6話 俺の異世界、中古!!
「おい、マサタカ!! 何やってんだ!!」
オレは叫ばずにはいられなかった。
黒い眼をしたマサタカが首をオレに回す。ギコギコと壊れた機械みたいに首を揺らす。
「何って、こいつらがボクにやってたみたいに、いたぶって。その後に殺すんだ」
灼熱の大剣を構えたマサタカは極低いトーンで言い放った。
そのすぐ傍で、センパイが泣きわめく。
マサタカの心は復讐にしか意識が向いていないようだ。
「ボクの邪魔をしないでくれ。痛い目に遭いたくなければね……」
「――っ!」
ダメだこいつは。何もわかっちゃいねぇ。
ぶちんっと、沸騰する頭に任せて、オレは勢いよく飛び出す。
そして、不良達を庇うように、マサタカの前に立ちはだかる。
聖剣エクスカリバーの熱が正面に向けられて、サウナの比じゃないほど体が熱を持つ。
「なんのつもりだい? まさか、こんなゴミ野郎を庇うつもりか?」
「ちげぇよ!!」
『人殺しが悪いことだ』などとわざわざ主張するつもりはない。黒堂センパイ達がどうなろうが、知ったことではない。
本音を言えば、この場で見捨てる方がずっと利口だって、頭でわかってる。
だけど、どうしてもこれだけは言わなくちゃいけないんだ。
たとえこれまでの信念に背こうとも。
「だったらどうして――」
「マサタカ!! お前――何やってんだよ!!」
思えばオレは、上手くやっているつもりで、本当はこだわりがないだけだった。
死ぬ気になって貫きたいものがないだけだった。
嫌なことが起こらないように、巻き込まれないようにって、ひよっていただけだった。
でも今は、周りの空気を伺っているだけの自分ではいられない。
相手がどんな脅威でも、刃向かわないといけないときもある。それをあの世界で知ったから。
「エルさんはお前をずっと待ってんだぞ!! 3年間も帰らないお前を、ずっと一人で待ってんだ!!」
「っ――エルが!? 3年……!?」
マサタカが目を見張る。向こうの世界の話を切り出されるとは思ってなかったようだ。
でも、オレはまだ言いたりねぇんだ。
「エルさんはなぁ! お前が帰ってきたときに寒くて風邪をひかないようにゲートの傍に毛布をかけてるんだよ! お前の腹が空いてないか心配して、毎日お前の好物を置いてんだよ! お前が戻ってきたときに誰もいなくて寂しくならないように毎朝手紙を置いて、様子を見に行ってんだよ!!」
「…………っ!!」
聖剣エクスカリバーが震える。その切っ先が定まらずに、ゆらゆらと。
「なのに、お前はここで何をやってるんだ!! わざわざこの世界に戻ってきたのは、お前を虐めてた不良にやり返すなんて、そんなことをするためか!? そんなこと、お前を愛して待っている人を放っておいてすることなのかよ!!」
「――――。エ、エルが、本当に?」
マサタカは歯をガチガチと鳴らす。
焦点が揃わないその眼で、オレに答えを求める。
「そうだ。向こうでオレはエルさんとセーニュ姫に会ったぞ。お前の武勇伝も散々聞かされた」
「でも――ボクは、こいつらをいつか殺してやるって。ずっとそう思っていて」
まだ迷いを断ち切れないマサタカに、オレは諭す。
「マサタカ。お前がこんな復讐を遂げたとして、あの優しいエルさんが喜ぶと思うか?」
「ぅ……」
「お前は伝説の勇者なんだろ。こんな奴ら、相手にする価値もないって。なぁ?」
「…………」
「帰るんだ! マサタカ! エルさんだけじゃない。きっと向こうの世界の人たちはみんなお前の帰りを待っているから!」
「……そう……なのかもね」
マサタカの邪気か消えるかのように、エクスカリバーから灼熱の光が消える。
「う、うわああああああああ!!」
その機に、不良達が一斉に逃げ出す。けれどマサタカはもうその後を追うことはしなかった
◇ ◇
開かずのトイレに立ち入る。
そのドアを前にしてマサタカが言った。
「君は勇気のある人だね。ノヴァ・クラスター発動状態のエクスカリバーの前に立てる人なんて、簡単なことじゃないよ」
「ふん、お前を見習って真似をしてみただけだぜ」
「え?」
相手がどんな脅威でも、自分を貫くために刃向かわないといけないときもある。
それをオレに教えたのは、他でもないお前だ、マサタカ。
「エルさんを助けるために化け物に立ちはだかったんだろ。勇気あるじゃねぇか」
「はは、あの時は無我夢中で……」
えーと、たしか、と言いながら扉のノブをガチャガチャと揺らすマサタカ。
その動作は異世界に繋がるコマンドのようなものらしい。
「開いた!!」
ドアが開く。
その先は向こう側と同じ、暗い渦の壁になっていた。
「ありがとう。君が教えてくれなかったら、ボクは帰るのが今よりずっと遅れていたよ」
そう、こっちの数秒が向こうでは1日なんだ。
戻るのが遅れたら、本当に取り返しがつかないところだった。
「いいから、早く行け」
「うん」
「――それと、最後にこれだけは言わせてくれ」
オレはゲートに入るマサタカの背中を叩く。
「いいか、絶対に姫を選ぶんじゃないぞ。あいつろくなこと考えてないからな。絶対エルさんを選ぶんだ」
「え? でも……」
「でもじゃない。いいか、絶対だからな!!」
「う、うん。頭に入れておくよ」
煮え切らない返事をしてマサタカは帰っていった。
この期に及んでハーレムとか考えてるんじゃないだろうな。
……ま、部外者が出来る助言はこれが限界だな。
「さて、と」
オレは黒色のゲートをドアごと閉じて、ようやく帰路を歩む。
我ながら長い1日だった。
『何事も柔軟で臨機応変に、誰にでも反発せず自分のコダワリはいらず』
それがオレのモットーだった。
周りの空気に合わせてうまくやることは重要だ。その意見を変えるわけじゃない。
でも、ときにはうまくやることより、自分を貫かないといけないときもある。
きっとそれができてこそ、本当の臨機応変なんだ。
道すがら、オレは商店街のゲーム屋に寄った。
通りに出ている中古ゲームのワゴンから何十年も年季の入ったゲームソフトを取り出す。
裏返すと、太いマッキーで『ケンタ』と名前が書かれていた。
「ふっ」
果たして、ケンタはどんな旅路を歩んだのだろうか。
「おっちゃん、これ売ってくれよ」
遊ぶ本体もないくせに、オレはたまたま手に取ったこいつを買うことにした。
まあ、明日はバイトだし、財布が潤う予定がある。
そういや、マサタカは無事にエルさんに会えただろうか。
◇ ◇
カイトさまが旅立ってから、もう1月が経ちました。
わたしはというと、エクスカリバーをカイトさまに渡して向こうに送ったことでセーニョ姫にこってり絞られちゃいました……。
『まあ……いいわよ。どうせ異世界人がいないとただのガラクタだし。それにあの剣の封印を解いたのはハーフエルフの貴方なんだから』
でも、最後は温情をかけてくれて良かったです。エクスカリバーを紛失したことで王国内では処刑寸前まで話が進んでいたようですから……。
『そのかわり、またゲートから誰かが入ってこないか、しっかり見張ってなさいよ』
それがわたしに与えられた罰。要するに元通りの生活ですが。
そうです。わたしを助けてくれたあの人を、わたしはずっとここで待ち続けます。
何年も、何百年も、ハーフエルフの寿命は長いですから。
そう、たとえお婆さんになっても、マサタカさまの帰りをここで待っています。
「さて」
朝の日課でゲートの見回りに向かいます。
ゲートに異変がないか確認して、マサタカさまのためにお備えしているものが揃っているか確認して、食べ物を新しいものに入れ替えに行きます。
いつもの道をたどってゲートに着きました。今日も異変は無し! です。
「ふぅ……」
……こんな生活を3年も続けていると、ときどきマサタカさまは二度と帰ってこないのでは、と不安に襲われます。
マサタカさまともう会えないこと。
それがわたしにとって一番の恐怖です。
「でも、約束してくれましたから、戻ってくるって……」
さてと、家に戻りましょう。
今日は庭のお花の手入れをして、それから――。
その瞬間でした。後方から強い光が差し込みます。
カイトさまがこちらに来たときと同じ光。
まさか、と。わたしが振り返るとゲートから人影が降りてきます。
その光の中から、またせたね、と待ち人が笑いました。
わたしも溢れそうな心で言葉を返します。
「おかえりなさい、マサタカさまーー!!」




