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曰く付きの館  作者: 木染維月
第四章 詩情
25/39

 一気に人がいなくなった。

 確かにあの人口密度はもうごめんだが、こうも差が激しいと寂しいような気分になる。


「静かだなー・・・・・・」


 なんて、ひとりごちていると。


「どうじゃ? あの三人は」


「うわっ‼」


 知らぬ間に、背後に暮葉さんが立っていた。袖を口元に当てて僕のリアクションを笑っているのさえ色っぽくて、一周回って腹立たしい。


「居たなら言ってくださいよ・・・・・・。で? あの三人は何者なんですか?」


「む、そう来るか」


 おかしそうに言う暮葉さん。何が面白いのかよく分からない。


「何者も何も、あやつらは私のてし・・・・・・部下じゃ。かなり性格に難があるがのう・・・・・・。忠実に働いてくれておるのなぞ広樹くらいしかおらん」


「今、手下って言いかけませんでした?」


「気の所為じゃろ」


 そう言って暮葉さんは、僕の隣に腰を下ろす。揺れた髪から漂ってきた金木犀の香りに、思わずドキッとした。


「――正確に言うのなら、桃音は私の部下ではない。じゃが友人とも少し違う。いつか奴が言っておった。『私には、あなたを裏切る理由も裏切らない理由もないんだからね』とな。実際チータスの部下とも精通しているようじゃし、奴のことは私もよう分からんのじゃ」


 ・・・・・・少し意外だった。

 一番暮葉さんに忠実なのは彼女なのではないかと、第一印象での勝手な決めつけだが、そう思っていた。だが――部下では、ない?


 そんな僕の疑問を無視するように、暮葉さんは続ける。


「広樹は私に惚れて仕事をしてくれておる。じゃが――あいつもよう分からんくての。表情にあまり出ない奴じゃから何を考えているのかよう分からんし、それに、奴の生い立ちを考えれば――私のことなぞ怨んでおっても可笑しくはないのに」


 僕は、何も言わない。

 暮葉さんは、更に続けた。


「楓は――まあ、分かるじゃろ? 絶対何か隠しておる――いや、隠している訳ではないのかも知れんが、少なくとも内に秘める何かは絶対にある。少しでも突っ込んだ質問をすればすぐに『えー、わかんないですよ。あたい馬鹿だから』と抜かしよるし・・・・・・」


 暮葉さんは溜め込んだものを吐き出すようにため息をつき、目を伏せて言った。


「・・・・・・怖いんじゃ。チータスの奴が支配する部下に比べれば、私の部下は忠誠心も人数も圧倒的に下回っておる。でも人数が要るんじゃ。こういった形でそなた達を巻き込んでしまっていること、本当に申し訳ないとは思っておる。それでも――チータスの所業を看過するなど、私には出来ぬ。それは絶対なのじゃ――」


 そして、あの凛とした様子はどこにもない、小さな、本当に小さな声で。



「・・・・・・私には、無理なのか」



 ぽつり、と。


 呟く声は、震えていて――。


「な、なら」


 僕は、言う。


「僕がなりますよ――あなたの、超忠実な部下に。絶対何があっても裏切らない、チータスとかいう人の部下とも精通しない、信頼できる部下に。それで、僕がチータスの野郎を断罪してみせます。あなたの願いを叶えます。だから――」


 暮葉さんのそんな顔を、見たくないから。


「――教えてください。あなたがしようとしていることと、チータスがしようとしていること」


 暮葉さんは驚いたように顔を上げて、一瞬、僕を見つめる――だがそれは本当に一瞬のことで、すぐに、いつものような不敵な笑みを――


「よかろう」


 ――にやりと浮かべて、言った。


「心して聞くがよい」


 そして。

 唐紅の美女は、語りだす――。



                ◆



 とは言っても、今はまだ多くは語れない。


 この物語は、遥か千年も前から続いている。

 私が語れるのは、そのうちの、現代に未だ続く部分だけ。


 千年前のことは――今はまだ、話す時ではない。



 祐平殿。そなたは、ここに来てから一度でも「窓」を見かけたか? ・・・・・・見てない? そうじゃろう。当然じゃ、洋館にもこの屋敷にも窓は一枚もないのじゃからな。外が見える場所はどこにもない。

 理由か? 理由を問うのか? まぁそうじゃのう、その理由こそがこの話の核心とも言える部分じゃ。


 良いか?



 ここは、異世界などではない。



 そなた達が住んでおる場所をここでは「表の世界」などと呼んでおるが、何のことはない、この場所もまた「表の世界」なのじゃ。人の立ち入らぬ山奥に、こっそり建てられた巨大な館――それが、玄叢館の正体じゃ。


 そして、窓が無いのは、それをこの館の住人に悟らせないため。


 ここは昔からいわゆる「孤児院」で――異世界のような内装は、設立者――私の先祖にあたる人物――が、孤児たちに楽しい気分で過ごしてもらうためのものじゃった。内装ばかりではない、衣装も、食事も、全て――ただ、設立者の優しさだったのじゃ。


 本人の為になったかはともかくとして。

 この館には、優しさしか無かった。


 ・・・・・・まあ、多少は設立者の個人的趣味もあったようじゃが・・・・・・。と、しかし、ここで問題が発生する。――食料じゃ。水は適当に掘ったら沸いてきた、電気も自家発電で事足りた、土地は山奥じゃから有り余っておる、しかし食料だけは――流石に、栽培だけでは無理じゃった。孤児全員をお腹いっぱいにするだけの食料を育てるには、人も、時間も、知識も、全てが足りなかった。孤児に手伝ってもらう訳には行かんからの。・・・・・・何故って? そなたは阿呆か、外で畑仕事などしたら窓をなくした意味がないじゃろうが。


 だから設立者は――自身が度々山を降りて、買出しをしに行った。ここはかなり深い山奥じゃから、相当の重労働なのは分かるな? 一日で帰ってこられず三、四日留守にすることもしばしばだったそうじゃ。これも設立者の深い愛じゃ――祐平殿、そなた、その微妙な顔は何じゃ。・・・・・・外を知らずに過ごすのは可哀想? うむ、まあ賛否両論分かれるところではあるじゃろうが、それでも、孤児達の深く暗い絶望に沈んだ目を見れば分かるじゃろう・・・・・・。その子の物語の舞台がどんなに閉鎖的になろうとも、何も知らないままでも、幸せに生きて欲しいと願うのが愛じゃ。一見すれば可哀想とも取れるが、真実を知らぬままでも十二分に幸せな生涯を送ることは出来る。・・・・・・設立者が、そういう舞台を整えたからのう。



 じゃが、理想は破綻を孕むのが世の常じゃ。この、作られた幸せに気付いた者がおった――それが、チータスの祖先じゃ。確か女・・・・・・名を、柚子と云ったかの。柚子は、大変聡い女じゃった。書庫の本を片っ端から読み漁り、設立者の不在期間と食料の残量の関係に気付き、隠されていた館の出口を見つけ出し――遂に、奴は「外」を見たのじゃ。


 そして彼女は知った。ここが異世界でも何でもない孤児院であること、どうやらとんでもない山奥にいるらしいこと、設立者の優しさで成り立っているらしいこと。だから彼女はその優しさに、優しさで応えた。知ってしまった真相は己の胸の内に留め、設立者に対しても何も気付いていない振りをし通した。――優しさに包まれた館じゃったのじゃ・・・・・・。


 じゃがある時、柚子は過ちを犯す。彼女のつけていた日記を、他人に読まれてしまったのじゃ。そやつは――チータスの伯父に当たる男。彼は知ってしまった真実を無闇と言いふらすような真似はしなかったが、数人の者にその事実を語ってしまった。そしてその中に・・・・・・当時幼かった、彼奴(チータス)がいたのじゃ。


 そして今、彼奴は――この館の住人、即ち孤児たちを、全員下山させることを目指している。皆に真実を教え、「普通」の孤児として都会の孤児院で暮らさせること――それが、奴のしたいこと、じゃ。風花殿を攫ったりして「表の世界」の人間をたくさん呼んだのは、下山する前の情報収集の為、といったところじゃな。「生贄落札会」の噂を流して「表の世界」の人間を呼び寄せたのは、下山前の情報収集といったところなのじゃろう。・・・・・・これだけ聞くとチータスの奴の行いが正しいように思えるじゃろう? じゃが・・・・・・違うんじゃ。そうじゃない。


 この館は、「囚われてる」と云うにはあまりにも広い。住人もたくさんいて、環境としては、そうじゃな、住人皆が顔見知りの小さな離島と大して変わらないのじゃ。この館の中だけでも充分に幸せな生涯を送ることが出来る。


 それを、わざわざ下山してどうする? ラピスやコパルのような幼子はまだ良い、しかしそれなりに歳を重ねてしまった者は、この館の中とは環境の違いすぎる「表の世界」に馴染むことは相当難しいじゃろう。祐平殿、そなたは想像できるか? どこまでも青い、終わりの見えない天井の下で、やたらと硬くて黒い床を物凄いスピードで鉄の箱が走り回り、その床の所どころには三色のランプが順々に点灯し、時に天井から水が降ってくる。そんな訳の分からぬ世界に突然放り出されて――本当に、幸せだと思うか? 十数年、人によっては数十年、ずっと信じてきた世界を根底から覆して根本的に否定するような世界に放り出されて――楽しく生きられると思うか?


 私は思わぬ。チータスの奴の考えも、一部では正しいが――奴の考えるような、強引なやり方は許されぬ。幼い者はよくとも、年長者までもを一緒くたに外へ放り出すなど・・・・・・私には、出来ぬ・・・・・・。



 ――今私が語れる話は、以上じゃ。


明けましておめでとうございます!!木染維月です。

皆さま年末年始は何をして過ごしましたか?私はひたすら餅とみかんと汁粉を飲んでこたつで寝てました。恐らくは世界で一番無意味な時間でしたね。いやはや。

新年の抱負は投稿スピードを上げることと新しいジャンルに挑戦すること、どこかの大賞に応募することでしょうか。それから今まで敬遠してきた純文学を積極的に読んでいきたいですね。

ともあれ、2019年も館をよろしくお願いします!!

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