キラナとオカネ:不思議を超えて 4
それでは、お話を始めましょう。
ソラトが暮らす街では、夜がさらに更けていった。
アピカの家の外では、小さなランタンが石畳の道に沿って、まだいくつも吊るされていた。金色の光が、尖った屋根を持つクラシックな建物や、暗くなり始めた窓、そして住民たちの家の庭に置かれた植木鉢を照らしている。
一日中、年越し祭りの準備をしていた住民たちのほとんどは、すでに休んでいた。夜風だけがゆっくりと通りを吹き抜け、ときおり玄関の近くに吊るされたランタンを揺らしている。
アピカの家の二階にある部屋は、静けさに包まれていた。
アピカはベッドの上ですでに眠っていた。淡い金髪の少女は、小さな青と黄色の花模様が描かれた白い毛布にくるまり、気持ちよさそうに寝息を立てている。
そのすぐ近くでは、ソラトも心地よさそうに眠っていた。
一方、キラナはまだ起きていた。
茶色い毛並みのキャットシーは窓辺に横たわり、カーテンの隙間から夜空を眺めていた。頭に生えた白い三日月形の二本の角が月明かりをわずかに反射し、背中の茶色い一対の翼はきれいに折りたたまれている。
キラナの頭の中には、数時間前から起きたさまざまな出来事が浮かんでいた。
森で見つけた不思議な花。
自分と仲間たちを飲み込んだ、色とりどりの光。
これまで想像したこともなかった、自分の新しい体。
そして何より、今も行方が分からないアイカ、ハルト、レン、カイトのこと。
キラナ(心の中):アイカ、ハルト、レン、カイト……みんな、今どこにいるんだろう?
キラナはゆっくりと息を吐いた。
キラナ(心の中):みんなが無事だといいな。絶対に探し出すから。こんなところで諦めたりしないよ。
キラナは再び夜空を見上げた。
金色の月が、ダイヤモンドのように輝く星々の間に浮かんでいる。その景色はとても美しく、今自分がどれほど見知らぬ世界にいるのかを、忘れてしまいそうになるほどだった。
しかし、ちょうど目を閉じようとしたそのとき――
謎の声:「キラナ……」
キラナはすぐに目を開いた。
頭を持ち上げ、部屋の中を見回す。
キラナ:「……え?」
何も変わっていなかった。
アピカはまだ眠っている。ソラトも動いていない。部屋は相変わらず静かで、まるで誰も声を発していなかったかのようだった。
キラナは眉をひそめた。
キラナ(心の中):今の……誰が私を呼んだの?
再び横になろうとした、そのときだった。
今度は、さっきよりもはっきりと声が聞こえた。
謎の声:「キラナ……ハルト……レン……カイト……そして、オカネ……」
キラナの目が大きく見開かれる。
キラナ:「……っ!?」
その声は、誰かが懐かしい人たちのことを思い出しているように聞こえた。優しく、少し遠くから聞こえてくるような声。それなのに、うまく言葉にできない不思議な感情が込められていた。
謎の声:「また、みんなで会えますように……」
キラナは勢いよく立ち上がった。
キラナ(心の中):今の声、私の友達の名前を呼んだ! それに、オカネの名前まで!
心臓がいつもより速く鼓動する。
声がどこから聞こえてきたのかは分からない。けれど、自分の目で確かめなければならない気がした。
キラナはアピカとソラトのほうを振り返った。
二人はまだぐっすり眠っている。
キラナ(小声):ちょっとだけ、外を見てくるね……。
キラナは慎重に窓へ向かった。音を立てないよう、小さな足で床をそっと歩いていく。
窓の前に着くと、前足を持ち上げ、カーテンを少しずつ引いた。
布が音もなく横へ動く。
外を見ると、通りは静まり返っていた。ランタンの光が石畳の上に広がり、木々の影が夜風に揺られている。
最初、キラナには怪しいものは何も見つけられなかった。
しかし、しばらくすると、遠くに白い姿が見えた。
一匹のキツネが道のそばに立っていた。
キラナは息をのんだ。
そのキツネの毛並みは、月明かりの下で柔らかく輝く、滑らかで真っ白な毛に覆われていた。頭の上には白いキツネ耳が立ち、瞳は黄金色に近い琥珀色で、淡いピンク色のグラデーションがかすかに混じっている。
しかし、キラナを驚かせたのは、それだけではなかった。
そのキツネの後ろには、とても美しい十三本の尾が生えていたのだ。
それぞれの尾は異なる色をしていた。濃い紫、ピンク、赤、オレンジ、淡いオレンジ、黄色、黄緑、緑、ターコイズグリーン、水色、濃い青、青みがかった紫、そして先端が柔らかく色づいた白。
十三本の尾はゆっくりと動いていた。ときおり毛がふわりと広がり、色とりどりの虹でできた大きな扇のように見える。
月の光が白い毛並みに触れ、暗い街並みの中でその姿をいっそう際立たせていた。
キラナは息を止めた。
キラナ:「まさか……」
その先の言葉は出てこなかった。
頭の中に、ある人物の姿が浮かんでいた。
ずっと心配していた人。
もう一度会いたくてたまらなかった人。
キラナはすぐに部屋のドアへと振り返った。
キラナ(小声):「確かめなきゃ……」
ベッドの端まで歩き、慎重に床へ降りる。
しかし、四本の足が床についた瞬間、キラナはふと立ち止まった。
自分の体を見下ろす。
ふさふさとした茶色い毛。
白い三日月形の角。
ペガサスの翼のような羽毛の翼。
先端が白い茶色の尻尾。
キラナ(心の中):そうだった……まだ、この体に慣れなきゃいけないんだよね。
小さく息を吐き、もう一度アピカとソラトを見た。
二人とも何の反応も示していない。
キラナ(小声):「ごめんね、アピカ。ちょっとだけ外に行ってくるね……」
そう言うと、キラナは部屋のドアへ向かった。
ドアをゆっくり開け、二階の廊下へと抜け出す。
ところが、白いキツネのことで頭がいっぱいだったキラナは、アピカの部屋のドアを閉め忘れてしまった。
そして、ベッドの上で一対の目が開いたことにも、まったく気づいていなかった。
実は、ソラトはすでに目を覚ましていたのだ。
魔法猫は頭を持ち上げ、開いたままの部屋のドアを見つめた。
それから、廊下の壁の向こうへ消えていくキラナの姿を目で追った。
ソラト(小声):「……キラナ?」
首を少し傾ける。
ソラト(心の中):こんな真夜中に、どこへ行くつもりなんだ?
ソラトはベッドから起き上がった。
足音を立てないように軽やかに歩き、キラナの後を追って部屋を出た。
### シーン2 — アピカの家の廊下での秘密の計画
二階の廊下は薄暗かった。
いくつかの窓から月明かりが差し込み、木の床に細い光の筋を作っている。壁に飾られた額入りの絵はぼんやりと浮かび上がり、廊下の奥には一階へ続く階段が見えていた。
キラナは慎重に歩いていた。
誰かが後をつけてきていないか、時折後ろを振り返って確かめている。
キラナ(心の中):あのキツネ、まだ遠くへ行っていませんように……。
そのとき――
ソラト:「キラナ。」
キラナ:「わあっ!?」
キラナは驚いて飛び上がりそうになった。すぐに振り返り、反射的に前足の片方で口を押さえる。
数歩後ろにはソラトが立っていた。
魔法猫は小さく笑っている。まるで、ちょっとしたいたずらに成功したかのようだった。
キラナは目を大きく見開いてソラトを見つめた。
キラナ(小声):「オカネ! びっくりさせないでよ!」
ソラトは笑いをこらえた。
ソラト(小声):「ごめん、ごめん。そんなに驚かせるつもりはなかったんだ。」
キラナは前足を下ろした。
キラナ:「もう! 心臓が飛び出るかと思ったよ!」
ソラト:「心臓はちゃんと元の場所にあるよね?」
キラナはじっとソラトを見つめた。
キラナ:「……。」
ソラトはとうとう小さく笑ったが、家の人たちを起こさないよう、すぐに声を抑えた。
キラナはため息をつき、それから、謝罪を受け入れるようにうなずいた。
キラナ:「分かった、許してあげる。でも、次からは驚かせないでね、オカネ。」
ソラト:「分かった。もうしないよ。」
ソラトは、まだ開いたままのアピカの部屋のドアに目を向けた。
ソラト:「先にドアを閉めてくるね。アピカを起こさないようにしないと。」
キラナ:「うん。」
ソラトは向きを変え、部屋へ戻った。きしむ音が大きくならないよう、ゆっくりとドアを押して閉める。
それから、再びキラナのところへ戻ってきた。
ソラト:「さて、説明してくれる? どうしてまだ起きているんだい?」
キラナ:「眠くないんだもん。」
ソラトは眉を上げた。
ソラト:「さっき、窓を眺めながら今にも眠りそうだったのに。」
キラナ:「それは別!」
ソラト:「へえ、そうなんだ。」
キラナ:「そうだよ!」
ソラトはしばらくキラナを見つめてから、もう一度尋ねた。
ソラト:「それなら、どうして部屋を出てきたの?」
キラナは急に黙り込んだ。
さっき聞こえた謎の声と、窓の外に見えた十三本の尾を持つ白いキツネの姿を思い出す。
キラナ:「実は……何か聞こえたんだ。」
ソラト:「何か聞こえた?」
キラナ:「私の名前を呼ぶ声がしたの。その声は、ハルトとレンとカイト、それから……オカネの名前も呼んでいた。」
ソラトの表情が真剣になった。
ソラト:「僕の名前も? つまり、その声はキラナ、ハルト、レン、カイト、それに僕の名前を一度に呼んだということ?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。それから、『また、みんなで会えますように』って言っていたよ。」
ソラトは黙り込み、キラナの話を理解しようとしていた。
ソラト:「もしかすると、それはただの――」
キラナ:「私、あのキツネのところへ行かなきゃ!」
ソラトは話すのをやめた。
ソラト:「……キツネ?」
キラナはすでに階段へ向かって歩き始めていた。
キラナ:「そう! アピカの部屋の窓から、キツネが見えたの!」
ソラトはすぐにキラナの後を追った。
ソラト:「ちょっと待って。どんなキツネだったんだい?」
キラナは歩き続けながら振り返った。
キラナ:「白いキツネ! 毛並みはふわふわで、目は金色っぽくて、尻尾がものすごくたくさんあったの!」
ソラト:「たくさん?」
キラナは自信たっぷりにうなずいた。
キラナ:「十三本!」
ソラトは一瞬、歩みを止めた。
ソラト:「……え?」
キラナ:「十三本の尻尾があるキツネだよ!」
ソラトは信じられないという表情でキラナを見つめた。
ソラト:「十三本の尻尾を持つキツネ!? そんなキツネ、僕は見たことがないよ!」
キラナは不思議そうにソラトを見た。
キラナ:「この世界には、そういうキツネはいないの?」
ソラト:「僕の知る限りではね。僕が知っている魔法のキツネは、普通は最大でも九本の尻尾を持っている。九尾のキツネでさえ、特別な魔法生物なんだ。」
ソラトは再び歩き始め、階段へ向かうキラナの後を追った。
ソラト:「でも、十三本の尻尾なんてね。そんなキツネがこの世界にいるという話は、一度も聞いたことがないよ。」
キラナは目を丸くした。
キラナ:「本当!?」
ソラト:「うん。」
キラナは再び前を向いた。
キラナ:「それなら、あのキツネは十三尾のキツネ……キツネかもしれないね!」
ソラト:「キツネ?」
キラナ:「うん。見たときに、そう思ったんだ。」
ソラトはゆっくりと首を横に振った。
ソラト:「本当に珍しい生き物なら、まだ誰にも発見されていない種類がいてもおかしくないかもしれない。でも、僕には断言できないよ。この世界で暮らしてきたけれど、十三本の尻尾を持つキツネの話は聞いたことがないからね。」
キラナ:「わあ……じゃあ、本当に珍しいんだね!」
ソラト:「君が見たものが間違いでなければ、きっとそうだろうね。」
二人はようやく廊下の端に着き、木の階段を下り始めた。
アピカや、休んでいる彼女の両親を起こさないよう、一歩一歩慎重に進んでいく。
一階に着くと、キラナは玄関のドアを見つめた。
そして、そのすぐ前で立ち止まった。
キラナ:「でも……ドアには鍵がかかっているよね?」
ソラトもドアを見た。
ソラト:「そうかもしれないね。」
キラナ:「じゃあ、どうやって外に出るの?」
ソラトは小さく笑った。
ソラト:「魔法で開けられるよ。」
キラナの目がぱっと輝いた。
キラナ:「本当!?」
ソラト:「もちろん。でも、静かにするんだよ。」
キラナ:「分かってる、分かってる!」
ソラトはドアの前に立った。ドアノブに意識を集中させ、それからゆっくりと尻尾を持ち上げる。
尻尾の先に、淡い白い光が現れた。
空中に薄い魔法陣が浮かび上がる。中心の周りを小さな線がくるくると回り、柔らかな光を放っていた。その光は、部屋全体を照らすほど強くはない。
ソラトが尻尾を少し動かす。
魔法陣はドアノブのほうへ近づき、そっと触れた。
次の瞬間――
カチャ。
ドアの鍵が開いた。
キラナの目が一気に大きくなる。
キラナ:「やっ――!」
ソラトは慌てて振り返った。
ソラト(小声):「しーっ!」
キラナはすぐに両方の前足で口を押さえた。
階段のほうをちらりと見て、誰も起きていないことを確かめる。
大丈夫だと分かると、キラナはゆっくりと前足を下ろした。
キラナ(小声):「えへへ……ごめん。」
ソラトはおかしそうに笑った。
ソラト:「静かにするように言ったばかりなのに。」
キラナ:「分かってるよ! ちょっと嬉しくなっちゃっただけ!」
ソラト:「ちょっと?」
キラナは顔をそらした。
キラナ:「とにかく、今度は私がドアを開けてみる!」
ソラトはうなずき、横へ移動した。
キラナはドアに向き直った。ソラトが尻尾を動かした様子を思い出し、ドアノブに意識を集中させる。
先端が白い茶色の尻尾が、ゆっくりと持ち上がった。
その周りに、かすかな光が現れる。
キラナは、二匹が通れるくらいの幅だけドアを開けるよう、魔法を操ろうとした。ドアが大きく動きすぎたり、壁にぶつかったりしないようにしたかったのだ。
ドアノブが小さく震える。
そして、ドアが少しずつ開いていった。
キラナ(小声):「できた……!」
ソラトは横から様子を見守っていた。
ソラト:「いい感じだよ。そのまま集中して。」
キラナは二匹の魔法猫が通れるだけの幅までドアを開いた。
それから、魔法の流れを止める。
キラナ:「よし! これで外に出られるね!」
ソラト:「ドアを閉めるのも忘れないでね。」
キラナ:「あっ、そうだった!」
キラナとソラトは慎重に家の外へ出た。二匹が外に出ると、キラナは再び魔法を使い、ドアを引き寄せて閉めた。
ドアが小さな音を立てる。
カチャ。
キラナはドアを見つめ、それから満足そうに笑った。
キラナ:「完了!」
ソラトはほっとしたような表情でキラナを見た。
ソラト:「それじゃあ、あのキツネを探しに行こう。」
キラナは元気よくうなずいた。
キラナ:「うん!」
こうして、静かだった夜は、魔法の世界の街で始まる小さな捜索の時間へと変わっていった。
### シーン3 — ダイヤモンドの空の下に立つ白い姿
キラナとソラトは、街の通りを歩き始めた。
ランタンの光が石畳に反射し、夜風が道沿いの木々の葉を揺らしている。いくつかの家の窓にはまだ暖かな光が灯っていたが、ほとんどの家では、すでにドアが閉められていた。
キラナはソラトの隣を歩いていた。
十三本の色とりどりの尾を持つ白いキツネを探して、時折右や左を見回している。
キラナ:「あのキツネ、どこへ行っちゃったんだろう?」
ソラト:「もう少し遠くまで歩いていったのかもしれないね。」
キラナ:「でも、さっき窓からはっきり見えたんだよ!」
ソラト:「それなら、まずはこの辺りを探してみよう。」
二匹は捜索を続けた。
キラナは植木鉢の陰をのぞき込んだり、家と家の間にある細い道を眺めたり、木々の近くに置かれた石のベンチに目を向けたりした。
しかし、あのキツネの姿はどこにもなかった。
キラナ(心の中):もしかして、もう行っちゃったのかな……。
キラナは少し立ち止まった。
残念な気持ちが、胸の中に広がり始める。
友達の名前を呼ぶ謎の声を聞いたあとだったから、あのキツネが何か答えを知っているのではないかと期待していた。
それに、もし自分の予想が正しければ……。
もし、あのキツネが本当にアイカだったら……。
キラナは再び顔を上げた。
キラナ:「もう一度探そう、オカネ!」
ソラト:「分かった。」
二匹はさらに先へ進み、少し広くなった通りに出た。そこには建物の間に何本かの木が生えていて、空がよく見えるように石のベンチが置かれていた。
キラナはランタンのそばを通り過ぎた。
そして、突然足を止めた。
少し先の石のベンチの上に、一匹の白いキツネが座っていた。
十三本の尾が、その後ろに優雅に広がっている。月明かりを浴びた色鮮やかな尾は、さらに美しく見えた。
キツネは空を見上げていた。
目の前には、広々とした夜空が広がっている。ダイヤモンドのように輝く星々が、金色の月に照らされた暗い空一面に散りばめられていた。
キツネはその景色にすっかり見入っているようで、道のほうから近づいてくる二匹の魔法猫には気づいていなかった。
キラナの目がぱっと輝く。
キラナ(小声):「あそこだ!」
ソラトもキラナの視線を追った。
十三本の尾を見た瞬間、ソラトは言葉を失った。
ソラト(小声):「……本当だったんだ。」
キラナはソラトを振り返った。
キラナ:「何が本当なの?」
ソラト:「本当に十三本の尾があるんだね。」
ソラトはまだ驚いている様子だった。
ソラト(心の中):こんな生き物が本当に存在するなんて……。こんなキツネの話、聞いたこともなかった。
一方、キラナはもう待ちきれなかった。
キラナ:「それじゃあ、会いに行こう!」
ソラトはうなずいた。
二匹は石のベンチへ近づいていく。
キラナの歩く速度は少しずつ速くなっていたが、キツネを驚かせないように、走るのは我慢していた。
あと数歩というところまで近づくと、キラナはついに声をかけた。
キラナ:「ねえ!」
白いキツネはすぐに振り返った。
琥珀色の瞳が、少し不思議そうにキラナを見つめる。白い耳がぴくりと動き、十三本の尾は一瞬だけ揺れるのをやめた。
白いキツネ:「どうしたの?」
キツネは首を傾けた。
それから、視線をキラナの茶色い毛並みや、角と翼のある体へと移した。
白いキツネ(心の中):この変わった猫は、どうして急に私を呼んだんだろう?
キラナはすぐには答えなかった。
ただ、キツネの目を見つめていた。
瞳の色は、キラナが覚えているものとは少し違っていた。今の体も、以前とはまったく違う。
それでも、その表情のどこかに、とても見覚えのあるものを感じた。
知らない相手に向けるものではない、懐かしい感覚。
キラナは確信していた。
目の前にいるのは、見知らぬ誰かではない。
キラナは微笑んだ。
キラナ:「もしかして……アイカ?」
一瞬、すべてが静まり返った。
白いキツネは凍りついたように動かなくなった。
目が大きく見開かれる。耳がぴんと立ち、十三本の尾が一斉に動いた。まるで、その名前を聞いて驚いたかのように。
白いキツネ:「……キラナ?」
声が震えていた。
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。私だよ。」
キツネの目に涙が浮かび始めた。
白い毛に覆われた頬を、一筋の涙が伝っていく。目の前にいるのが、ずっと会いたいと思っていた友達本人だなんて、まだ信じられないようだった。
アイカ:「キラナ……!」
次の瞬間、アイカは石のベンチから飛び降りた。
十三本の尾を後ろになびかせながら、キラナに向かって勢いよく走ってくる。
キラナ:「えっ――アイカ、ちょっ――」
間に合わなかった。
アイカはそのままキラナに飛びつき、ぎゅっと強く抱きしめた。
ドンッ!
キラナは石畳の上に倒れてしまった。
キラナ:「うわああっ!?」
ソラトは驚き、半歩後ろへ飛びのいた。
アイカはそんなことにはまったく気づいていなかった。嬉しさのあまり、涙を流しながらキラナを強く抱きしめている。
アイカ:「キラナ!! また会えて本当に嬉しいよ!!」
キラナはアイカの下敷きになったまま、なんとも言えない表情を浮かべていた。
キラナ:「わ、分かった、分かった! 私も嬉しいよ!」
アイカはさらに強く抱きしめる。
アイカ:「本当にここで会えるなんて思わなかった!」
キラナ:「アイカ……。」
アイカ:「もうずっと会えないんじゃないかって思ってた!」
キラナ:「アイカ……。」
アイカ:「キラナ、私ね――」
キラナ:「アイカ、お願いだから離して! 苦しいよ!」
アイカははっとした。
アイカ:「えっ!?」
慌てて抱きしめるのをやめ、少し後ろへ下がる。
アイカ:「ご、ごめんね! 嬉しすぎて、つい……!」
キラナはほっと息を吸い込んだ。
キラナ:「はあ……大丈夫だよ。」
キラナは起き上がって地面に座り、茶色い毛についた埃を軽く払った。
キラナ:「気にしないで。アイカの気持ちは分かるよ。私だって、また会えて嬉しいんだから。」
アイカはしばらくキラナを見つめていた。
それから、白いキツネの顔に再び大きな笑顔が広がった。
アイカ:「本当に嬉しいよ、キラナ!」
キラナも優しく微笑んだ。
キラナ:「うん。私もだよ、アイカ。」
二人はしばらく、ただお互いの顔を見つめ合っていた。
星がいっぱいに広がる夜空の下で、この再会は、キラナがずっと心の中で願い続けていたことのように感じられた。
サクラモリの森で不思議な花に吸い込まれてから、キラナには、もう一度友達に会えるのかどうかさえ分からなかった。
けれど今、そのうちの一人が目の前にいる。
アイカ。
いつもみんなが居心地よく過ごせるように気を配ってくれる友達。
みんなの心を一つにしてくれる友達。
そして今、ようやくキラナを見つけることができて、嬉し涙を流している友達。
キラナの胸に、温かな気持ちが広がった。
キラナ(心の中):アイカ……本当にここにいたんだね。
キラナは顔を上げた。
キラナ:「アイカ、元気そうで本当によかった。」
アイカ:「私もだよ! でも……」
アイカは突然、言葉を止めた。
視線がキラナの体全体へと動き始める。
まず、キラナの頭にある白い角を見た。それから、頭の横に垂れ下がった長い耳に目を向ける。次に視線を首元へ移すと、首の後ろに沿って、小さな角のような白い突起がいくつか並んでいることに気づいた。
続いて、キラナの背中に折りたたまれた、茶色い羽毛の翼を見つめる。
さらに、ふさふさとした茶色い毛に覆われた四本の足、そして先端が白い茶色の尻尾へと目を移した。
アイカは反対側へ首を傾けた。
アイカ:「……キラナ?」
キラナ:「ん?」
アイカ:「キラナ……魔法の猫になっちゃったの?」
キラナは少しだけ自分の体を見下ろした。
キラナ:「うん。キャットシーに変身しちゃったんだ。」
アイカはまばたきをした。
アイカ:「キャットシー?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「キャットシーは、魔法を持つ猫の魔法生物なんだって。人間の言葉を話せるし、普通の猫とは違う体の特徴を持っていて、魔法の能力も使えるんだよ。」
アイカはもう一度、キラナの白い角を見た。
アイカ:「じゃあ、その角も今のキラナの体の一部なの?」
キラナ:「うん。」
アイカ:「翼も?」
キラナ:「うん……。」
アイカ:「それに、その尻尾も……?」
キラナ:「そうだよ、アイカ! 全部、今の私の体の一部なの!」
アイカは少しの間、黙り込んだ。
そして、再び目を輝かせた。
アイカ:「わあ! すっごく個性的だね!」
キラナは少し照れくさそうに笑った。
キラナ:「えへへ……ありがとう?」
キラナの後ろから、ようやくソラトも口を開いた。
ソラト:「そうだね。キャットシーは、別の姿に変わることもできるんだ。人間の姿になったり、元の姿に戻ったりすることもね。」
キラナはすぐにソラトを振り返った。
キラナ:「ちょっと待って!」
ソラトはキラナを見た。
キラナ:「今、人間の姿にも変われるって言った?」
ソラト:「うん。」
キラナ:「それに、元の姿にも戻れるの?」
ソラト:「そうだよ。」
キラナは黙り込んだ。
そして、自分の四本の足を見下ろした。
キラナ(心の中):じゃあ、私も人間の姿に戻れる可能性があるってこと?
目が少しずつ輝き始める。
しかし、ソラトはすぐに付け加えた。
ソラト:「ただし、すぐにできるというわけじゃないよ。自分の体の能力を覚えて、練習する必要があるんだ。」
キラナはゆっくりとうなずいた。
キラナ:「うん……分かった。」
それから、再びアイカのほうを向いた。
キラナ:「さて、これで分かったよね、アイ――」
最後まで言い終わる前に、アイカが突然キラナの横を走り抜けた。
キラナ:「えっ?」
アイカはソラトのほうへ勢いよく走っていく。
ソラト:「……え?」
アイカ:「オカネーー!!」
ソラト:「待っ――」
ドンッ!
アイカはそのままソラトに抱きつき、二匹は一緒に石畳の上へ倒れ込んだ。
ソラト:「うわあっ!?」
キラナは口を少し開けたまま、呆然としていた。
アイカに抱きしめられているソラトを見つめ、それから、幸せそうなアイカに目を向ける。
なんだか、とても見覚えのある光景だった。
キラナ:「……アイカ、今も同じことしたよね。」
アイカは、自分がソラトを強く抱きしめていたことに気づいた。
慌てて腕を離し、後ろへ下がる。
アイカ:「ご、ごめんね、オカネ!」
ソラトは頭を持ち上げた。
ソラト:「大丈夫だよ、アイカ。」
アイカは、まだ少し涙の残る輝いた瞳でソラトを見つめた。
アイカ:「オカネにもまた会えて、本当に嬉しいよ!」
ソラトは優しく微笑んだ。
ソラト:「僕も、君が無事でよかったよ。」
アイカはほっと息をついた。
アイカ:「よかった……。」
キラナは二人の様子を見つめ、微笑んだ。
今夜起きたすべての出来事のあとで、アイカとソラトが目の前にいることが、キラナの心を少し落ち着かせてくれた。
少なくとも、これでもうソラトと二人きりではない。
仲間の一人が見つかったのだ。
ハルト、レン、カイトの居場所はまだ分からない。それでも、キラナの中には再び希望が芽生え始めていた。
### シーン4 — ようやく再会した三人
三人が再び立ち上がると、ソラトは体についた毛を軽く払った。
それから、さらに静かになった通りを見回す。
ソラト:「そろそろアピカの家に戻ったほうがいいね。」
アイカはすぐに振り返った。
アイカ:「アピカの家?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。今は私たち、アピカの家に泊めてもらっているんだ。」
アイカは首を傾けた。
アイカ:「待って、二人はもうこの世界で友達ができたの? それに、泊まる場所まで見つけたの?」
キラナ:「うん。」
アイカ:「どうしてそんなことになったの!?」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「話すとちょっと長くなるよ。」
アイカの目がますます輝いた。
アイカ:「じゃあ、私にも聞かせて!」
キラナは少しだけ空を見上げた。
そして、小さくあくびをした。
キラナ:「それはまた今度ね、アイカ。もう眠くなってきちゃった。」
アイカは黙り込んだ。
キラナを見て、それからソラトを見て、もう一度キラナに視線を戻す。
アイカ:「……そっか。」
キラナはうなずいた。
キラナ:「明日、みんなが落ち着いてから話そう。」
アイカは少し考えた。
それから、再び満面の笑みを浮かべた。
アイカ:「分かった! それじゃあ、アピカの家に行こう!」
キラナ:「えへへ、うん。」
ソラト:「行こう。あまり長く外にいるわけにはいかないからね。」
アイカは元気よく背筋を伸ばした。
十三本の尾が、体の後ろで一斉に動く。
キラナはその様子を興味深そうに眺めた。
キラナ:「そういえば、アイカ……。」
アイカ:「ん?」
キラナ:「一つ聞きたいことがあるんだ。」
アイカ:「何でも聞いて!」
キラナはアイカとソラトと一緒に、通りを歩き始めた。
キラナ:「私たちが、十二枚のカラフルな花びらと真ん中に顔がある花に吸い込まれたとき、アイカはどこに現れたの?」
アイカは前を見つめ、あのときの出来事を思い出した。
アイカ:「私はお城に現れたよ!」
キラナはすぐに振り返った。
キラナ:「お城!?」
アイカ:「うん! ものすごく大きなお城だったの。何が起きているのか理解する暇もなくて、気づいたら上から落ちていたんだ!」
ソラトも振り返った。
ソラト:「お城の上から落ちてきたの?」
アイカ:「だいたいそんな感じ! でも、運よく茂みの上に落ちたんだ。」
キラナはほっと息をついた。
キラナ:「怪我がなくてよかった。」
アイカ:「うん、私もそう思う。最初は本当に何が何だか分からなかったよ。茂みから出て、それから大通りに向かって歩いたんだ。」
アイカは一本の尾を動かし、少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。
アイカ:「でも、通りに出た途端……みんなが私を見てきたの!」
キラナはその状況を想像し始めた。
十三本のカラフルな尾を持つ白いキツネが、突然街の通りに現れた。しかも、茂みから出てきて、普段どおりに活動している住民たちの間を歩いていたのだ。
みんなが振り返るのも無理はない。
キラナ:「……その様子、想像できるよ。」
アイカ:「もう、すっごく恥ずかしかった! どうしたらいいのか分からなくて、そのまま走って逃げちゃったんだ。」
ソラト:「それは、かなり自然な反応だと思うよ。」
アイカ:「それから、少し落ち着くまでずっと走っていたの。落ち着いてからは、街を歩き回って、ここがどんな場所なのか調べようとしたんだ。」
キラナは真剣に話を聞いていた。
キラナ:「じゃあ、最初から私たちとは離れ離れだったんだね?」
アイカはうなずいた。
アイカ:「うん。みんながどこにいるのか、全然分からなかった。それに、どうすれば元の場所に帰れるのかも分からなかったよ。」
アイカの笑顔が少しだけ弱まった。
アイカ:「お城の周りに行けば、みんなに会えるかもしれないって思っていたんだけど、しばらく歩いていたら、別の街の区域に着いちゃったんだ。」
キラナは気遣うようにアイカを見つめた。
キラナ:「そうだったんだ……。」
アイカ:「でも、今はキラナとオカネに会えたよ!」
アイカは再び笑顔になった。
アイカ:「だから、もう一人ぼっちじゃないね!」
キラナも笑顔を返した。
キラナ:「うん。ハルトとレンとカイトも探そうね。」
ソラト:「一人ずつ状況を確かめていこう。十分な情報がないうちに、何かを決めつけないほうがいい。」
アイカは力強くうなずいた。
アイカ:「そうだね! みんなを見つけなきゃ!」
三人は夜空の下を歩き続けた。
真ん中にはキラナ。その隣にはアイカ、反対側にはソラトがいる。
体は以前とは違う姿になり、今いる世界のこともまだ十分には理解できていない。
それでも、少なくとも仲間たちの一部を再び見つけることができた。
キラナは心の中で、そっと感謝した。
キラナ(心の中):アイカは見つかった……。次は、ほかのみんなを探さなきゃ。
### シーン5 — 休息の場所になった小さな家
しばらくして、三人はようやくアピカの家の前に到着した。
その家は、通りに並ぶほかの建物の間に、落ち着いた雰囲気で建っていた。
壁は淡いクリーム色で、屋根は濃い茶色。建物は二階建てで、大きな窓がいくつかあり、周囲のランタンの光を反射していた。
玄関の脇には植木鉢がきれいに並べられている。ドアの近くには小さなランタンが吊るされ、玄関へと続く小道を照らしていた。
その家は、温かく、きちんと手入れされているように見えた。
アイカはドアから数歩離れたところで立ち止まった。
目がぱっと輝く。
アイカ(小声):「わあ……。」
好奇心いっぱいの表情で、建物を見上げている。
アイカ:「とっても素敵なお家だね!」
キラナはアイカの表情を見て微笑んだ。
キラナ:「うん。アピカと家族のみんなが、私たちを泊めてくれることになったんだ。」
アイカ:「わあ、すごく親切な人たちなんだね!」
ソラト:「うん。さっきから、いろいろ助けてもらっているんだ。」
アイカは感心したようにうなずいた。
アイカ:「それなら、明日、みんなにお礼を言わなくちゃ!」
キラナとソラトはドアへ向かって歩いた。
アイカもすぐに後ろからついていく。
玄関の前に着くと、キラナは少し気まずそうな表情でソラトを振り返った。
キラナ:「オカネ……。」
ソラト:「ん?」
キラナは照れくさそうに笑った。
キラナ:「またドアを開けてくれない? もう眠くなってきちゃった。えへへ……。」
ソラトは数秒間キラナを見つめた。
それから、小さく微笑んだ。
ソラト:「分かったよ。」
キラナはほっと息をついた。
キラナ:「ありがとう!」
ソラトはドアの前へ進み、尻尾を持ち上げて鍵に魔法を集中させた。
尻尾の先に、淡い白い光が現れる。
キラナの後ろに立っていたアイカは、その様子をじっと見つめた。
空中に魔法陣が浮かび上がると、アイカの目が大きく見開かれた。
アイカ(小声):「わあ……!」
ソラトはゆっくりと尻尾を動かした。
小さな音とともに、ドアの鍵が開く。
そして、三匹が通れるだけの幅を残して、ドアが内側へ開いた。
ソラトは魔法を止め、尻尾を自然に下ろした。
ソラト:「開いたよ。入ろう。」
キラナはすぐにドアをくぐった。
キラナ:「やっと入れる……。」
アイカはまだ、ソラトが魔法を使った場所を見つめていた。
アイカ(小声):「オカネ、どうやって今の魔法を使ったの?」
ソラトはアイカを振り返った。
ソラト:「それは明日説明するよ。」
アイカ:「明日?」
ソラト:「うん。もうかなり遅いからね。アピカや家族のみんなを起こしたくないだろう?」
アイカはすぐにうなずいた。
アイカ:「そうだね! すっかり忘れてた。」
それでも、彼女は感心した様子でドアを見つめていた。
アイカ:「でも、私も早く魔法を覚えてみたいな!」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「えへへ、すごく楽しみにしているみたいだね。」
アイカ:「もちろん! 魔法がいっぱいある新しい世界に来たんだもん!」
ソラトは二人の会話を聞きながら、ただ微笑んでいた。
アイカが中へ入ると、ソラトは再び魔法を使って玄関のドアを閉めた。
ドアはゆっくりと動き、最後にはぴったりと閉じられた。
カチャ。
鍵が元どおりにかかる。
ソラトは尻尾を下ろした。
ソラト:「よし、これでアピカの部屋に戻れるね。」
キラナ:「行こう。」
アイカ:「うん!」
三人は木の階段へ向かって歩き始めた。
### シーン6 — 壁の絵とアイカの好奇心
その夜、アピカの家はとても静かだった。
木の階段に着いたとき、アイカは突然歩く速度を落とした。
階段沿いの壁には、いくつもの額入りの絵がきれいに飾られていた。風景画や花の絵、鮮やかな色を使った装飾的な作品もある。
アイカは一枚の絵に目を向け、それから別の絵へと視線を移した。
アイカ(小声):「わあ……絵がいっぱいあるね。」
先を歩いていたキラナは振り返った。
額に入った絵を目を輝かせながら眺めているアイカの姿が見える。
キラナは微笑んだ。
キラナ(心の中):アイカって、昔から面白そうなものを見つけると、すぐに興味を持つんだよね。
ソラト(小声):「キラナ、先へ進もう。早く寝ないと。」
キラナ:「分かった、分かった。」
キラナは再び階段を上り始め、ソラトもその後に続いた。
アイカは最後にもう一枚の絵をちらりと見てから、二匹の後を追った。
二階に着くと、月明かりに照らされた廊下へと入っていく。
アイカは再び右や左を見回した。
部屋のドアや壁に飾られた額、小さなテーブルなど、廊下の隅々まで興味深そうに眺めている。
キラナはもう一度、後ろを振り返った。
アイカは、まるで家の中のあらゆる場所を観察したいかのように、好奇心いっぱいの表情で歩いていた。
キラナはただ微笑んだ。
キラナ(心の中):アイカはやっぱり変わらないな。
数歩進むと、三人はアピカの部屋の前に到着した。
ソラトはドアの前に立ち、尻尾を持ち上げた。淡い白い光が現れ、ドアノブがゆっくりと動く。
ドアは慎重に開いた。
ソラトはドアが壁にぶつからないように気をつけ、それからキラナとアイカに道を譲った。
ソラト(小声):「どうぞ。」
キラナ:「ありがとう、オカネ。」
アイカ:「ありがとう!」
三人は部屋の中へ入った。
中に入った途端、アイカはすぐに周囲を見回した。
アピカの部屋はかなり広かった。壁は淡いクリーム色で、飾りつけもシンプル。部屋全体が温かみのある雰囲気に包まれている。
窓の近くには、木製の椅子と勉強机が置かれていた。机の上には何冊かの本や筆記用具、丸められた紙、それから工作道具が入った小さな箱が並んでいる。
反対側の壁には、大きな洋服ダンスが置かれていた。
部屋の中央にはベッドがあり、青と黄色の小さな花模様が描かれた白い毛布がかけられている。
アイカはそのすべてを、ますます輝く目で見つめた。
アイカ(小声):「わあ……面白そうな部屋だね!」
キラナはアイカの様子を見た。
キラナ:「気に入った?」
アイカはすぐに振り返った。
アイカ:「うん!」
再び勉強机と、その上にある工作道具の箱に目を向ける。
アイカ:「本も工作道具もたくさんあるね。ここにあるもの、全部気になっちゃう!」
キラナは微笑んだ。
キラナ:「アピカは工作が好きなんだよ。」
アイカ:「本当? すごい! 明日、見せてもらいたいな!」
ソラトは二人を眺めながら、薄く微笑んだ。
ソラト:「その話は明日にしよう。今はもう寝たほうがいいよ。」
キラナはすぐにうなずいた。
キラナ:「うん。もうすごく眠いよ。」
アイカ:「私も!」
三人はベッドへ向かって歩き始めた。
### シーン7 — おやすみ、みんな
ベッドに着くと、アイカは迷うことなく先に上がった。
そのまま白い毛布の上に寝転がる。
アイカ:「わあ! ふかふかだね!」
キラナはアイカの様子を見て、くすりと笑った。
キラナ:「アイカ、すごく疲れているみたいだね。」
アイカはベッドの上に寝転がったまま、素早くうなずいた。
アイカ:「うん! さっきからあちこち走り回っていたから、もうくたくただよ。」
キラナ:「この世界に来てから、ずっと走っていたの?」
アイカ:「ずっとってわけじゃないけど……かなり走ったよ!」
ソラトもベッドに上がり、二人の近くに座った。
ソラト:「それなら、今は休む時間だね。明日も、理解しなきゃいけないことがたくさんあるから。」
アイカはうなずいた。
それから、ベッドの反対側に目を向ける。
そこではアピカが、まだぐっすりと眠っていた。少女は毛布にくるまり、とても気持ちよさそうにしている。自分の部屋に魔法猫が二匹増え、さらに十三本の尾を持つキツネまでいることには、まったく気づいていない。
アイカはしばらくアピカを見つめた。
アイカ(小声):「あの子がアピカ?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。ここに泊めてくれたのはアピカなんだ。」
アイカ:「とても優しそうな子だね。」
ソラト:「そうだね。アピカとレイチェルが、僕たちがこの街に来たばかりのときに助けてくれたんだ。」
アイカは微笑んだ。
アイカ:「それなら、明日、二人にお礼を言わなきゃね。」
キラナは賛成するようにうなずいた。
キラナ:「うん。明日の朝にしよう。」
アイカは再び横になった。
アイカ:「それじゃあ……もう寝よう!」
キラナとソラトは顔を見合わせ、まだ元気いっぱいのアイカを見て小さく笑った。こんなに遅い時間なのに、彼女の元気はまだ完全には消えていないようだった。
キラナは楽な姿勢を探した。誰かの邪魔にならないように茶色い翼をたたみ、尻尾を体の横にそっと置く。
頭にある白い三日月形の角は、窓から差し込む月明かりの中で、ぼんやりと浮かび上がっていた。
アイカは目を閉じた。
ソラトも横になり始める。
キラナは二人を見つめてから、おやすみの挨拶をした。
キラナ:「おやすみ、オカネ。おやすみ、アイカ。」
アイカは一瞬だけ目を開け、キラナに微笑んだ。
アイカ:「キラナも、おやすみ。」
ソラトは小さくうなずいた。
ソラト:「おやすみ。」
キラナは微笑んだ。
キラナ:「おやすみ。」
ゆっくりと、部屋は再び静けさに包まれていった。
窓の外からは、風の音がかすかに聞こえてくる。通りのランタンはまだ灯り続け、金色の月明かりが木の床に落ちていた。
ずっと元気だったアイカも、ようやく眠りにつき始めた。
ソラトは長い夜の疲れを癒やすように目を閉じた。
キラナも心を落ち着かせようとする。
しかし、完全に眠りにつく前に、もう一度だけ夜空を見上げた。
星々は、まだダイヤモンドのように輝いている。
金色の月も、変わらず空に浮かんでいた。
そして、この見知らぬ世界で、キラナはもう一人ぼっちではなかった。
アイカが戻ってきたのだ。
少なくとも今夜は、みんな一緒に休むことができる。
キラナはゆっくりと目を閉じた。
キラナ(心の中):明日……ハルトとレンとカイトを探し始めよう。
静かに息を吐く。
キラナ(心の中):きっと、またみんなに会えるよ。
外では、街が翌日に控えた年越し祭りを迎える準備をしていた。家々は静まり返り、通りから人影はほとんどなくなり、ランタンの光だけが街のあちこちを照らし続けている。
その頃、アピカの家の二階にある素朴な部屋では、長い間離れ離れになっていた三人の仲間が、ようやく同じ場所で眠りにつこうとしていた。
キャットシーになったキラナ。
これまで人間の世界でキラナと一緒に過ごし、今は自分の故郷である世界へ戻ってきたソラト。
そして、色とりどりの十三本の尾を持つ、不思議なキツネのアイカ。
ハルト、レン、カイトの居場所は、まだ分からない。
彼らをこの世界へ連れてきた不思議な花のことも、まだすべてを理解できていない。
キラナがどうすれば人間の姿に戻れるのかも、分からないままだ。
けれど、今夜はもう何かをする必要はなかった。
広い星空の下、夜はさらに更けていく。
そして、三人が知らないうちに、この再会は魔法の世界での新たな冒険の始まりとなっていた。
この物語はまだ続きます。




