第二話 ある一人の男のエントリー
そんな、奇妙な文体の黒字の文字だけで書かれた絵のないA4の大きさのチラシが、都会の街中である夏の日の晴れ渡った昼間、配布されていた。
至って普通の背丈で、上は無地の半袖黒Tシャツ、下は青の色落ちしたストレートデニム、靴はなんか安っぽいローテクスニーカーを履いた男。髪の無い頭をした、やけに塩顔なその男は、そのチラシを受け取り、ニタァァ、とほくそ笑む。
いかつい悪人面だ。それに加え、その筋骨隆々で浅黒く焼けた肌をした肉体が、如何にも悪くて危なそうな感じを醸し出している。
男には金が必要だった。必要最低限な暮らしをする金すら男は持っていなかったのだから。
この日は、金曜日。バイトまであと二日だった。
真っ直ぐ帰路についた男は、自身の住むアパートである、家電一つどころか、布団すらない六畳一間のボロっちい古臭い畳の部屋に辿り着くと、その中央に座り込み、その日のうちに、チラシ書いてあるURLにスマホでアクセスし、申し込んだ。
氏名、名前、性別、年齢、最寄の駅、連絡用アドレス。記入すべきはたったそれだけ。
フォームから申し込み、わずか数秒後。連絡用アドレスに通知が届く。男の家の最寄り駅、S谷駅。その北口改札に、日曜日である明後日の午前10時に集合。
男は、まだ夕方前くらいの時間だというのに、そのまま就寝した。
二日後である明後日ではなく、準備期間、猶予期間たる明日と、そして、今日と明日を含めた二日間の寝貯めが、成否を左右する。そう確信して。