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並行世界少女  作者: ゆうレイ


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2/2

日常

胃がキリキリする……。目を瞑っていても分かる。毎朝襲ってくる緊張の腹痛だ。大学の入学式から早1ヶ月、胃腸はこの生活に全く慣れてくれない。電車の揺れが不安定な胃の中をぐちゃぐちゃにかき回してくる。皮肉な話だ。私が望んでいた事が今では私を苦しめてくる。本当に、私は何がしたいんでしょう。自分の事なのに何も分からない。「何かしないと」って気持ちだけが空回りして結局何もしていない。まるで回し車、走っているはずなのにその場から動けていない。

「はるちゃん、そろそろだよ。起きて。」

耳馴染みのある優しい声にもうろうとしていた意識が突然現実に戻される。

「おはよ、はるちゃん。」

寝起きの目に天使のような眩しい笑顔が飛び込んできた。思わず視線を窓の方にそらす。

「おはようございます……唯さん。」

古川唯。小学校の頃からの幼馴染。誰にでも優しくてみんなを笑顔にしてくれる、まさに天使の具現化みたいな人。真逆のネガティブな私がどうして仲良くなれたのか、私もよく覚えていない。

「今日はちょっと遅いんですね。月曜日は一限では?」

「臨時休講になったの。メッセージ送ってなかった?」

メッセージアプリを開ける。確かに唯さんからメッセージが来ていた。

「ごめんなさい、眠すぎて見る余裕がなくて…。」

「月曜日だもんね。私もよく寝ちゃうよ。」

唯さんはまたあの眩しい笑顔を私に向ける。

「まもなく、夕霧、夕霧、お出口は、」

「あっそろそろだね。行こう、はるちゃん。」

横に座ってた唯さんが立ち上がる。普段はギリギリまで座っておくタイプだけど一緒に行くなら話は別。隣にいるだけでも私は嬉しい。

「ゆい、おはよー。」

「舘さん、おはよー。」

「もう、まだ名字なの?そろそろ名前で呼んでよ〜。」

「えへへ、急に名前で呼ぼうとすると慣れなくて。」

だけど時々、唯さんの姿を見るたびに思う。あの人はいつも輝いてて、入学式の日から友達もできてて、いつも誰かに話しかけられてて。私は……唯さんの隣にいたらダメじゃないかって。唯さんの足枷になっているんじゃないかって。すごい人です……。私では釣り合えない。

「唯さん、私お手洗い行って来ますね。」

「うん、また後でね、はるちゃん。」

電車のドアが開く。誰よりも早く電車から飛び降りた。



何とかトイレに間に合った。そう息をついたのもつかの間。その瞬間胃から口の中に液体が逆流してくる。口内が熱く、そして苦い。たまらず便器に吐き出した。量は少ないがその分苦みが凝縮されている。今朝食べた熟れてないりんごが見えた。それ以外はほとんど液状になっていて区別がつかない。口の中はまだ苦いままだけど吐いたおかげか少し楽になった。

「はぁ、はぁ。」

私よりも唯さんの隣にいた方がいい人なんていくらでもいる。分かっている。なのに私は唯さんの隣に私以外がいる事を許せていない。唯さんの友達の一人にすぎないのは分かってる。頭では分かっている事なのに許せていない。許せていない自分が許せない。さっきとは正反対の感情が私を誘惑してくる。

トイレのレバーを引く。ゆっくりと汚いものが渦の中に呑まれていく。それを見ているとと気持ちが少し楽になった気がした。トイレのドアを開け手洗い場に向かう。鏡に映る自分はとてもじゃないが元気とは言えなかった。



少し帰るのが遅くなってしまった。普段ならとっくに家に着いている時刻だけど今日はまだ駅のホーム。別に用事があったわけじゃない。帰れない理由があったわけでもない。ただあのどんよりとした家に長居したくなかった。また何もない一日が終わるのが嫌だったから。

「まもなく電車が参ります。黄色い線の内側でお待ちください。」

だけど何かしたい訳ではない。そもそも何をすればいいのか分からない。自分に問いただしても頭の中の私は誰一人答えてくれない。もう一人の私はどこで何をしているんだろう。助けて欲しい時に限って答えてくれない。

ホームから電車に来る。通り過ぎていく電車の車両には誰も乗っていない。空っぽだ。電車の扉が開く。空いていたから一番隅っこの席に座った。


寂しい家についてしまった。中白色の灯りが部屋を照らす。いつもの部屋のはずなのに今日は一段と冷たく感じた。

「ただいま、我が家さん。」

もちろん返事はない。だけどこの静寂に囚われていると気が狂ってしまう気がした。硬い床の上に寝転がる。今日は普段よりずっと何もする気が起きない。何もかもがめんどくさくなってしまっている。

「……お風呂は明日の朝入ろう。」

無気力な体を起こして冷蔵庫まで歩かせる。だが冷蔵庫の中身はほとんど使ってない調味料しかない。寝る以外のやる事がなくなってしまった。だけど風呂に入らず布団に入るのはちょっと抵抗がある。

「寝るか……座椅子で。」

座椅子に思いっきり倒れこむ。よれよれのクッション越しに金属のフレームが突き刺さった。

「グフ……。」

小さなうめき声が漏れる。椅子という機能を果たせなくなってきているらしい。背中をさすりながらスマホを見る。唯さんから連絡がきていた。

「明日も二限からだから行けるよ!(^_^)」

無意識に口角が上がってしまう。口元のニヤニヤが止まらない。まだこんな私の面倒を見てくれている。唯さんが私のことを考えてくれているのが分かる事が何よりも幸せ。理屈とか理由は私にも分からない。だけどそれだけで胸がいっぱいになる。

「……ヘヘ。」

だめだ、笑いすぎてほっぺたが痛い。ひきつった部分を指で押し下げる。けれど笑いを堪えようとすればするほど笑顔が反発してくる。

「ヒヒ……ヘヘ……ハハハ。」

うまく呼吸ができない。だけど心は今幸福感で満たされている。呼吸を落ち着かせるのが惜しい。もうしばらくこの幸福に溺れていたい。

次回の更新はストックがちょっと……。

貯金してきます。

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