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曰く付きの館  作者: 木染維月
第四章 詩情
23/39

 で、今に至る。


「いやちょっと待って!」


「何? お姉ちゃん」


「帰れなくてもいい人じゃない、お姉ちゃんたち! お姉ちゃん、今度こそ本当に泣くわよ!」


 ・・・・・・ちっ、気付かれたか。

 僕だって、本気で皆が表の世界に帰れなくてもいいと思っている訳ではない。でも暮葉さんがあんまり自信ありげだったから、信じてみようと思ったのだ。


 それに、あの色気であんな格好良いこと言われたら、思春期男子として信じるしかないじゃないか。

 苦情は暮葉さんに言って欲しい。


 ――それにしても、暮葉さんの部下の仕事の速さには驚いた。僕がお姉ちゃんたちの名前を言ってから十五分としないうちに(まあ体感時間だけど)、僕の目の前に全員の懐かしい顔が揃っていたのだ。どんな手を使ったのかは、ちょっと考えたくない。


「――で、祐平。その暮葉サマとか言う、秋の孤独の中の鮮やかなる紅一点、美しき終焉の美女は、俺たちに何をしろってェんだ?」


 ズバッと本題に入ってくれる健先輩。・・・・・・いやそれはありがたいんだけれど、暮葉さんに変な異名をつけないで欲しい。

 何だよ、美しき終焉の美女って。「美しい」が同義語反復だよ。


「それなんですが・・・・・・どうも、チータスの手下の『見張り』をして欲しいみたいなんですよ」


「見張り。・・・・・・それで?」


「それで、動きを報告してほしいみたいです。チータスの手下は数が多くて、暮葉さんの部下では足りないのだとか」


「はあ・・・・・・。ンだよ、終焉の美女らしからぬ、しけた仕事だな」


 だから終焉の美女って何だ。

 っていうか、直接会ってすらいないあなたが暮葉さんらしさを語らないでください。


「祐平、祐平、質問ですわ!」


 と、突然、元気よく挙手する小春先輩。手を挙げるのと一緒にぴょんぴょん跳ねているが、高校三年生がそんなことしてもちっとも可愛くないし、そもそも和室で飛び跳ねないで欲しい。


「・・・・・・何ですか」


「見張って欲しいと言われても、見張る人の顔が判りませんのよ? どうやって見張れというのか、教えてくださる?」


 ・・・・・・何だろう、似非幼女だと分かっていても、上から目線で物を言われると腹が立つ。上から目線で物を言うくらいなら、その似非幼女キャラをやめればいいのに。


「それは、暮葉さんの部下が最初に連れて行ってくれるそうです。その、見張る人のところまで」


「へー、そうなんですの」


 自分で訊いておいて興味なさそうな返事しないで下さい。


「・・・・・・祐平。・・・・・・見張りは、いつからするんだ」


 直人先輩も、噂に違わぬ三点リーダーっぷりで口を開く。

 疲れないのだろうか、それ。


「えーっと・・・・・・そろそろ、暮葉さんの部下が迎えに来ると思うんですけど。二人一組で見張るそうです」


「・・・・・・そっか。・・・・・・ありがとう」


 とりあえず、鬱陶しいのでその三点リーダーを取って下さい。せめて一単語めだけにするとか。

 ――って、そうだ。こんな馬鹿四人(うち一人は天才も兼業)に突っ込んでいる場合ではない。今ちょうど直人先輩にも言ったように、二人一組で動くためのペアを決めなくては――。


「はーい、ハイ、は――ぁぁぁあああいッ! 私は祐平と組むから! 皆いいわよね? 祐平もおねーちゃんと組みたいでしょっ?」


 びくぅっ! と、突然過ぎる叫びにこの場にいる全員が肩を震わす。鼓膜が破れるところだった・・・・・・耳の中でキ――ン、と高音が鳴っている。


 二人一組・・・・・・。うん、薄々分かってたけど・・・・・・ッ!

 うるせぇよクソ姉貴!


 ・・・・・・という心の叫びを、純粋かつ温厚な心優しい弟はぐっとこらえて、


「いやーごめんねお姉ちゃん、僕は・・・・・・」


 僕はお姉ちゃんとは違って美しく麗しい暮葉サマの下で、別な仕事をするから! ごめんね変態姉貴! ・・・・・・と言いかけたのを遮ったのは、


「ちょっとミドリ先輩!? このアタシを差し置いて祐平きゅんと組もうなんてそんなコト、いっくら先輩でも許される筈ありませんよねー? 祐平きゅんはアタシと組みたいに決まってますにゃー!」


 あんた誰だよ! 黙ってくださいよ脳無いお華ばたけ先輩!

 という叫びをまたも押し殺した大天使小林祐平は


「いや僕はペアの対象じゃないんですが・・・・・・」


 と発言するも、痴女二人組の耳にその言葉は最早届かず、


「呆れたわ、華ちゃん! 蓮くんに言いつけて吹奏楽部から退部させてやる!」

「せ、先輩、卑怯なりですにゃ! こうなったらミドリ先輩の悪事の数々をぜーんぶ祐平きゅんに言いつけてやりますからー!」


「なぬっ・・・・・・! ならば私も奥の手を使うわ! 華ちゃんがこれ以上祐平に近付くようであれば、祐平から今後一切おやつを取り上げます!」


「姉の特権なんて・・・・・・いや、でも!祐平きゅんなら、アタシとくっつくために、おやつくらいガマンしてくれます! アタシの愛が祐平きゅんに届かないワケがないですっ!」


「あ、愛なら姉である私が負ける筈ないわ・・・・・・!」


「なにをーっ!」・・・・・・・・・・・・。


 僕の与り知らぬところでどんな危険行為が・・・・・・? と、半眼になって痴女二人組に恐怖していた、その時。


 ポン、と、僕の肩の上に乗せられた手があった。


「オイ祐平、あんな痴女ども放っといて、さっさとペア決めようぜ? 終焉の美女もきっとおまちかねだ」


 仕方ないよなあ、というふうに苦笑しながら、な? と語りかける健先輩。


 ――・・・・・・救世(メシ)()だ・・・・・・――!


 かくしてペア決めは、痴女ズの全く関わらないところで、男三人だけで決められたのであった。



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