サメの歯(shark teeth)―予備装置(spare)―
鮫川はハイボールとレモンサワーと鶏の唐揚げとタコの唐揚げとエイヒレとチャンジャと子持ちししゃもと焼き鳥と海鮮チヂミと揚げ餅を筆頭に、酒と揚げ物と肉と魚と小麦粉と炭水化物がしこたま詰まった、妖怪ぬっぺふほふに似た腹をさすりながら上機嫌で歩いていた。
「龍波~。もう一軒、もう一軒どうだ~?」
龍波は鮫川の大学時代の友人で、居酒屋でお互い一人で飲んでいたところ、偶然にもおよそ二十年ぶりの再会を果たしたのだった。
「さっきの店で三軒目だろ。もういい加減、そろそろ酔いを醒まして帰った方がいいぞ。足元ふらふらじゃないか」
鮫川と龍波はコンビニでペットボトルの水を買い、公園のベンチに腰を下ろした。
「鮫川お前、食い過ぎだし飲みすぎじゃないか。いつもそうなのか?そんなだから太っちゃうんだぞ。若い頃はシュッとしてたのに…。今日だってお前から声を掛けて来なけりゃ俺はお前だって気付かなかったぞ」
「あー、そうか?そうだよな。いや…そうか?」
「そうだよ、太ったよ。腹は出てるし背中にも厚みがあるし、顎だって二重顎になってるし、指まで太ってるじゃないか。クリームパンみたいになってるぞ」
「そうかな?」
「そうだよ」
鮫川は手を前に伸ばしてグーパーした。
「ふう。少し酔いが醒めたな…。じゃあそろそろ帰るか。また近いうちに飲もうぜ、龍波」
「…ほんとに酔い醒めたか?……あっ、オイ!」
鮫川はベンチから立ち上がった途端、足がもつれ、ベンチの角の金属部で顎を強打した。
「オイッ、大丈夫か!?」
鮫川の顎が切れた。アルコールで血流が良くなっていたのが災いし、血が止まらない。
かなり深く切ったようだ。
「病院探すからちょっと待ってろ、な」
慌てる龍波に対して鮫川は冷静だった。
鮫川は龍波をクリームパンの手で制した。
「病院は大丈夫だ。ちょっと待ってろ。すぐ終わるから」
鮫川は顎を両手で触った。顎からは顎髭のように血が垂れている。
「よっと」
鮫川は下顎を外して、予備の顎に取り換えた。
「えっ?」
鮫川は取り外した怪我した方の顎をゴミ箱に捨てた。
「ふう、これでオッケー…っと」
「えっ?えっ?……今、何したの?」
「ああ、今のね」
鮫川は屈託のない笑顔を見せた。
「顎を予備顎に交換したんだよ。使っちゃったからまた蓄えないと」
鮫川の二重顎は無くなってスッキリしていた。
「じゃあ、またな。また今度連絡するわ。今日は久しぶりに話せて楽しかったよ。龍波も気をつけて帰れよ」
龍波はすっかり酔いが醒め、自分も万が一に備えて予備顎を蓄えておいた方がいいものかと考えながら歩いて帰った。




