できないのだ。
だから、食費は削れない。
当然、だから、家電は買えない。布団すら持っていない。かつかつ過ぎる、汗と涙と塩っぽさでできた生活。
男はそれを少しでもマシにしたかった。そんなときに手にしたのが、昨日のチラシだったのだ。
家を朝4時頃に出た、昨日と同じ恰好で男が向かった先は、あるゴミ捨て場。そこには、この時間に、コンビニの廃棄弁当などが並ぶのだ。
普段はそれらに手を掛けないように男はしていた。もしもの時の手段として取っておいたのだ。
男がそれにがっついたなら、廃棄されるそれらの数十~場合によっては数百キロにも渡る食料は、全て男の腹の中に納まってしまうだろう。
そうなれば、廃棄食料はここでは得られなくなる。他の、これらを常に宛てにしている者たちから面倒な嫌がらせを受けることになるかも知れない。
実質一箇所一度しか使えない。それでも男は、今日でここを使えなくなっても構わない、と思って、周囲のハイエナのような奴らをぶっ飛ばすかのように押しのけ、それらの全てを腹の中に掻き入れた。
男は、恨めしい大量の視線を背に受けつつもびくともせず、
「もう二度と来ん。今日だけだ。だから、台風にでも巻き込まれたのだと、我慢してくれ」
そう言い残してその場を後にした。
「流石にこれだけ食えば問題ないだろう。明日の昼までは確実に保つ」
そんな独り言を呟きながら、男は次の目的地へと向かう。次なる策を仕込む為に。




