私の誇り
「……ん…」
「あっ、セイナ。やっと起きた!」
パーナはそう言ってセイナに抱き付く。セイナは戸惑いながらも辺りを見渡す。
「あの人は…」
「誰かが見つけやすい場所に置いて来た。」
「そう…やっぱり私がこの手で…」
セイナはそう言って右手を眺めた。
「セイナは悪くないよ…力の無い私の代わりに、私を助けてくれたんだもん。全部、私が悪いの。あの人にバレたのも私のせい、セイナの手を汚させたのも…だからそんな顔しないで。」
パーナは涙目になりながらセイナを必死に励ました。それを見てセイナも少し落ち着いた。
「ありがとうパーナ…さっきは酷いこと言ってごめんね。」
「ううん、全然大丈夫だよ。それよりも、早くここから抜け出そうよ!!こんな所にいたら私たちが犯人だってバレちゃう!」
「そうね、行きましょうか。」
そうして2人は街に向かって歩き始めた。
しばらく歩くと、巨大な壁に囲まれた街が見えて来た。その入口と思わしき場所に人が集まっていた。その人たちは、兵士や商人、家族連れまで一直線に並び、入場の順番待ちをしているようだった。
「はぇ…王都はこんな風になってたんだ…初めて見たわ…」
「セイナは元々王都出身なんだよね?外に出た事ないの?」
「そうね、すごく昔にパパに連れて行ってもらった事はあるけど、記憶にないわ。パパがいなくなってからは、外に出る余裕なんて無かったから…」
「よーし、それじゃあ早速私たちも並ぼ!」
パーナはそう言ってセイナの手を引いて、順番の列に並んだ。
「うーん…今日はいつもより人が多いなぁ…」
「ふーん、そうなの。って、それよりも私たちって大丈夫なの?一応お尋ね者なんじゃ…」
「大丈夫大丈夫、能力を使わなければバレる事は無いって。顔だって出回ってるワケじゃないしね。」
「へぇ、それじゃあ何で私と初めて会った時に追われてたの?」
「あぁ…前の私のパートナーの子がやらかしちゃって…一緒にいた私も追われてたってワケ。」
「前のパートナー…その子は…」
「えぇ、殺されちゃったわ。数ヶ月、一緒に旅をした仲だったけど…死ぬ時はあっという間ね。最期は私を守って…」
「ねぇパーナ、もしかして私とその子以外にも沢山の…」
「…シス、フィーア、ヒニャ…セイナが4人目。一度私が蘇らせた子は『魔女』としての能力を持って死ぬから、二度と蘇らせることは出来ないの。」
「そう…それじゃあ私もいずれ…」
「セイナなら大丈夫だよ!!何せ、今までの子たちの中でもぶっちぎりで能力の筋がいいんだから!訓練すれば、セイナは最強になれるよ!!」
「別に最強になんかならなくて良いんだけど…あっ、そろそろ私たちの番ね。」
そうこうしているうちに2人の順番が来た。壁の入口には武装した2人の兵士が立っており、怪しい者がいないかをチェックしている。
「女2人か、君たちどこの出身だい?」
「ええっと……」
兵士の質問にセイナが言い淀むと、後ろからパーナが出てくる。
「生まれは北の田舎街よ。2人で仕事を探しに来たの。」
「仕事か…女2人じゃあ、まともな仕事は無いと思うが…大丈夫か?」
「はい!最初からまともな仕事なんて求めてませんよ。…最初からコッチです。」
パーナはそう言って、上着を少し捲って見せた。
「…なるほど、その身体と顔、引く手は数多だろうよ。店が決まったら教えてくれ、俺も仕事終わりに付き合ってやるよ。」
「えぇ、その時はよろしくお願いしますわ。」
「入場を許可する!」
そうして2人は中に入る事が出来たのだ。さっきからずっと黙っていたセイナはパーナに耳打ちする。
「随分と慣れてるのね、おかげで助かったわ。」
「女2人で出稼ぎは普通にありえないからね、コッチなら納得でしょ?」
「ええ、それで?これからどうするの?」
「そうねー、先ずは仕事を探そう!何か心当たりはある?」
「それよりも私は一度家族に会いに行きたいわ。半年近く会ってないから。」
「…分かった。でもバレないように気を付けてね!」
「勿論よ、顔はちゃんと隠すし、能力だって緊急時以外使わないわ。」
「うんうん!」
「私はとりあえず行くから。後でまたこの場所で合流しましょう。それじゃあ。」
セイナはそのまま自分の家の方へ向かった。
慣れた道のりで家まで歩くセイナだったが、その途中でとある話をしている男達の横を通り過ぎる。
「おい、聞いたか?サンクルス(セイナの苗字)のとこの娘が『魔女』と繋がっていたらしいって。」
「そりゃ、知ってるよ。盛大な公開処刑だったからな、若いのに可哀想なこった。」
(私の事だ…やっぱりこの辺でも噂になってるのね…顔を見られないようにしなきゃ。)
セイナはフードを深く被り直した。
「それでよ、同罪として母親も処刑されるらしいぜ。」
(え…)
その男の言葉にセイナは思わず立ち止まった。
「マジかよ、『魔女』と関わるのは重罪とはいえ、容赦ねぇな。一族郎党、処刑ってか。ウチの娘にもキツく言っとかなきゃな。」
「これから公開処刑があるらしいから観に行くか?」
「いいな、国の裏切者の末路をしっかりと目に焼き付けないとな。」
そう言ってその男2人は歩いて行った。
そしてセイナはその場でフリーズする。その表情は絶望そのもので、顔からは大量の汗が流れ落ちる。
「は…は…は……そんな…まさか……っ!!」
セイナはいきなり走り出した。それは自身の家の方向だった。
家に着いたセイナは扉を勢いよく開ける。
「はぁはぁ!!…ママ!!カイル!!どこ!!どこにいるの!!」
そう言って叫ぶが、中からは誰の声もしない。それどころか玄関が閉まっていなかった事にも違和感を感じる。
「まさか!!!」
先ほどの話、家にいるはずの家族がいないこと、セイナは最悪の予感を感じて家を出た。
「はっ…はっ…はっ……」
セイナは走った。母親の元へ、全力で。
「はぁ…はぁ…着いた…」
セイナが辿り着いた場所は件の処刑場。一般客にも観覧を許されているその中に入るのは簡単だった。廊下を走り抜け、階段を駆け上がり光が見えたその先に待っていたのは…
「執行!!」
その瞬間、断頭台の刃が振り下ろされる。
「ママぁ!!」
「…セイ…な………」
その時、2人の目が合った。その時、母親が言おうとした事はセイナには分からなかった。
ザシュッ!!
……ボトッ…
無慈悲な刃は母親の首を切り落とした。鮮血が周囲に飛び散り、地面を紅く染める。勢いよく刎ねられた首は数メートル転がった。転がって来た母親の首とセイナの目が合った。
その瞬間、セイナの目の前と頭の中が真っ白に染まった。そして、
「…イ…イヤァア!!!」
観客達の歓声に紛れて、セイナの慟哭は消えていった。
「セイナ、いつもありがとうね。」
「何言ってんのよママ、私よりもママの方が頑張ってるでしょ。」
「ママは大人だから貴女たちのために頑張るのは当たり前なの。でも貴女は私や弟の為に頑張ってくれている。貴女は私とパパの誇りよ。」
「もうー、そんな恥ずかしい事言わないでよ!!そんな事よりもう行くから。」
「ええ、行ってらっしゃいセイナ。」




