後編
「ごきげんよう騎士様」
冬を前にして今年最後の薬草採取にやってきました。
「いらっしゃいシェア、寒かっただろう今お茶を用意させているから。」
騎士様が少し緊張しています。笑顔が何かおかしいのです。
私は応接室でお茶を飲みながら騎士様を観察する。
何か心配事があるのならば協力してあげたい。
「騎士様、わたくしの勘違いかもしれないのですが、何か困っている事があるのではありませんか。」
「え、いや、そんなことは無いよ。」
やっぱり何かあるのですね。ですが、私のような子供には話すことができない内容なのでしょう。
「それならよいのです。でも、何かございましたら、おっしゃってください。わたくしは何でもいたしますわ。」
「な、なんでも・・・あ、いや、ありがとうシェア」
――寝静まった森の屋敷で(エリウスとトールス)――
「あ~あ、またですか根性無し、今度こそ告白するのではなかったのですか。」
「わかっているトールス、次は必ずだ。」
「エリウス様、今年はもう雪の季節ですから、ウィサビィラ嬢は来年までこちらに来ることは無いと思いますよ。それで次ですか・・・」
「だが、これはとても大切なことなのだ、もし万が一にも失敗して嫌われてしまったらどうする。」
エリウス様はウィサビィラ嬢のこととなると、なぜここまで残念な人になるのか。
ほかの事はとても優秀なのだが、まるで何かの呪いにかかっているかのようだ。
「いっそのこと今からお部屋に行って既成事実を作ってしまえばよいのでわ。」
「な、なにを馬鹿なことを言っている。そんな不埒なことをすればシェアの心を傷つけてしまう。二度とそのようなこと口にするな!」
「はいはい、では心を傷つけずに、さっさと何とかしてくださいね。」
「くっ、わかっている。」
困った主です。少しだけ手を貸してさしあげますよ。
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いつものお花畑で昼食を終えると、急に騎士様が真剣な顔で私を見つめてきました。
「シェア、君にこれを受け取ってほしい。」
「ありがとう存じます。開けてみてもよろしいでしょうか。」
「ああ」
箱を開けると、とても綺麗な髪飾りが入っていました。
先月お渡しした刺繍を入れたハンカチのお返しなのでしょうけれど、こんな立派な物をもらっても本当に良いのでしょうか。
「気に入らなかったかな・・・」
いけません、贈り物をみて悩んだ顔をしていたら誤解されてしまいます。
「とてもすばらしい物なので少々驚いてしまいました。髪飾りを付けていただいてもよろしいですか。」
騎士様は少し戸惑っておられましたが、わたくしの髪に飾ってくださいました。
「とても似合っているよシェア、まるで美の神アプロディタのようだ。」
「騎士様、お世辞も度が過ぎると素直に喜べないのですよ。」
――森の屋敷で(エリウスとトールス)――
「トールス、確かにシェアはとても喜んでくれたが、あれで他の男へのけん制になるのか?」
「当然です。あの髪飾りは王家と取引のある松平王国の商人から買ったものです。あの方がどう見ても中位貴族では手に入れることの出来ない装飾品を身に付けていれば、周囲の者は高位の男性からの贈り物と考えるはずです。十分なけん制になるのではありませんか。」
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――ある教室の片隅で(第一王子派の学生)――
「コルネウス様、ご報告しなければならないことがございます。」
「どうした。」
「私の弟からミィリシェア・ウィサビィラにはなるべく関わってほしくないと言われました。何か弱みを握られているようですが、弟には情報を一切伝えてはおりませんのでこちらの内情が漏れることは無いはずです。」
「な・・・あれはとんでもない女だな。」
「それと、あの者の尾行ですが難航しております。平民街に入ったところで必ず見失ってしまい、アジトの発見には至っておりません。また、門を見張っていた者も南の街道の途中で見失ってしまい、その後の行動がつかめておりません。しかし、翌日には王都に帰ってきておりますので、そう遠くへは行っていないようです。」
「それだけでは何もわからぬな。」
「それともう一つ、かの者は最近になって松平王国でのみ作られている特級品の髪飾りを付けております。」
「トロイアス侯爵家か?」
「いえ、おそらくですが公爵家又はそれ以上の家だと思われます。」
「・・・・・・・慎重に対応せねばなるまい。可能であればその髪飾りの詳細を確認せよ。出所がつかめるかも知れん。」
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髪飾りのおかげで、少しだけ教室の皆さんとお近づきになれました。
「とても素敵な髪飾りですこと。」
「そうですわ、どちらの商会で求められたのですの。わたくしに紹介していただけませんか?」
森のお屋敷ことはお話できませんし、私も詳しいことは聞いていません。
「これは贈り物なので、詳しくは存じませんの。」
「そうですか、残念ですわ。」
せっかく話しかけてくださった皆様をがっかりさせてしまいました。
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雪の季節も終わり久しぶりに騎士様のところに遊びに行きます。
街道には、行商人の馬車や旅人が行きかっています。
困りました、ここまで人目があるところでは隠蔽の加護は得られません。
仕方なく街道から少し離れた林で隠蔽の加護を得てから騎士様のお屋敷のある森へと向かいました。
夕食を終えて騎士様とお茶の時間です。
「今日ここに来る途中の街道で中位魔獣を巡回の騎士様が討伐されていました。けが人は出なかったみたいで良かったのですけど、王都のそばで下位魔獣以外を見たのは初めてです。」
「君は巫女で直接の戦闘力は弱いのだから、あまり危険な所には近づかないでほしいな。」
毎年魔獣の森にだって薬草を取りに行っているし、身を守るくらいは貴族としてのたしなみとして訓練しています。
「騎士様は心配しすぎです。」
「シェア、君は私の大切な人であり病気を治してくれた恩人なのだ。心配するのは当然だよ、だからこれくらいはさせてほしい。」
差し出された木箱の中には魔術具のネックレスが入っています。
「これは風の加護が宿っている。貰ってはくれないだろうか。」
さすがにこれは私にだってわかりますよ。
・
・
「こんな高価な物は受け取れません。」
この魔術具は高位の司祭か巫女が貴重な素材を使って作るものです。
「素材を準備したのは私の護衛騎士だし、加護を込めたのは私だよ。遠慮しないで受け取ってほしい。」
それならいいのかな・・・
「き、騎士様は騎士様ではなく司祭様だったのですか?」
「ああ、そうだよ。でも私のことは今までどおり騎士様でいいからね。」
少々びっくりしてしまいましたが特に問題があるわけでもありません。
考え込んでいる間に騎士様は私の首にネックレスをかけました。
「よく似合っているよ。」
強引な方ですね仕方ありません。今度お邪魔する際に何かお返しを用意しましょう。
「ありがとう存じます。」
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今日は商人と魔法薬の取引です。
「いつもどおりいいブツだ。どうも中央がきな臭いから、8月の取引時は今の三倍の量がほしい。たのむぜ。」
木箱に入った魔術薬を確認し下級貴族の商人はお金を置いて去っていきました。
彼との取引は三ヶ月に一度です。
在庫を全部出しても少し足りないかもしれません。
がんばりましょう。
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「ほう、おまえがミィリシェア・ウィサビィラか、確かに・・・」
私が学園の林の中で薬草採取をしていると、男性に後ろから声をかけられました。
制服の色で判断すると、私と同じ二年生のようです。
「おい、おまえ、俺の相手をさせてやる。」
これは、きっと関わってはいけない人です。
私は人気の多いところに向かって全速力で走りました。
「巫女の足で騎士から逃げられると思うなよ。ヒッヒッヒ」
男の手が私に触れようとした瞬間、突風が起こり男を吹き飛ばす。
「ぐはっ!」
私はやっとの思いで校舎の中に逃げ込みました。
「こ、怖かった・・・」
騎士様にいただいた魔術具に助けられました。
私は、加護を使い切った魔術具に加護を込めなおします。
しかし、あの顔はどこかで見た顔です・・・
「第三王子だ・・・・どうしましょう。」
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――ある教室の片隅で(第一王子派の学生)――
「コルネウス様、大変なことがわかりました。」
「どうした、なにがあったのだ。」
「ミィリシェア・ウィサビィラの髪飾りを調べたところ、隠された部分に王家の紋章が刻まれていました。また第三王子と学園の林で逢引しているようです。」
「第三王子と直接つながりがあるのか・・」
「あとこれは確証の無い情報ですが、かの者が魔獣を操っている可能性があります。」
「ばかな魔獣を操る者など、おとぎ話の中にしか存在しないはずだ。どのような情報でそのような推測がなされたのか答えよ。」
「南の街道で、かの者が林に隠れた瞬間に尾行の者を妨害するように街道に中位魔獣が現れたそうです。王都近郊で中位魔獣が出るなど近年なかったことです。」
「それだけでは、判断できぬが父上には報告しておこう。」
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眠いです・・・
あのことは誰にも言えないままです。
相手が第三王子では訴えても逆に不敬罪に問われるかもしれません。
寮に帰るときも人気のないところは怖くて近寄れません。
精神的に疲れます。
「これを、南に届けてください。」
急に手紙を押し付けてきたこのご令嬢はどなたでしょうか・・・
ぼんやりしていた思考が回復したときには周囲に誰もいませんでした。
困りました、この手紙には宛名も差出人もありませんし、遺失物窓口に届けておきましょう。
遺失物窓口の人は奥で作業をしています。
「恐れ入ります。今よろしいでしょうか?」
「あ~、落し物だったら机の上においといてくれればいいから。」
「わかりました。」
高価な物ではないので言われたとおり、机の上に手紙をおいて寮に帰りました。。
さて、明日から長期休暇ですから、今日中に準備しましょう。
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魔獣の森での薬草採取は予定どおりの量を確保できました。
ですが今年はビアラス男爵邸の調合室が借りられなかったので、帰り道の宿屋で簡単な調合だけして騎士様のお屋敷に遊びに行くことにしました。
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――王宮で(第一王子派の宰相とコルネウス)――
「コルネウス、火急の用件とは何か。」
「父上これをご覧ください。学園の遺失物窓口に届けられた密告書にございます。」
「これは・・・・」
「ビアラス男爵宛の手紙を何者かが奪い取ったものかと思われます。」
「この手紙に書かれている、毒物を受け取りに行く者についてはめぼしがついておるのか?」
「第三王子派で一人だけビアラス男爵領がある南に向かったものがおります。」
「その者の名は?」
「ミィリシェア・ウィサビィラにございます。」
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――森の屋敷で(エリウスとトールス)――
「エリウス様、今度はどんな作戦ですか?」
「魔術薬の調合を教えてもらう。」
「はあ、それで・・・・」
「魔術薬の調合は一朝一夕に習得はできないから、半月くらいは滞在してもらえるだろう。完璧だ!」
「はいはいそうですか。で、いつから滞在期間を延ばすのが目的になったのですか?」
「滞在期間が長ければ告白する機会が得られるかも知れんだろ。」
「馬鹿ですか、思いを告げるのは一瞬で済むことです。覚悟を決めて下さい。」
「・・・・・わかった。」
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「シェア、私に魔術薬の調合を教えてくれないか?」
私は騎士様のお願いで魔術薬の作り方を教えています。
ビアラス男爵邸の調合室が借りられなかったので、ここで調合できてよかったです。
騎士様は基礎をリュシーの花の調合で習得されているので、今はいろいろな種類の調合の実習をしています。
―――エリウス(騎士様)―――
踏み台に乗ったシェアが釜の中を覗き込む。
「あ、それはもっとゆっくり混ぜ合わせないと分離してしまいます。」
う、シェアの顔が近い・・・た、耐えるのだ、シェアがせっかく教えてくれているのによこしまなことを考えるな。
「そうです、その調子で結晶化するまでゆっくりと混ぜてください。」
まて、この近距離で笑いかけてくるな・・・・・くっ、私はいつまで耐えられるだろう・・・
「今日はこの調合が終わったら夕食にいたしましょう。わたくしはお料理の仕上げに戻りますわ。」
シェアは調理場に戻っていった。
耐え切ったぞ、トールスを亡き母の実家に使いにやったので今屋敷にいるのは私とシェアだけだ。
そのため、料理はシェアが作ってくれている。
香草や薬草を使ったシェアの料理は素朴だがとても美味しい。
今日は一体どんな料理が食べられるのだろう。
「あ、変なにおいがすると思ったら、やっぱりです。」
いつのまにかシェアが隣にいた。
「騎士様、調合中に気を抜いてはいけません。これはもう分離してしまって使えませんよ。疲れているならきちんと言ってください。」
怒っているシェアも可愛いな・・・
「騎士様、聞いておられますか。」
「申し訳ない・・・」
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――王宮で(第一王子派の宰相と部下)――
「宰相閣下、ビアラス男爵及びミィリシェア・ウィサビィラを捕縛いたしました。また、平民街にあったミィリシェア・ウィサビィラの隠れ家から大量の魔術薬と調合用の魔術具を押収しております。」
「で、ミィリシェア・ウィサビィラの屋敷は突き止められたのか?」
「いえ、ウィサビィラ伯爵家への聞き込みでは、ミィリシェア・ウィサビィラは亡き前伯爵夫人が作った不貞の子であるため、長男が生まれた際に手切れ金と侍女を付けて屋敷から追放したそうで。それ以後会ったことは無く、今の居場所も把握していないそうです。目下貴族街をしらみつぶしに当たっておりますが発見にはいたっておりません。」
「罪を逃れるための嘘ではないのか?」
「前伯爵夫人が産後の肥立ちが悪く亡くなられて、すぐに愛人と結婚をしていますので、継承権のある長男以外の子供は必要なかったのでしょう。」
「そうか、それでこのような闇に落ちたのかも知れんな・・・だが、報告によれば、かの者は高位貴族をたぶらかし魔獣をも操ると聞いておる。決して油断してはならぬぞ。」
「はい、審判を言い渡す日まで牢獄に閉じ込め最低限の者で対応する予定です。」
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――牢獄の中で(猿轡をかまされた女性)――
「んーーーーんーー!」
(人違いです!)
「んーーーんーーーーんーーんーーー!」
(私はウィサビィラじゃなくてウィサヴィラです。)
「うるさいぞ、しずかにしろ!」
「放っておけ、近づくと惑わされるかも知れんぞ。」
「んーーーー!」
(誰か助けて!)
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――寝静まった森の屋敷で(エリウスとトールス)――
「そんな深刻な顔してどうした、まさか断られたのか?」
シェアは伯爵家の娘だが家からは絶遠されているので、私の亡き母の実家であるカルセルト侯爵家に後ろ盾になってもらえるよう打診しに行ってもらったのだが。
「こんなことは、ありえない事なのは俺もわかっているんですよ。だから落ち着いて聞いてください。」
こんな真剣な顔は久しぶりに見た、一体なにがあったというのだろうか。
「ミィリシェア・ウィサビィラ嬢に国賊として捕縛命令が出ております。」
トールス、おまえはなにを言っているのだ・・・・
「わかりますよ、俺だって最初に聞いたときはそんな感じでしたよ。ですが、王都で確認もしてきましたので捕縛命令が出ていることは間違いありません。そして、さらに奇妙なことにウィサビィラ嬢はすでに捕らえられ王宮の地下牢に幽閉されているというのです。」
どういうことだ、同名の別人・・いや、同名での貴族登録はできない。
ならば、つかまっているのが偽者か、いやそれならシェアが犯罪者ということになる。
ありえない、一体なにがどうなっているのだ・・・・
「ウィサビィラ嬢も交えて話をしてみれば、何かわかるかもしれません。」
「まさかシェアを疑っているのか!」
「落ち着いてくださいよ、最初から俺はありえない事だと言ったでしょう。」
「そうだな、すまない・・・」
「明日の朝食後にシェアを交えて話しをしよう。今日のところはおまえも休め。」
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え・・・・
「何のことなのかさっぱりです・・・」
護衛騎士様の話では私は第三王子派と共に第一王子の暗殺計画に加担したことになっているらしい。
「わたくしは誰かを脅したり、毒薬を売ったりしたことなんてございませんわ。」
「私たちはそれを信じているけど、他の貴族たちを納得させる証拠を用意しないと、この疑いを晴らすことができないのだよ。」
どうしたらいいでしょうか、今学園に通っている生徒に司祭も巫女もいないため、共通科目のとき以外は一人で行動していましたから・・・
「わたくしが第三王子派に加担していないことがわかればいいのですよね。だったら、光の神の眷属、真実の神の加護を祈ろうと思います。」
巫女が自分に真実の神の加護を祈った場合だけ隠された扉などを見つける力のほかになぜか自分が嘘を付けなくなるのです。
「その方法があったね。後はこちらに任せてくれたらいいから、陛下や宰相に事情を説明して許可をもらってから一緒に王都へ行こうか。」
さすが高位の司祭である騎士様です。これで証明ができることをすぐに理解してくださいました。
「お願いいたします。国王陛下や宰相様に謁見できるなんて、やはり騎士様は上位貴族なのですね。」
あれ、騎士様が何かを迷っているようです。
「シェア、こうなってしまったら私の名前を隠している必要もない。私の名前はエリウス・ヴェルアス、この国の第二王子だよ。」
「えーーーー!」
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――王宮(国王陛下と森の屋敷の護衛騎士トールス)――
「エリウスが騙されているのではないか?」
「いえ、そのようなことはありえません。それに、やましい事があるなら真実の神による証明をするなどとは言わないでしょう。」
「わかった、三日後に王宮に来るように伝えよ。」
「承知いたしました。」
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「ミィリシェア・ウィサビィラよ、この場にいる者は最高神の加護を得ている。怪しげな術など通用しないぞ。」
今この場にいるのは国王陛下、第二王子エリウス様、宰相のアートン侯爵、近衛騎士団長様、神殿長の巫女様、私それとこのよく分からない発言をした学生です。
「コルネウス、おまえの役目はミィリシェア・ウィサビィラの疑惑について問うのが役目ぞ、それ以外の発言は控えよ。」
「父上、申しわけございません。」
この学生は宰相様のご令息なのですね。
「ではミィリシェア・ウィサビィラ、始めよ。」
「光の神の眷属、真実の神フォルセティのご加護がありますように。」
真実の神のご加護がかかっていることを巫女様が国王陛下に証明してくださいました。
宰相様のご令息が前に出て質問を始めます。
「貴様の悪事をすべて述べよ。」
はて、これにどう答えたらいいのでしょうか・・
「沈黙したということは悪事を隠しておきたいのだな。」
私が悩んでいると巫女様が宰相のご令息の頭を上から叩きました。
「なにをするのだ!」
「馬鹿なのですかあなたは、先ほどのような質問をしては子供のころのイタズラもすべて話さなければ嘘になってしまうではありませんか。打ち合わせの通りにできないのなら下がっていなさい!」
巫女様は宰相のご子息を下がらせると、国王陛下と宰相様をにらみつけます。
「この子への質問は私がいたします。よろしいですね。」
二人は振り子のように頷いています。
「ごめんなさいウィサビィラ様、では質問を再開いたします。」
巫女様は私の目をまっすぐに見る。
「去年の五月にエバンゼル・ホストクと話をしましたか?」
「いいえ」
「去年の六月にアートン侯爵三男のトリアレスとの間になにがありましたか?」
いいのかな・・でも嘘は付けないので仕方ありません。
「トリアレス様に呼び出されて婚約者に飲ませる痺れ薬を作るように言われましたが作ってはいません。」
周囲があぜんとしています。
その後、質問に答えるたびに微妙な空気が周囲に漂います。
「今年の六月に第三王子殿下と話をしましたか?」
「学園で薬草採取をしているときに“俺の相手をさせてやる”と言われたので逃げました。」
エリウス様、そんな顔をなさらないでください、私は指一本ふれさせてはいません。
「では最後に、貴女が平民街で使っていた倉庫に大量の魔術薬があったのはなぜですか?」
倉庫・・・・確かに貴族の基準からすると倉庫かもしれません。
「わたくしは平民街に倉庫を持っておりません。しかし、平民街の南門近くに、わたくしの家があり、そこには八月に下級貴族の商人と取引する魔術薬を置いています。」
その言葉に宰相様が問いかけてきました。
「なぜ伯爵家からの手切れ金で貴族街に屋敷を買わずに平民街に住んでいるのか?」
え・・手切れ金?
「母が亡くなり七歳のときにわたくしは伯爵家を追い出されました。屋敷から持ち出したものは着替えの服だけです。ばあやが持っていたお金では貴族街に家を借りることができませんでした。」
宰相様はとても難しい顔をなさっています。
「ウィサビィラ嬢、君のお母様の子供は何人か?」
「わたくし一人です。」
なぜそんなことを聞かれるのでしょうか。
これで質問は終わったらしく、私は別室で待つように言われました。
まだ国王陛下の裁定が下っていないため、扉の前には近衛騎士団長が立ち、ソファーの正面にエリウス様が、わたくしの隣に神殿長の巫女様が座っています。
「ウィサビィラ様、安心してくださいね。宰相の馬鹿息子の報告を鵜呑みにしていた、わたくしたちが間違っていたのよ。国王陛下の裁定が下るには時間がかかるでしょうけど安心していいのよ。」
巫女様は優しく私に語りかけてくださいました。
「ありがとう存じます。」
「ところでウィサビィラ様、神殿に興味はないかしら。貴女が望まれるなら、松平王国にある中央神殿に推薦することも出来ますよ。」
――エリウス・ヴェルアス(第二王子)――
「ウィサビィラ様、安心してくださいね。宰相の馬鹿息子の報告を鵜呑みにしていた、わたくしたちが間違っていたのよ。国王陛下の裁定が下るには時間がかかるでしょうけど安心していいのよ。」
「ありがとう存じます。」
「ところでウィサビィラ様、神殿に興味はないかしら。貴女が望まれるなら、松平王国にある中央神殿に推薦することも出来ますよ。」
「まて!」
シェアをそんな遠くへは行かせぬ。
「エリウス様、どうなさったのですか?」
私はシェアの瞳をまっすぐに見つめた。
「ミィリシェア、私は貴女との婚約を考えています。」
よし言った!
私の言葉にシェアの瞳から涙が零れ落ちる。
・
・
・
・
「ひ、ひどいですエリウス様、いくらなんでもあんまりです!」
シェアが泣いている。なぜだ?
「ひどいです。エリウス様、あの言葉は嘘だったのですか」
え、は、何のことだ・・
「初めてお会いしたときに婚約の申し込みを受けてくださったはずではなかったのですか。それなのに、いまさら“婚約を考えている“だなんて・・・わたくし婚約もしていない男性のお屋敷に泊まったりする、はしたない女ではありませんわ。」
「シェア、すまない私にはその記憶がないのだ。説明してくれないか?」
私の言葉に彼女はさらに大きな声で泣き出してしまう。
巫女様が彼女に優しく問いかけた。
「エリウス殿下は貴女になんとおっしゃったのですか?」
「わたくしちゃんと求婚の言葉をお伝えしました“わたくしの光の神になって下さいませ”と、それにエリウス様は答えてくださり“私の闇の神”と返してくださいましたわ。」
その言葉は最高神である光と闇の神になぞらえて、強い結びつきを望むときに使われる言葉で求婚のときによく使われるのは知っているけど、そのときの彼女はまだ子供だったから友達になってほしいと言われたのだと今まで勘違いしていた。
近衛騎士団長と神殿長の視線が痛い。
「ごめんシェア、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私はシェアに延々と謝り続け日が暮れるころにかろうじて許してもらえた。
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私はウィサビィラ女伯爵のミィリシェアです。
国王陛下の裁定は私はお咎めなしでした。
また、宰相からはウィサビィラ伯爵を継承するように言われました。
もともと伯爵家の継承権は私の母にありました。
父と義母は自分たちの息子を母の子と偽り爵位の継承をさせて自分たちはその後見人になっていたそうです。
爵位など無くても愛する人と結婚できるだけで満足しておけばよかったのに、欲をかきすぎたら、いけないと言う教訓でしょう。
伯爵家を出るまでの七年間、ほとんどあったことも無い父や義母のことを知りたいとも思わないので詳細については聞きませんでした。
私の家族は、ばあやだけです。
あれから二年が経ちました。
私は白いドレスを着て祭壇の前にいます。
「ああ、美しい私の美の神よ、運命の神ノルンのご加護を受け青い花畑でお会いしたときより感じておりました、私の闇の神よ。エリウス・ヴェルアスはミィリシェア・ウィサビィラへの愛を誓います。」
「森の神タピオのご加護を受け癒しの神イシュトリルトンの青き庭での想いをエリウス・ヴェルアスに捧げます。わたくしの光の神」
私たちは見つめ合い、そっと口付けを交わしました。
ばあや、私に新しい家族ができました。
私はとてもしあわせです。
でも、私も欲張りなのかもしれませんね。
はやく男の子と女の子の家族がほしいです。
司祭と巫女という設定だったので最後は場面に神様の名前を使いました。
エリウス(シェア綺麗だよ、リュシーの花畑(最初に出会った場所)で出会ったときにひとめぼれです。私の大切な人)
ミィリシェア(森でエリウスに偶然お会いしました。その時から想いは変わっていません、私の大切な人)
大体こんな意味で書きました。