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カーテンコール



 ◇◇◇



 ヴォーン王国、王都の大神殿に二人の男がいた。一人は、あのムチャぶり結婚式の日より略式の衣装を身に付けた大神官。もう一人は、展示されている私とルグ様の結婚宣誓書を、苦い表情でめ付けるアンドリュー。うん、もう皇子はやめたでしょ。今さら『様』付けもねぇ。


「返すがえすも、あの結婚式の時に立候補すれば良かったな」


「今となっては詮無せんなき事。グロリア様が太陽神ルグ様に見初みそめられ、嫁いだからこそ、この国は戦乱の渦に巻き込まれる事態を避けられたのです」


 ――コツ、コツ、コツ、コツ……


 足音が響いてきて、一人の少女が近付いてくる。銀髪に青みがかった紫の瞳。私の代りに国王夫妻の養女となって、アンドリューと結婚する事が決まっている、元・侯爵家令嬢のプリシラだ。私よりも年下でギリギリ成人年齢に達したくらいだろう。


「衣装合わせは終わったのか?」


「はい。恙無つつがなく」


「新しい物を用意してやれなくて悪いな。今は急ぎ王になるべきだという声を、無視できなかった」


「いえ。むしろ光栄でございますわ。あの日の、グロリアお姉様のウェディングドレスを身に付けての結婚式なんて……」


「ああ、あの日の彼女はりんとしていて美しかった。プリシラにも似合うだろう。……その、彼女とは面差しも体格も似ているから」


「光栄ですわ。でも、似ているのは外見だけです。真面目だとはよく言われますけれど、グロリアお姉様のように、気の効いた事はおそらくきっとできないと思います。その点は、アンドリュー様をがっかりさせてしまうでしょうから、申し訳ないですが」


「いや、プリシラのような堅実な女性こそ、妻に迎える事ができて幸いなのだろう。帝国の崩壊は時間の問題。周辺国の再編を含め、この国も変わっていく。俺はこの先、新しい国をつくるつもりでいる。どうか協力して欲しい、プリシラ」


「はい。アンドリュー様をお支えし、共に歩んで参りますわ」


「宜しく頼む。――ところで、腕のいい彫刻家がいたら、是非とも仕事をしてもらいたいのだが」


 太陽神ルグ様の、光輝く署名を指先で弾きながらの問い掛けに、大神官とプリシラは揃って顔を見合わせていた。



 ◇◇◇



 大聖堂の中にいるのは、正装姿で式の始まりを待つ、数百人の参列者達。王弟派がごっそりと居なくなり、諸外国の賓客の顔ぶれもあの日とはだいぶ違う。

 ヴォーン王国国王と腕を組んで入場する、プリシラ。今回は途中からちゃんと、アンドリューと二人で大神官の前まで歩いた。良かった、それだけでもホッとした。

 ……王妃は、デズモンドが切り付けられた姿を目にした時に倒れて、きっとそのまま寝付いてしまったのだろう。会場にその姿はない。


 何事もなく結婚式を行い、そのまま即位をして戴冠式に移行する。


「なん……だと……?」


 そこで会場に現れたのは、ご存知我らが黄金甲冑である。王は自ら冠を脱ぐと、黄金甲冑に差し出した。

 国境付近で加護を受けた時のように、跪いて頭を垂れるアンドリュー。プリシラ共々、黄金甲冑から冠とマントを授けられて、王及び王妃となった。


 アンドリューは、大聖堂内にいる人々に向かって宣言をする。


「我らに天よりの恵みを与えて下さる、太陽神ルグ様と……、その妻になった『虹の女神 グロリア』の出逢いの地で、私は新たな王となり、新たな歴史を刻む。偉大なる神々に敬意を示し、国名を相応ふさわしいものへと変えよう。――ルグリア!! これが新たなこの地の呼び名だ。神々の加護を受けた強国となるだろう」


 沸き上がる歓声・拍手・スタンディングオベーション……。たいした役者ですね。

 私は、変わってしまった自分の髪色――元は銀髪で、更に虹色に光を放っている――に目を向けた後、ツッコんだ。


「虹の女神とか、初耳なんだけど」



 ◇◇◇



「不満そうだな」


 振り返ると、ルグ様がいた。噴水に映る黄金甲冑は、いつかのパレードのように、手をゆっくりと振り続けている。だからこれは過去の情景なのだろう。


「……それ程、あの男の妻になりたかったのか?」


 ルグ様はやや固い声音で話し掛けてきた後、私を横抱きにして、きつく抱き締めてきた。


「そんな次元の話ではないのです」


 答える私の声も固い。ええ、ええ。何というかアレですよ。いつもおいしいところを全部持っていっちゃう先輩に、やっぱり持っていかれたアトのような、この遣る瀬無さ。「必死さが見え過ぎてツラい」とか笑われたから、私もキレたさ。でもちょっとは脚本家の事とか、音響プラン・照明プラン、スタッフの事だって考えなさいよー!

 どうせ私はみんな持ってかれちゃう星の元に生まれたんだー、とかイジイジねていると、その心を読んだのだろう。ルグ様の抱く手が優しいものになった。


「グロリアはみな持っていかれたと嘆いているが。あの男がグロリアに何かをしてくるかもしれない地上には置いておけなかったし、もう関わらせたくもなかった。許せ。今グロリア自身を、まるごと全て手に入れたのは私だ。これからはグロリアの全てを私で満たそう。だから機嫌をなおしておくれ」


 ……クッ! オトメゴゴロを盗んだ大怪盗みたいなオチにしようってか? 「盗んだのはグロリア自身です」ってか? キライじゃないぜぇ、そういうの。よしわかった! デレようぞ!!


 ルグ様は微笑んで、私の髪をサラサラと手で梳いた。


「虹の女神、か」


 その声に反応したのか、噴水の映す景色がまた変化した。……どこかの工房? 石工らしき男性が、白い石を彫っている。


「これは今の様子だ。あの男――アンドリューが、グロリアの彫像を作らせて、大聖堂に寄贈したいと言っていたぞ」


 だから、そーゆーところが、そつが無くて悔しいというか、勝てないって思い知らされるんだよなー。


「完成したら、仲良く並んで飾られる事だろう。あの男が道を誤らない限り、我の加護が、その行く末をあまた照らす。グロリアが生まれたあの地を、憂う必要もない。私と睦まじく暮らそうではないか」


 ルグ様のその言葉通り、私はずっと神界で過ごす事になる。

 アンドリュー・プリシラ夫妻に第一子が誕生した頃に、私の彫像も大聖堂に安置された。そして、雨乞いの際に祈りを捧げられる名となり、信仰を集めるようになっていく。

 元が人間の私は、その信仰を力に換えて、漸く神様らしい行いが可能になった。雨を降らせたり、雲を動かしたり形作ったり、虹を見せたり。


 太陽神ルグ様の妻として、『虹と恵みの雨の女神 グロリア』になりました。




 読んで下さって、ありがとうございます。


 これにて、本編完結になります。


 皆様に是非ともお願いが……。


“ざまぁ”を引き寄せる『じゅもん』

『もぐ』の下二段活用・なんちゃって風


もげず、

もげたり、もげて、

もぐ。

もぐとき、

もげども、

もげよ!(もげろ!)


と、


ザマ』


 よろしければ、是非とも使って下さい。

 流行るといいな。


 ええと。同じ世界観で、違う登場人物達のお話(短期連載)を予定しています。これからは、連載中の作品を優先するので、いつになるかはわかりませんが。

 で、そちらの作品とリンクした番外編を投稿するつもりでいます。


 不定期になりますが、今後ともお付き合い下さいませ。


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