凍らないためにはキスを
吐く息は白く踏みしめる氷は冷たく、壁も天井もそこかしこに氷柱が屹立する。
透き通るようなクリスタルめいた光景はなかなか美しい。が、極寒の世界はなかなか凶悪だ。
綺麗なのは見た目だけ。油断すれば死神が冥府に連れていくような冷気が辺りを覆っている。
「はうううう~、さ、寒いのだ~」
イェルリーテ王国の姫君、リリカ王女ががちがちと震えながら呟いた。
第二迷宮《氷河》、第十二層。
十一ある迷宮の中で、もっともエルフにとって過酷なのはこの迷宮だろう。
何しろ洞窟が氷で構成された氷穴。冷気や氷の光景が寒さを覚えさせ、吐く息は真っ白、おまけに氷系の魔物まで現れるのだ。森で生活していたエルフ族にとっては何より厳しいはず。
事実、先程からリリカは鳥肌の立つ肩を抱きしめ、震えていた。
「フォ、フォードぉ、こ、こ、こんなに寒いなんて聞いてないのだ、こ、凍えそうっ」
「すみません、リリカ王女、前々から防寒着は用意していたのですが、予想より迷宮の異変が進んでいたようですね」
油断なく前方の氷柱の影を見つめながらフォードが言う。
――第二迷宮に異変あり、可能ならば調査を。
そうギルドの依頼を見て駆けつけて、フォードたちは赴いていた。
どうやら、強力な魔物が浅層に居座り、猛威を奮ったらしい。おかげで第二迷宮《氷河》の一層から二十層は冷気が倍増し、初心探索者などが探索不能となった。
そのため、元凶の魔物を討伐に来た次第だったが――
入ってみると寒いわ寒いわ、防寒着を着てなお冷気が体を蝕んでくる。先程から体はぶるぶる震えるし、唇は紫色。睫毛も凍り掛けて、しゃべると冷気が喉に入って痛い有様。
いくら氷の洞窟と言っても限度がある。フォードたちが用意した防寒着――フォードは青色のローブでリリカは水色のドレスローブ――を着ているが、零下五十度でも小春日和に感じられるはずのその装備は、冷気に屈していた。
耐寒の装備を着てですらこの有様なのだ。もしも通常の服装で足を踏み入れたなら、とっくにフォードもリリカも氷像と化していただろう。
「フォ、フォード、寒っ寒いのだ、うひゃわわわわっ」
リリカが変な悲鳴を上げている。
女性的な綺麗な線を描く肢体を、今は分厚いドレスローブに包みこみ、困ったように震える。
「松明を増やしても焼け石に水ですね、かと言って僕は耐寒関連の技はないですし……」
「リリカも火炎系の魔術は使えないのだ。……はうう、ルルカを連れて来れば良かった」
双子の姉妹であるルルカは別件で屋敷に残っている。さらには親衛隊のカルキノスとネイラとも別行動で、今は限られた面子でのパーティだった。
「……ところでリリカ王女、先程からロブの声が聞こえませんが、どうしたのです?」
「え? あれ、ロブ?」
見れば後方十メートルくらいのところに、ぶっ倒れたロブが転がっている。
「わ――っ、ロ、ロブ――っ、だ、大丈夫か!」
慌ててリリカが駆け寄って抱き上げてみれば、槍使いの青年は顔を真っ青にしてぶるぶる震えていた。
「さささささササササ寒いっすよ、これ。ムリっすよ、じんじゃう……っ」
「フォ、フォード! どうしよう! ロブが真っ青で倒れてる――っ!」
「急いで熱光石を! あとホットタオルで拭いてください!」
冷気対策のため用意していた、熱を発する石や布で彼を温める。
アクシデントに見舞われたフォード達だが、は、もちろん今回の依頼を甘く見ていたわけではない。
通常より寒くなった第二迷宮《氷河》へ潜るのだから、防寒装備は複数、メインはローブだが、サブとして耐寒のネックレス、腕輪、ピアス、胸当てと、暖風を放つ装備を揃えている。
しかし数が足りなかったのでロブだけはそのうち二つは無し、つまりそれだけフォードとリリカと差があったのだが――。
「あはは……向こう岸に死んだ婆ちゃんが見えるっすよ。え? 何だって? こっちにおいでおいで? わーい、婆ちゃーん」
「フォード――っ、ロブが虚空を見つめながら怖いこと言ってる――っ」
「もっと暖めないとまずいですね……」
ロブの顔を叩いて「ロブ、しっかり! ロブ!」と強く繰り返す。
力を入れすぎてロブの頬がリンゴより赤くなったが、この際容赦してもらおう。
それほどやってももはや凍死寸前。虚ろな目つきで何だか楽しそうに笑うロブに二人は慌てる。
「ろ、ロブがまずいのだ、何か笑ってるっ」
「姫様ぁ、綺麗な皮がありますよ、一緒に渡りましょ、でへへ」
「ロブ! しっかりしてください! にやけてないで! さあこの酒を飲んで!」
緊急用のホットポーションを飲ませる。
短時間だが飲めば体が温まるボトルを飲み干し、ロブの顔色が良くなる。
「はっ!? 危うく冥府の川渡るところでしたぜ。すまないです、フォードさん、姫様」
「良かったのだロブ――っ」
ぎゅっと、半泣きでロブに抱きつくリリカ王女。
ちょっとだけロブが照れる。
しかし状況は一向に良くならず、まだ道のりは途中、ロブのホットポーションも効果は五分と短い。
立て続けにホットポーションを飲ませ続けるのもいいが、それだといったいいくつ必要になるのか知れない。
「……やはりこの探索、引き返してギルドには失敗を言うべきでは?」
フォードの思考は当然ながらそちらに向く。
ロブが反対する。
「で、でもフォードさん、他受けて貰ってなんですが、この依頼……ギルドの報酬凄いでしょ? 逃す手はないですって」
「しかしこのままだとロブが永久凍土で氷像化しかねませんし……僕、凍れるロブの像を土産に帰るの、嫌ですよ?」
「リリカだって嫌なのだ! ロブ死んだら許さない! それなら戻った方がいい!」
「そりゃそうですが……しかし、場所はわかってるんよね? 魔物の」
迷宮の一つが異変という、不測の事態にもちろん他の探索者たちも大勢出向いている。
二日経って未だ解決に至っていないが、今回の冷化がとある魔物が元凶であること、そしてそれが『フリーズワイズ・ヴァルキュリア』と言う女性型魔物であることは判明している。
調査した探索パーティによると、件のフリーズワイズ・ヴァルキュリアは氷系の魔物であり、美人な女性型、しかも複数の氷系魔術を操り、さらに存在するだけで周囲三百キロメートルを凍てつかせる特性を持つ。
その冷気は『壁貫通』、なおかつ『耐寒効果の激減』、という、極悪な特性をも備えている。非常に厄介な魔物だ。
ヴァルキュリア本体はさほど強くないらしいが、そこに行く着くまで気力も体力も消耗して敗北、というケースがままあった。
その上ににフォード達は行軍している。
「……確かに場所は判りますが、ロブの体力持たないでしょう。最悪、僕とリリカ王女だけで行ったほうが……」
「いやいやいや! そんなことしたら親衛隊の名折れっす! このロブ、生きる時も死ぬ時もリリカ王女様やルルカ王女様のそばでと決めております! ここで逃げたら人間としては生き続けますが、親衛隊としては死にます! どうかフォードさん、姫様、今回だけは無理を承知で、俺を最後まで連れていき――はっくしょんっ!」
「……最後のくしゃみさえなかったら凄みがあったような気がするのですが……」
「ちょ、待った、今のはものの弾み、ちょっと出ただけだけですって、俺は本当に――あっくしょんっ」
「ロブ、寒そうなのだ……もう引き返した方がいい」
「姫様まで……待ってください、俺はまだやれますって、大丈――ひっくしゅん! はあっくしょん、ばっくしょん!」
まるで花粉症になったようにくしゃみが止まらないロブ。体もがたがた震え始めた。
口論している間にホットポーションの効力が弱まり始めたのだ。
「……仕方ありませんね」
念のため、フォードはロブに問いかける。
「ロブ、どうしても退く気はありませんか?」
「当然っすよ! ここで退く親衛隊じゃねえです!」
「……できれば使いたくなかった、最後の手段があるのですが、それを使いますか?」
そう言うと、ロブもリリカもきょとんとした。
「え? なんだぁ、フォードさん、そんなものがあるのなら使ってくださいよ。出し惜しみは無しですって」
「なんだ、フォード、やっぱり最後に頼りになるのだ」
「いえ、これは使うと非常に危険というか、できれば使わずにすませたい手段だったのですが――」
フォードは一端目を瞑り、何かの覚悟を決めるように呼吸を整えた。そしてロブとリリカの見る前、すっと両目を開ける。
「さっきのホットポーション、とある手段を使って合成すれば、効力が百六十倍に増えるのですが、問題があるのですよね」
「うん」
「何でも言ってくださいって! 耐えてみせます!」
「その……『口移し』しなければならないんですよね」
「え?」
「はい?」
ロブもリリカも何度も瞬きした。
「ですから……ホットポーションを混ぜ合わせるには、口移しして、合成しなければならないんです」
ロブもリリカも固まった。
それはもう、氷像と見紛うばかりに。
「このホットポーションは、唾液に反応して効力を飛躍的に向上するんですね。しかし一種類の唾液では不可能で、少なくとも二種類の唾液に反応させる必要があるます。しかも口から出した唾液を合わせるのでは効果がなく、口内で分泌された直後のものでなければならいと」
「え!? いやいや! 口移し!? そんなことできるわけねーですって!」
「はわわわわわわ! そ、そんなっ、恥ずかしいのだっ」
もっともな話である。生きるか死ぬかという状況で何を言う話だが、それはそれ、これはこれ。
特に、仮にもリリカは王女である。そんな彼女と口移しなどしたら大問題だろう。リリカを敬愛するカルキノスが鬼神の如く怒り狂って暴れるだろうし、父親であるイルサール王も「娘の唇を奪ったんだね。そうか、そうか」と笑顔で怒りそう。いや、緊急事態なのだから何のカウントもする必要はなく、そもそも黙っていれば良い、という話かもしれないが、それはそれで問題がある。
誰と誰が、するのかだ。
仮にフォードとリリカがするとしよう。
フォードは気まずさで死にそうである。
仮にロブとリリカがするとしよう。
ロブが親衛隊として死にそうである。
主と口移しだなんてふしだらな! ゆえにそうなると、自然と口移しの選択肢は限られていき――
フォードの目と、ロブの目がばっちり合う。
「いやいやいや! 無理ですって!」
「僕も同感です。いやしかし……っ」
男との「アッー」な口移しは御免だが、けれど凍死するならばそちらの方がいい。いや、そもそもそこまでする必要があるのか、一度退却し改めて装備を強化して臨むべきでは――様々な考えが万華鏡のごとく移りゆく。
と、リリカが唐突に言い出した。
「あ、あの……別にフォードとなら、リリカは大丈夫だぞ?」
「え」
リリカは急に頬を赤らめ恥ずかしそうに呟いた。
「たくさん助けて貰ったし、好意を抱いているし、その程度……」
「ですが! 駄目ですよリリカ王女! 僕はそんな不敬なこと……」
「む。不敬とは違うのだ。目的があるから平気なのだ。それに……リリカは、フォードが相手ならそのくらい、喜んで」
「ストップ! リリカ王女、場に飲まれてはなりません。もっと自分の唇は大事にするべきです、それはもっと相応しい時に、相応しい相手としてください」
「……むう。フォードのバカ」
途端にリリカが口を尖らせてそっぽを向く。
どこか悲しそうな声音も含まれていた。
フォードとて人並みには感情があるから王女とそういう機会を得るのは光栄だ。しかし彼は時と場所が重要だと考える。そもそもこの状況でそこまで深く考える必要があるのか判らない。考え過ぎではないか、そう思うものの、ここは無難にロブと……いやしかし、それも無難と言えるのか? 堂々巡りのような思考は続く。
〈我が契約者よ、そんなお困りの主に助言を授けよう〉
唐突に、虚空に黒髪の美女が現れ艶然と微笑んだ。
悪霊王のエリゼーラだ。
「(なんです、突然に)」
契約関係者同士による、思考のみの意思疎通で応える。
〈主には《憑依》があるだろう? 唾液が必要ならばその辺の魔物を操り、それで主と口移しすれば良い〉
「(そんな無茶な……)」
それをやれと? よりによって魔物と? あの、醜悪で、邪悪で、見るからに汚れそうな、魔物どもと? そもそも魔物の唾液で効果があるのか、いやそんなことは問題でなく。
〈だが、それしか方法がなかろう? あとはもう《憑依》を使って直接敵を倒すしかないと思うがな〉
《憑依》でフリーズワイズ・ヴァルキュリアを操って自害させれば確かに解決する。
しかしリリカやロブに経験を積ませるために、わざわざこここまで出向いたのだ。
掛けた労力や時間が無駄になるのは避けたい。
「(さすがに僕も魔物と口移しは……できれば勘弁したいですね)」
〈あとはそうだな……主と魔物でなく、魔物同士でやれば良いかな?〉
天啓のように脳裏に光が過ぎった。そうか、その手があるか!
自分の唇でするのでなければそれはカウントには値しない。いや、もちろん《憑依》して魔物と……というのも御免だが、他より幾分マシだろう。
などと思っていると。
氷柱の影から影が踊り込んできた。
魔物だ。それも二体。フロストゴブリンだ。
「う……っ」
よりによってフロストゴブリンとは! 体中に冷気を宿し、氷系の技をいくつも備えるフロストゴブリンは、ゴブリンの名にもれず醜悪な外見だ。
目つきは悪く歯並びは悪く乱ぐい歯、体は毒々しい緑色。冷気こそまとっているが黄色い爪や牙はいかにも不健康であり、体には垢や血がこびりついている。
あれを操って口移しするのか?
どう見ても醜悪な外見なのに?
などと思っている暇も惜しい。ロブは急がないと手遅れだし、何より好奇だ。
「二人とも下がって!」
フォードは警告を発して前に出る。冥王臓剣を取り出し思いっきり力を込め、地面に叩きつける。
辺り一面、凄まじい衝撃波が荒れ狂う。
退避したリリカやロブはともかく、フロストゴブリンはまとも受け氷壁に激突。束の間、完全な時間の空白帯が完成する。
そこへすかさず、フォードが《憑依》を使って一体に乗り移る。
「(嫌な感覚ですね……)」
見た目が醜悪な魔物に乗り移るのはあまり爽快ではない。操ったフロストゴブリンの毒々しい緑の体を動かし、もう一方のフロストゴブリンへと躍りかかる。
「(大人しくしなさい……っ)」
痛手を負ったフロストゴブリンが起き上がりかけたが、その両腕を押さえつけ固定。
抵抗するフロストゴブリンを無理やり押さえ、操っているフロストゴブリンへ唇を寄せる。
「(うわー、歯並び汚い、息が臭い、歯の間に肉のカスがっ)」
内心で嫌な思いを抱きながら――
ついに相手のフロストゴブリンの口に口を重ねた。
「(ぐあっ、なんですこれぬめっていて気持ち悪い、それに口臭がますます酷い!)」
臭いわ臭いわ、ゴブリンの口臭は間近だと鼻が曲がるようだ。歯磨きなど一度もしたことない乱杭歯は汚泥や排泄物や腐った食べ物を混ぜたような激臭で、フォードは気が遠くなりかける。
おまけに感触も硬い口に心地よさなどあったものではなく、こびりついた食べかすや血の塊、たぶん油の塊などありとあらゆるものがこびりついている。
「(ううう、ぐっ)」
しかもそんな汚い口の中に、自分の唾液を注ぎ込むのだ。
叫ぼうとする口を無理やり固定し、強く激しく口を押し付ける。抵抗が強まる。けれど押さえつけながら続ける感覚は永遠に近い体感時間だった。
もちろん自分の口ではないので理屈としては他人の口移しのはずなのだが、憑依で五感も支配したフォードは感覚としては醜悪なゴブリンと接吻している気分になる。
その様子は傍から見ても醜悪で、もしも衝撃波が晴れリリカたちが見ていたら顔を引きつらせていただろう。
それほど傍目から見ても見るに堪えないゴブリンとゴブリンの口移しだった。
「ムグッ、グババッ」
フロストゴブリンの口内で唾液が混ざり合わさる。
ここからが重要だ。フォードはあらかじめフロストゴブリン近くに投げていたホットポーションを拾い上げ、蓋を開け、口付けていた唇を離した。
一気に、瓶の中へ、口内で混ざった唾液を吐いて入れる。
おまけに、触媒となる粉も少々投下。
瞬間、ホットポーションがほのかに光った。真っ赤な太陽のように強い赤色へ変色。ホットポーション改が見事完成する。
「(お、終わった……)」
口の中が未だに相手の唾液の感触で気持ち悪い。
ねばつく汗のような塩辛さとぬめったさと汚泥以上の激臭を含みながら、フォードは合成完了を悟ったのだった。
見事ホットポーションを強化したのはいいのだが、最後の難関が待ち受ける。
「終わりましたよ、ロブ、リリカ王女。ゴブリンの唾液使って合成しました」
「えっ」
「さ、さすがフォードさん、いつの間に……」
フォードの傍らには、倒されたフロストゴブリンの死骸と、手にはホットポーション改の輝く光。
驚きと称賛の声の彼らだが、すぐに悟る。
当然だが唾液を混ぜてかけ合わせたホットポーション改は、成分が唾液×二人分であり、それはフロストゴブリンの唾液なのだ。
そしてもちろんホットポーション改は『飲まなければ意味が無い』代物であり、当然――。
「あの、フォードさん、ふと思ったんですが」ロブが言った。
「なんです?」
「それ、俺飲まないと駄目なんすよね?」
フォードはゆっくりと頷いた。
「当然です。ホットポーション改は飲まないと意味ないですし、あなたの体も温まりません」
「え、でもそれって今ゴブリンの唾液を混ぜ合わせて作ったものなんですよね? それ飲むってことはつまり……」
ロブが冷や汗をかきながら笑った。
フォードも笑った。ただし目は笑っていない。同情の目だ。
「あの、俺、ちょっと用事を思い出し……」
「リリカ王女! ロブを捕まえてください!」
「わ、わかったのだ!」
「うそでしょおおおおっ! それはあんまりですってフォードさんっっっっっ!」
悲しいかな、ホットポーション改は経口摂取しなければ何の効果も発揮しない。
たとえ材料がゴブリン二匹分の材料だろうと、対象者が飲まねば意味がない。
ロブがこの世の終わりとばかりに悲鳴を上げるが、それをフォードとリリカが捕まえる。
そして、フォードはリリカと二人がかりでロブを押さえつけ、彼の口に、嫌がる彼の口に、ホットポーション改を、無理やり飲ませていくのだった。
「すぐ終わります。一瞬ですよ」
「頑張るのだロブ、リリカは応援しているぞっ」
「待った、待ってくださいフォードさんっ、リリカ様っ! これある意味凍死よりひどいすよ! 何か他の手段――がばっ!? ぐぼぼババっ!? ごべべべべっっ!?」
涙目を向けるロブの口の中にホットポーション改を注ぎ込む。
可哀想だが心を鬼にして注ぎ込む。
怪鳥のような悲鳴が飛ぼうとも全部注ぎ込む。
ロブにとっては悪夢より酷い時間だった。
数分が経った。
ロブの体は真夏のように温まり、これにてフリーズワイズ・ヴァルキュリアの討伐が可能。ただし、彼の心まで温まったかは別の話である。
「うへあああ……俺の体ん中に、ゴブリンの唾液がぁぁぁぁ……」
「ロブ……リリカは主として励ますのだ! フレーッ、フレーッ」
「生きてれば苦労することもあるのですよロブ。気張って!」




