死遊戯殺人 イー12
「これでいいだろうか?天文部はほとんどが幽霊部員でね。彼女と私、それと雪君が主要メンバーなのだ」
岬の言葉に違和感を感じたが、直哉は何も言わなかった。
「そうですか、態々気を付かせてしまい。すみません」
「別にかまわないさ。それほど有意義な話なのだろう」
まるで直哉を試すような口調で話しかけてくる岬に、直哉は面白いと感じていた。
「まぁ有意義かどうかはわかりませんが」
「うむ。なんだろうか?」
「単調直入に言います。あなたが『死遊戯殺人』の犯人ですね」
「ふむ。『死遊戯殺人』とは最近テレビで噂されている連続殺人事件だね」
「はい」
「その犯人が僕だと言うのかい?」
「はい」
「面白いことを言うね。僕がなぜ犯人なんだい?」
岬は『死遊戯殺人』のことを知っている。
京と同じようにネットで知り得たのかもしれないし、ニュースを見たのかもしれない。
それでも岬は確実に事件を知っている。
「さぁ、動機など僕には関係ありません。ただ、あなたは僕の親友を手にかけた。だから僕はここまで来ることができたと言っておきます」
「親友?誰のことだい?」
岬は本当にわからないと笑顔を浮かべている。
その横で奥村が、顔を伏せて上げようとしない。
「では順序立てて説明していきましょうか」
直哉はそういうと『殺人サイトからコピーした文章を取り出す。
そこには第一の殺人から、第四までの殺人まで時刻や方法、現場まで書かれていた。
「まず、第一の殺人。港市の倉庫で見つかった第一被害者、野崎さんの事件、これは岬先輩あなたの単独犯行だ」
「証拠はあるのかい?」
直哉の言葉に岬は表情を変えずに質問をしてくる。
「証拠はまだないです」
「無いのかい?それじゃ僕が犯人かわからないね」
直哉の言葉に岬は薄らとした笑みを浮かべる。
「俺は別にあんたを捕まえに来たわけじゃないんです。真実を知ったから答え合わせにきただけです」
しかし、直哉は岬の態度に何ら臆することなく話し続ける。
「何を考えている?」
岬は直哉の態度と言葉に初めて動揺を示した。岬にとって直哉という人物が読めないでいた。
藤井 直哉。その名前を岬は知っている。奥村 雪から何度も聞いた名前だ。
奥村から聞いている藤井 直哉は一般的な生徒だった。
成績も目立つほどではなく。部活に入って活躍するスポーツマンでもない。むしろ、雪に聞いた直哉と言う人物像は、人に無関心で一緒に下校していても何にも関心を持たない。
悠木のすることを見守っているだけの、目立たない人物だと聞いていた。
だが、目の前にいる人物は誰だ?真実を突き止めたと言った。
一般人である彼にそんなことができるはずがない。
岬には直哉という人物がわからない。探偵や刑事のように犯人を捕まえに来たわけではないと言う言葉が信じられなかった。
もし本当ならば、何をしに直哉は来たのだ?真意がわからない。
岬が動揺して考えを巡らせている間に、直哉は一言も話さず不敵に笑っていた。
「そんなことはどうでもいいじゃないですか、大事なのは今です」
「今だと?」
「はい。確かに証拠はないです。ですが動機はわかります。あなたは恨みを持って、野崎さんを殺しました」
直哉は一枚の書類を岬に投げる。そこには全国模試の結果が書かれていた。
そこに書かれた一位は野崎、二位は岬の名前が記されていた。
「たぶんこれが動機なのでしょうね。野崎さんを殺した岬先輩は、猟奇殺人者が行ったかのように演出までしてみせた。それはなぜか、もちろん捜査を混乱させるためでしょう。しかし、本当の理由は自身の力を誇示したかったから」
岬は直哉の言葉に何も返してはこなかった。
何かを考え込むように黙り込んでしまったのだ。
そんな岬から視線を移して、直哉は奥村の様子を覗う。
彼女は天体望遠鏡の鞄を強く抱きしめていた。
「第二の殺人、三上さんの殺人は奥村が犯人だ」
直哉に言葉をかけられ、奥村の肩がビクッと跳ねる。
「どうして君が三上さんを殺したか。それは三上さんが奥村の彼氏だった。もしくはストーカーだったからじゃないのか」
奥村は顔を上げずに震えだした。
「奥村は、突発的に三上さんを殺してしまった。そのことを正人に相談したんじゃないか?しかし、正人は奥村の味方にはならず、自首を進めてきた。さらに正人は奥村のことを鈴村に相談した」
直哉の言葉に奥村は更に震えを大きくする。
「そして正人もその手にかけた」
「どっどうして、私がそんなことしなくちゃいけないの?私は三上健人さんとはただの部活仲間よ。どうして私が正人君を殺すの?彼氏を殺すとかありえないでしょ。それに絵美ちゃんにどうして正木君が話すの?話すのなら直哉君にじゃないの?」
俯いていた顔を上げ、直哉を睨み付けるように奥村が反論を言葉にする。
「正人の本当の彼女は鈴村だったんじゃないのか?」
直哉の言葉に奥村は言葉を失う。
「そして三上さんは、奥村と付き合っていたんじゃないのか?」
直哉の言葉に奥村は動揺している。 直哉は話を切り、奥村の様子を窺った。
話しているうちに奥村の目に狂気が宿っていくのを直哉は感じていた。
それでも直哉は奥村を追い詰めるのをやめなかった。
「彼氏を殺すかどうか、ありえなくはないだろう。自分の身可愛さに、人も殺す。それは不思議なことではないと思うけどな」
「そんなこと……」
奥村が何かを反論しようとするが、直哉は追い打ちをかけた。
「正人が鈴村に話した理由は鈴村が正人の本当の彼女だからじゃないか?だから正人は鈴村に事情を話した。そして、それを知った奥村は鈴村も手にかけた。家族を手にかけたのは、鈴村の全てが許せなかったから、動機は嫉妬と言ったところか?」
この言葉に今まで言い淀み、言葉を濁していた奥村が絶句した顔になる。
「わっ私がマサ君の彼女よ」
「確かに奥村からはそう聞いていた。だが、正人の口から一度として奥村が彼女だと俺は聞いてない。もちろん彼女がいることは聞いていた。ただ正人は最近できたと言っていた。奥村と最近付き合ったと言われればそうかもしれないが、それならもっと違う言い方もできたと俺は思う。だから奥村が正人の彼女ではないと判断した」
「なっ!」
直哉の淡々とした物言いに奥村も言葉を失う。
「何より奥村は正人のタイプではない」
「なっ!どういうことよ。マサ君は私の彼氏よ」
「そう思って居るのはお前だけじゃないのか?奥村」
「マサ君は私のモノよ!」
奥村は逆上して天体望遠鏡を振り上げる。
岬は素早く椅子から立ち上がり、直哉も転げるように身を引く。
間に置かれていたテーブルの上に天体望遠鏡が落とされる。
「ハァハァ、マサトは私のモノよ」
振り下ろした奥村は息を荒げて、直哉を睨みつける。振り下ろされたテーブルは見事に破壊されていた。
「あ~あ、怒らせてしまったね。僕も初めて見たときは驚いたけど、彼女の能力は強力だよ」
「能力?」
「ああ、どうやら僕たちは特殊な力を持って生まれてきたみたいだね。だからこそキミたちにできないことが僕たちにはできてしまう」
岬は余裕の笑みを浮かべて直哉を見つめていた。
「それに君の推理は穴だらけだ。僕が野崎という奴を殺した証拠はない。動機も根拠がないじゃないか。それに彼女が三上を殺した証拠はない。動機が嫉妬?それも憶測じゃないか。それなのに何を持って僕たちを追い詰めるつもりなんだい?」
岬は直哉の話を聞いて勝ち誇るように指摘してきた。
「そうですね。別に追い詰める気はありませんが。一つ一つ話していきましょうか」
直哉は椅子に座り直して足を組む。
「では話の論点を変えましょうか。正人は異能者の存在を知っていた件について」
直哉が発した言葉に、息を荒げていた奥村が驚いた顔する。
「何を驚いている。正人は刑事の父を持つんだ。そういう事件に関係を持ったことが合ってもおかしくはないだろう」
「何が言いたい?」
直哉の話に岬が言葉をかける。
「これは異能者犯罪だと考えています。第一の殺人では黒髭危機一髪という昔のオモチャを模していますが、その実、黒髭である野崎さんに突き刺さっていた剣はどこから作られたのかわからない代物だった。また第四の事件の際、全身をありえない方向に曲げたのは誰なのか、まぁ先ほどテーブルを粉々にした奥村の力を見れば、誰かと言うまでもないでしょうが」
「それは……物的証拠になりえない。なにより僕らの特別な力を証明する手立てがないだろう」
岬の言葉に動揺が見え隠れする。
だが、未だに証拠はない上に動機に関しては、本人たちが認めなければ意味がない。言い逃れできると岬は踏んでいた。
「何度も言っていますが。僕はあなた方を捕まえに来たわけではありません。また追い詰める気もない。ただ、伝えているだけです」
言い逃れを考えていた岬に直哉は変わらぬ態度で、淡々とした目的を告げる。
「貴方たちの犯罪を知っている者がいる。その事実があれば僕はそれでいいんです」
「その事実があったとしても、僕たちを捕まえられないぞ」
「そうですね。だが抑制はできる」
「抑制?」
「はい。あなたは完璧な人間だ。もし完璧な計画を見破られたらどうするでしょうか?負けを認める?それとも完璧になるまでやり直す?」
直哉の問に岬は考える素振りを見える。
「簡単ですよ。あなたは完璧をやり直そうとする。完璧を目指すために」
岬は顔を上げる。そして、いつの間に持っていたのか、剣が岬の手に収まっている。
「よく僕のことがわかっているじゃないか。君がいることで僕の完璧が崩れるのであれば、君を殺して僕は完璧を作り上げることにするよ」
岬は剣を振り上げる。奥村は呆然としたまま、動こうとしない。
岬は嫌らしい笑みで剣を振り下ろした。
「終わりだ」
だが、直哉に剣が届くことはなかった。
「なんだ、これは!」
岬が叫び声をあげたせいで、呆然としていた奥村が覚醒する。
「えっ、えっ、どうなって」
奥村が見たのは剣を振り上げたまま硬直している岬の姿だった。
「すみませんが、殺されてやる気はありません。俺は正人を殺した犯人を突き止めることと、同時に自身が感じた高揚がなんだったのか知りたかっただけなので、でもどうやら、思っていた心配とは違ったみたいです」
「心配?」
身体が固まって動かないが、言葉は発することができる岬が問いかける。
「はい。正人を見たとき、俺は興奮しました。正人の死体に高揚したんです。それは、俺もまた犯罪者として人を殺したいと思う衝動なのか、それとも別の理由があるのか不安でした。ですがあなたのお蔭で答えが出た」
顔を上げた直哉は清々しい顔をしていた。
「俺は犯罪者にはならない。むしろそれを解き明かす方が楽しいとね」
直哉の無邪気な笑顔に岬は恐怖を覚えた。
「雪!こいつを殺せ。こいつは俺たちの敵だ」
岬が叫び声をあげるが、奥村が動くことはなかった。
奥村もまた原因不明のまま動けないでいたのだ。
「すみません。時音さんですか。はい、はい。昨日の答えをお教えします。今日は影村さんと一緒でも大丈夫です」
直哉は電話が終わり、二人を見つめたままニッコリと笑った。
「警察の人がきます。自供するもよし、逮捕されるもよし。自由になさってください」
話は終わったと椅子に座ったまま、直哉は不敵に笑った。
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