感動の再会
「あっ!セイナー!!こっちこっちー!」
「……」
集合場所に来たセイナを見てパーナは手を振る。しかしセイナの絶望した表情を見てパーナは急いでセイナに駆け寄る。
「セイナ!どうしたの!?一体何があったの!?」
「………ママが…死んだわ…」
「えっ…そんな…どうして…」
パーナもセイナの様子からそれが真実である事を理解した。
「私のせいよ…私が『魔女』から金貨を受け取ったから…私が…私が…」
「セイナ…」
セイナはその場で膝をついて崩れ落ちた。パーナは心配そうにその様子を眺める。
「ねぇ、パーナ。『魔女』って一体何なのよ…何でママが殺されなきゃいけないのよ…ねぇ…教えてよパーナ。」
セイナは消え入りそうな声でそう呟いた。そんなセイナを見てパーナは真剣な表情になった。
「…『魔女』はこの国では忌み嫌われる存在。昔から世界は『魔女』の脅威に脅かされて来た。強大な力を持つ『魔女』の好きなように国を荒らされ、支配されてきた。故に人々に根付いた『魔女』への負の感情は簡単に拭えるものじゃない。そして近年、『魔女』の数が減ってきて影響力が下がった事で、全ての『魔女』を絶滅させようと各国で動き始めたの。それが今の『魔女』迫害の実態なの。」
「国の安寧…その為に私やママみたいな無実の人がどうしてあんな風に残酷に殺されなきゃいけないのよ!!」
セイナが叫んだその瞬間、2人のいる広場にとある集団が現れた。
「皆の者、よく聞けぇ!!」
その集団は数人の兵士たちであり、リーダーらしき男が槍のような長物を空に掲げながら高々と演説を始める。
広場の人間たちは皆、その男に注目する。しかしその中で、セイナだけはその男の長物の先にある物に戦慄していた。
「この者は先日処刑された娘と共に『魔女』に協力していた者である!!我々『魔女狩り』が拘束し、先ほど粛清を終えたところだ!!この醜い姿を目に焼き付け、皆は『魔女』と関わらぬように気を付けよ!!」
男はそう言って槍の先端にあるセイナの母親の首を高く掲げて見せしめにした。
「あ…あぁ…」
「ダメよ、セイナ!!今出て行ったら貴女の正体がバレちゃう!!」
錯乱し、その男の方へ歩き出そうとしたセイナをパーナが必死に止める。そんな中、広場の民衆は口々に言葉を発する。
「あれは、確かサンクルスさんじゃねぇか?」
「ええそうね。何度かお話しした事があるけど、まさか『魔女』の関係者だったなんて…」
「でもまぁ納得だな。噂によるとあの家は金に困って盗みをしてたらしいからな。」
「うーわ、最低だな。その結果があのザマかよ。死んでせいせいするぜ。」
「娘の方は器量も良くて仕事熱心だったと聞いていたけど、『魔女』に尽くすために金が必要だったと言う事ね。親子揃って穢らわしい一族だこと…」
「あの一家の住んでる家、俺知ってるよ。後で燃やしに行くか。」
「ちょっと、私の家と近いんだから燃え移らないように気を付けてよ。」
「チッ、穢れた女だ…とっとと地獄へ行けよ」
「……」
セイナはその場で立ち止まり、更に混乱する。この中にはセイナと母親の知り合いも多くおり、前までは良好な関係を築いている者達ばかりだった。しかし今ではセイナの味方となる人は誰もいない。
「セイナ!!そんな事ないよ!!貴女もお母さんもそんな人じゃ!!」
パーナは絶望するセイナを何とか励まそうとする。しかしセイナにはその言葉が届かない。
「……」
セイナは何も言わなかった。しばらくその場に立ち尽くしていた。
「…………」
そしてセイナは静かに自身の魔法を起動させる。その気配に気付いたパーナは焦る。
「……ちょっ!セイナ!!こんなところで魔法を使ったら!!」
「…はぁあ!!」
パーナの忠告を無視して、セイナの魔法が発動する。
「この裏切り者共に制裁を………な!!」
シュンッ!!!
その瞬間、演説をしていた男の槍が消えた。周りの兵士たちはそれに混乱する。
「今のは一体…」
「…はっ!!まさか!『魔女』か!!」
隊長格の男がその言葉を告げた瞬間、広場に混乱が訪れる。
「きゃあああ!!」
『魔女』という言葉に民衆たちは悲鳴を上げた。そして他の兵士たちは臨戦態勢を取り、大声で叫ぶ。
「『魔女』だ!!『魔女』が現れたぞ!!」
その言葉を聞き、民衆たちは一切に逃げ出す。
《ひぃいい!!》
しかしそんな中、微動だにしない2人。明らかに異質なその2人に兵士たちは詰め寄る。
「貴様らが『魔女』か!?」
「お、大人しく投降しろ!!」
武器を構えた兵士たちを前にパーナは再び焦る。
「ヤバいよヤバいよ!!このままじゃ殺されちゃう!!セイナ!どうするの!!」
「……」
パーナがセイナに縋り付くが、セイナは何も言わない。そのまま下を向いて棒立ちしたままだ。
「やれ!!」
「うぉおお!!」
1人の兵士の号令で全員が2人に襲いかかる。
「セイナぁ!!」
「…はぁ!!」
シュンッ!…………
その瞬間、セイナとパーナの姿が広場から掻き消えた。兵士たちは混乱しながらも周りを捜索するも、その行方を掴めなかった。
「チッ!逃げられたか!!おい!増援を呼べ!!何としても捕えろ!!」
「はい!!」
兵士たちはそう言って散らばって行った。
シュンッ!
「おっ!…あれ?ここは…」
「……」
2人はとある路地裏に瞬間移動していた。
「はっ!セイナの能力か!!…はぁ!…助かったぁ…」
パーナは尻餅をついて安堵する。しかしセイナの表情は暗い。
「せ、セイナ?」
「……」
セイナは無言で歩き出した。そしてその場でしゃがむ。
「セイナ、どうしたの…って、これ…」
パーナがセイナに近づき、その足元を見ると人間の生首が転がっていた。
セイナは汚れる事など考えず、それを丁寧に拾い上げて両手で抱えた。
「パーナ、ママを…ママを蘇らせられる?」
消え入りそうな声でそう質問するセイナの顔は涙に濡れていた。
「…セイナ…うんっ!!やってみる!!私に任せて!!」
そう言ってパーナはセイナの抱える母親の生首に両手を翳した。
「うぅっ!」
すると、パーナと母親を光が包み込む。セイナは眩しさからその目を塞いだ。すぐにセイナの腕から何かを持つ感触が消える。そして光が消えた時、セイナは目を開いた。
「ま…ママ…?」
「…はっ!ここは…ここはどこ!?私は死んだはずじゃ!!」
生き返った母親は困惑していた。そんな母親を見て、セイナの感情が決壊した。
「ママ!!大丈夫だよ!!生き返ったんだよ!!ママ!!」
そう言ってセイナは母親に抱きついた。
「せ、セイナ!?どうして貴女がここに…」
「ママさん、貴女は一度死んでから私が蘇らせました。だからもう大丈夫ですよ。」
「蘇った…私が…なら、この子も貴女が…」
「はい!私の力で2人とも蘇らせたんです!!それより今はセイナの事を!!」
「ママぁ!!ママ!!」
「へぇ…そう言う事ね…」
母親に抱き付いて泣きじゃくるセイナだが、母親の様子が少しおかしい。母親はセイナを抱きしめるどころか、棒立ちのままだ。そしてパーナは一瞬だけ見てしまった。母親がセイナを憎悪に満ちた目で睨んだ事を。
「…ママさん?」
「ふぅ…セイナ、一度離れなさい。泣いてないで私に顔を見せて。」
「うぅ…うん!」
セイナはそう言って母親と顔を合わせる。しかしその瞬間、セイナの見た母親の顔はあの時の物だった。
「えっ、ママ!?……ぐうっ!!」
次の瞬間、母親はセイナの首を絞めた。
「セイナ!!」
「はぁはぁ!!やっぱり『魔女』と通じていたのね!!アンタのせいで私がどんな目に遭わされたか!!絶対に許さない!!」
憎悪に満ちた母親はそのままセイナを押し倒し、馬乗りになって首を締め続ける。
「ま…待って…マ…マ!!わ…私は…何も…」
「嘘つくんじゃ無いわよこの裏切者が!!アンタのせいで!アンタのせいで!!」
「ママさん待ってよ!!セイナは本当に何も!!」
パーナも後ろから止めに入るが、パーナの力では2人を引き剥がす事が出来ない。そして徐々にセイナの意識が薄れていく。
「マ…マ…」
「このクソ女が!!死ね死ね死ね!!全部アンタのせいよ!!アンタなんか!アンタなんか!!アンタなんか産むんじゃなかった!!」
「…ま……」
「ごめん…セイナ…ふんっ!」
ドガッ!!
「死ねぇ…うっ!!…………」
頭を強くぶたれた母親は断末魔を上げ、セイナの上に倒れた。
「コホッ!!コホッ!!」
首を絞める力が抜けた事によりセイナも意識を取り戻した。
「…助かった………」
「セイナ!!大丈夫!?」
パーナは持っていた血まみれの石をその場に捨てて、セイナに駆け寄る。
「ぱ、パーナ…貴女が助けてくれたのね…」
「セイナぁ!!」
起き上がったセイナにパーナが抱きついた。
「ごめんねセイナ!!また私のせいでセイナが!!」
「…何言ってるのよ…パーナのせいじゃ無いわ…全部、全部私が悪いのよ…そうよ、私が産まれてきたのが全部悪いの…」
セイナの目から光が消えていた。全身の力も抜け、何の気力も無い様子だった。
「そんな事ない!!セイナは…セイナは……ええっと……わかんないけど、産まれてきたことが間違いなハズない!!」
「パーナ…私はもう疲れたわ…もう何も考えたくない…」
セイナはその場にへたり込んでしまった。パーナも励ましの言葉をかけるが、まるで聞こえていないようだ。
「セイナ……っ!?」
ドォオン!!
「え」
「ううっ!」
その瞬間、銃声が鳴り響く。そして呆然とするセイナの目には赤い血が映る。
「ぱ…パーナ!!」
セイナがパーナに駆け寄ると、パーナの右腕が真っ赤に染まり、激しく出血していたのだ。
「いったた…右腕を撃たれちゃった…それよりもセイナは大丈夫!?怪我はない!?」
パーナは倒れながら弱々しく話す。それを見てセイナは焦る。
「私は何も無いわ!!それよりも貴女が!!」
「…セイナの心の傷に比べたらこんなの擦り傷だよ。セイナが…無事で……良かった………」
パーナは失血によりその場で気絶してしまった。
「パーナ!!ねぇ!パーナ!!」
セイナが揺さぶるも、パーナの反応は無い。そしてその時、路地に人の気配が集まってきた。
「チッ!外したか、脳天を狙ったのにな。」
そう言って路地に現れたのは銃を持った兵士だった。
「隊長、この2人が例の…」
「ああ、間違いねぇ。そっちの女は気絶しちまったみてぇだし、2人とも連れてくぞ。少しでも抵抗するようなら躊躇なく殺せ。」
「了解。」
一本道の路地を挟むように10人近い兵士に囲まれ、セイナとパーナは絶体絶命だった。セイナは気を失ったパーナの顔を眺めながら声を上げる。
「ねぇ…貴方たちは何で『魔女』を迫害するの?何もしてないこの子を何で攻撃するの…」
そんなセイナの質問を聞いて、男は大声で笑った。
「はっ!そんなの決まってるじゃねぇか!『魔女』は世界の害悪なんだよ!それがこの世の常識、世界の常識だ!!理由なんて知った事か!俺たちはテメェらみたいな『魔女』を駆除して飯食ってんだ。ゴキブリを殺すのに不快以外の理由がいるのか?」
その男は下卑た笑みを浮かべながらそう言い放った。それを聞いてセイナの表情が凍りついた。
「《害虫》…?」
「そうだ!『魔女』は全員《害虫》だ!!国を蝕み、国家の秩序を乱すクソ虫なんだよ!!だからテメェも、そこに転がってるパーナも俺たちが片付けてやるから、大人しくしとけ。」
「……もういい……」
セイナは誰にも聞こえないほどの小さな声でそう呟いた。
「は?何だって?」
「……死ね…」
その瞬間、セイナの身体から強大なオーラが放たれる。
「っ!?こ、殺せ!!」
それに気付いた全員が引き鉄を引こうとするが、その前に既に空中に放り出されていた。
「えっ」
ドォオン!ドガァ!!グチャ!!ドスッ!!!バァアン!!グチャッ!!
10人近い兵士は全員、地面に叩き付けられて即死だった。周りは死体の散乱した肉片と血が撒き散らされていた。セイナは頬についた血を指で軽く拭き取った。
「…ゴキブリにだって反撃する権利はある。分かったか、『人間』。」
シュンッ!
セイナはパーナを抱えて、瞬間移動で王都から脱出した。2人がいた路地裏には、兵士たちの無惨な死体と、憎悪に満ちたままの表情の母親の死体が転がっていた。
「陛下、お耳に入れておきたい事が。」
「何だ?くだらん話なら殺すぞ。」
「いえ、先ほど『魔女』と思われる2人組によって『魔女狩り』10名が殺されました。現在は2人とも行方不明です。」
「くだらん、死ね。」
「お、お待ちください!!大切なのはここからでございます!!その『魔女狩り』の死体と共に残っていた死体が、先日処刑した女の物だったのです。」
「ふんっ、あらかた『東の魔女』の魔法で生き返ったのだろう。やはり死ね。」
「そ、それもそうなのですが!死体から魔力を検出したところ、僅かですが『魔女』の魔力が確認されました。」
「それがどうした?」
「ですが、その女の素性について調べたところ、その女は【無能力者】であるとの調査結果が。一応、彼女を拷問した者達からも事情聴取を行いましたが、やはり彼女は【無能力者】であったと。魔法の有無を調べる能力者にも協力してもらったので間違いないかと。」
「へぇ…無能だった女が『魔女』として生き返ったという事か…んで、話は終わり?」
「は、はい。それでは私はこれで…ううっ!!」
男はいきなりその場に倒れた。
「僕は一度言ったことは実行する主義なのさ。おいお前ら、さっさと片付けておけ。」
「はっ。」
(『魔女』として転生か……まっ、そんな事はどうでもいっか。僕は最強だからね、『魔女』ごとき考えるだけ時間の無駄だよ。)




