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友達

「パーナ!ニューズ!お仕事終わったぞ!」


 夕方になりノイファは2人の病室へ飛び込んできた。


「お疲れ様、ノイファ!」


「お疲れ様です。」


「ねぇ、もし良かったらさぁ…一緒にご飯食べに行かない?」


 ノイファは顔を赤くしながら2人を誘う。


「うん!行く行く!!ね、ニューズ!」


「はい、構いません。」


「よし!……って、私は別にアンタたちと行きたいわけじゃないんだからね!!ただ、アンタたちが少しでも元気になって欲しいだけで…」


「うんうん!分かったから行こ!」


 パーナは2人の手を引いて病室を出た。



 外に出た3人だったが、パーナとニューズにとっては初めての街並みだった。


「へぇ…これが『アインス国』かぁ。」


「どこか神聖な雰囲気を感じますね。」


「そうよ、ここは辺境だから人も少ないけど、大聖堂がある都はかなり栄えてるわ!ところで、2人はどこの出身なの?」


「私は王国のリスパ領です。」


「ふーん…知らない場所ね…パーナは?」


「ひみつー!」


「ええー!なんでよ〜!教えなさいよ!」


「ひみつ〜!」


 そんな事を話しながら3人は食事処へ向かった。




「うぅ…美味しいよぉ〜…久しぶりのご飯…幸せ過ぎ〜!」


「そうですね、とても美味しいです。」


「でしょでしょ!!ここは私のオススメなの!!今日は私が奢るから沢山食べてね!!」


 ノイファは嬉しそうに目の前の食事を頬張る。


「いやいやいいよ〜、私たちだってお金はあるんだから。ね、ニューズ!」


「…それがですね…お金の入った袋を無くしてしまいまして…」


「えっ!ホントに!?」


「はい…おそらくあの時に…」


 それを聞いたパーナは全てを理解した。しっかり者のニューズが金を無くしたワケではなく、アルティードに斬られて気絶している際に、持ち物を回収されてしまったのだ。


「あの色男めぇ…」


 パーナはアルティードの顔を思い浮かべ、悔しさを顔に滲ませながら食事を頬張った。


「ニューズはドジね!!そういう事なら仕方ないから私が払ってあげるわよ!!感謝しなさい!!」


「うぅ…ありがとうノイファ〜!」


「すみません、ではご馳走になります。ですが、お金は大丈夫なんですか?」


「ええ!一昨日、お給金が出たからね!!ほら!こんなに!!」


 ノイファは嬉しそうに懐から5枚の金貨を取り出した。


「おお〜!」


「す、凄いですね…」


 パーナは素直に称賛しているが、ニューズは苦笑いした。ニューズは元々大貴族だ、冷遇されていたとて食事や備品などは最高級品を知り尽くしている。そのニューズからすれば、庶民の一月の給料の少なさに驚きを隠せないのだ。

 そんな事はつゆ知らずノイファは得意げになる。


「ふふーん!今日は好きなだけ食べなさーい!!」


「わーい!!」


 そうして3人は満足に食事を堪能した。





 

「ぷはぁ!食べた食べた!!」


「パーナさん、食べ過ぎですよ。少しは遠慮ってものを。」


 食事を終えた2人は店の外にいた。ノイファに会計を任せ、外で談笑していたのだ。


「ふふーん、私はすぐに腹が空くの。だから食事は食べれる時に食べる!!」


「まぁ良いですけど………ん?店の中が少し騒がしいですね。」


 その時、店の中の違和感にニューズが気付いた。


「そうだね、何だろう。」


 気になった2人が店の中に戻ると、中では衝撃の光景が広がっていた。



 中では1人のガタイの良い男が、ノイファの腕を掴み、怒鳴り声をあげていた。


「おら!!さっさと慰謝料払えや!!」


「ひぃ!!だ…だって…だってこれは…」


「口答えすんな!女が!!」


「キャッ!!」


 その時、男はノイファを突き飛ばし、ノイファは地面に倒れた。


「なぁ?テメェが金貨5枚持ってるのは知ってんだよ。さっき聞いてたからなぁ!さっさと寄越しやがれ。」


「…うぅ…これは私の…」


 ノイファは男の圧力で涙目になりながらも金貨をギュッと強く握りしめた。


「まだ痛い目に遭いたいようだなぁ!」


 男はそう言って拳を振り上げた。しかしその瞬間、何者かが男の背後につけていた。


「えい!」


「あぅ!?」


 男の背後からニューズが男の股間を蹴り抜いた。不意を突かれた男は悶絶して地面に倒れる。


「今よ!ノイファ、逃げるよ!」


「ま…待てや‥クソガキが……」


 男が動けない隙にパーナは倒れたノイファを立ち上がらせて逃げ出した。


「ノイファ、大丈夫?」


「うぅ……うん。」


「急ぎますよ!皆さん、お騒がせしました!」


 そう言って3人は走って店から出て行った。



 しばらく走った後、パーナは立ち止まって後ろを見る。


「追ってきてる?」


「いいえ、おそらく撒けました。ですが、まだ怖いので急いで病院に戻りますよ。」


「はーい!…ノイファ…大丈夫?」


 2人に手を引かれているノイファは涙で目元を赤くしていた。


「…な、何が!?…私は何もないわ!…あれぐらいで泣くわけ……うぅ…」


 そう言って強がるノイファの手は震えており、パーナとニューズの手にもその感触が伝わってきていた。


「ノイファ、無理しなくてもいいよ。泣きたい時は泣いてもいいんだよ。」


「な!?わ、私が泣くわけないでしょう!!今までだって一度も泣いた事ないわ!」


「ホントにぃ〜?」


「う、うるさーい!!パーナ!それ以上言ったら怒るわよ!!」


「うわぁ!ノイファが怒った!!あははは!」


「パーナ!!許さないわぁ!……」


ベチッ…


 ノイファはそう言ってパーナに飛びかかろうとしたが、躓いて転んでしまった。


「ノ、ノイファ!?大丈夫!?」


「はぁ…全く、何をやっているんですか。」


「……」


 パーナとニューズは倒れたノイファを起こしてあげようとする。しかし、ノイファは顔を上げようとしない。


「ノイファ?」


「うぅ…み、見ないで!!」


 パーナがノイファの顔を覗き見ると、ノイファは泣いていた。しかしそれを隠そうと必死に目を逸らす。


「あぁ!またノイファが泣いてる〜!!」


「だから、泣いてないって言ってるでしょ!!」


「嘘つき〜!ノイファの泣き虫!」


「パーナァ!!もう怒ったわ!!」


「わぁ!やったなぁ!えい!」


 そうして2人は取っ組み合いの喧嘩を始めた。しかし2人とも力も弱く、武の心得も無いため、近くで見ているニューズも呆れるほどに醜い喧嘩だった。


「はぁ…喧嘩するほど仲良いんでしょうかねぇ…」


 しばらくしたら2人は疲れ果てて仲直りした。




 3人で病院へ帰る道、パーナは不意に気になった事があった。


「ねぇ、そういえばノイファの言ってた【お姉ちゃん】って、多分…」


「ええ!ネルヴァお姉ちゃんよ!」


 ネルヴァは4人を助け出してくれた聖騎士の事だ。パーナはニューズが目覚める前にネルヴァと少しだけ話しており、顔見知りだった。


「やっぱりね!雰囲気がどこか似てたからそうだと思った!」


「ああ…あの時の背の高い女性ですか。確かに面影がありますね。」


「お姉ちゃんは凄いんだから!!なんたって、あの歳で【聖騎士】になった天才なのよ!!」


 姉の事を語るノイファの表情はいつもよりも嬉しそうだった。


「【聖騎士】ってどんな職業なの?」


「【聖騎士】様はね、教皇様直属の部隊で戦争とか…国の治安維持とかをしてるらしいわ!」


「へぇ…凄い人たちなんだねぇ。」


「そうなのよ!【聖騎士】様は皆んなの憧れなの!!私も昔はお姉ちゃんみたいなカッコいい【聖騎士】様に憧れてたんだけど……でもほら、私ってドジじゃない。身長も低いし力も弱い、武のセンスなんて皆無、それに魔法は……使()()()()…から…」


 最後は少し違和感のある物言いだったが、2人は気にしなかった。


「それで看護師に?」


「ええ、私も少しでもこの国の為に尽くしたい。だから先生と一緒に皆んなを救える看護師になったの。国の為に命を賭ける【聖騎士】様や兵士の皆さんの命を救ってあげたいの!!まだまだ先生の足を引っ張ってばっかりだけどね。」


「なるほど…素晴らしい決意ですね。」


「貴方達の仲間の2人も私が絶対助けるからね!だから安心していいわ!」


「うんうん!期待はしないでおくね!」

「先生の腕には安心してますが。」


「もぅ!結構良いシーンが台無しじゃない!!そこは『お願いね』とか『任せる』とか言ってくれないと!!」


 そんな話をしながら3人は病院へ戻った。




〜数分前、病室〜


「おっ、起きたな。気分はどうだ?」


「……」


 目覚めたセイナの目の前には鎧の女(ネルヴァ)がいた。


「セイナも起きたさね、ちょうどアタシもだよ。」


 隣からはアンリーザの声が聞こえた。


「……そうね…ハッキリ言って最悪の気分だわ。頭は痛いし視界もボヤけるくらい怠いし、吐き気もするわ。それに指も足も背中もずっと激痛よ。」


 セイナの顔色は明らかに悪く、時折苦痛に表情を歪ませる。


「良薬は口に苦し、だ。あのヤブ医者曰く、傷口に塗った薬の影響でしばらくは激痛に襲われるんだと。けど、効果は絶大らしいから安心しな。」


「そう…それで?どうして貴女は私たちを助けてくれたの?」


「あん?ただの気まぐれだ。あのまま熊に食いちぎられた死体で見つかっちゃあ、私の寝覚めが悪いからな。そんだけだ。」


 軽い口調でそう告げるネルヴァにセイナは安心感を覚えた。そして周りを見渡してパーナ達がいない事に気づく。


「…あの2人は?」


(ノイファ)と出かけてるらしい。もうすぐ帰ってくるだろ。」


「そう…先ずは助けてくれて感謝するわ。貴女がいなければ私たちは確実にあの熊に食われていた。私たちの命の恩人よ、本当にありがとう。」


「気にすんなって言ってんだろ。私は元々そういう仕事してんだ、人助けは慣れてる。」


「貴女、名前は?私はセイナ、コッチはアンリーザよ。」


「よろしくさね。」


「私はネルヴァだ。この国で【聖騎士】をやってる。まだ見習いだけどな。」


「【聖騎士】?」


「あん?知らねぇのか?…教皇に仕える戦闘部隊だよ。ここは『アインス国』だぞ。」


 その国名を聞いたセイナとアンリーザに緊張が走る。『アインス国』は『ラバス教徒』による宗教国家だ。『ラバス教』の教義は『白の始祖』の信仰と『黒の始祖』の排斥。それにより『黒の始祖』の生まれ変わりと言われている『魔女』を激しく迫害している。『ラバス教』は世界でも最大級の宗教であり、『魔女迫害』の思想は各国に浸透している。


「なぁアンタら、『()()』について何か知ってる情報ねぇか?」


 ネルヴァの何気ない質問にアンリーザの額には汗が滲む。しかしセイナは飄々とした表情で答える。


「…知らないわね。」


「…そうか、ならいい。…実は最近、ここ周辺で新たな『魔女』が登録されてな。私も上から調査を命じられてんだ。現在の情報では、瞬間移動で人を空から叩き落とす『天撲』、人間どころか建物までバラバラにしちまう『閃絶』、熱を操って人間の氷像と焼死体を量産する『熱獄』とかいう3人の『魔女』だ。非常に好戦的で、通りがかった街を丸ごと焼き払っちまうほど頭のイかれた連中だ。見つけたらすぐに逃げるこった。」


「はい。」


 実はその張本人である2人は内心でヒヤヒヤしながら頷いた。


「それと『魔女』とは関係ないんだが、最近少しきな臭くてな。隣の大都市『ヌル』が独立しやがったらしくて、アインス(ウチ)といつ戦端が開かれてもおかしくないそうだ。」


「『ヌル』が独立!?」


 初耳だった2人は驚愕する。


「ああ、何でも『魔女』への過剰な迫害を非難し、能力の有無による差別を無くしたいんだと。…全く、頭の中がお花畑な野郎だ。まぁ…前半はともかく後半には私も同意するがな。」


 それを聞いてセイナは複雑な顔をする。


(あの色ボケ男…何考えてんのよ…やっぱり頭がおかしいわね……まだ私の事を諦めてないのかしら…大体私がこんなに大変な思いをしてるのは全部アイツのせいじゃない…チッ。)


「まぁ、仮に奴らが攻めてきたとしても返り討ちにしてやるけどな。だから、安心して寝てな。」


「はい…よろしくお願いします。」


 その時、病室の扉が勢いよく開いた。



「ただいま戻りました!!…って、お姉ちゃん!?」


「あっ!セイナとアンリ!!」


 3人が病室へ入るとそこにはネルヴァがおり、先ほどまで寝ていたセイナとアンリが起きていたのだ。


「おかえり、パーナ、ニューズ。」


「2人とも迷惑かけたさね。」


「ただいま!2人とも!」


「目覚めてくれて良かったです!大事な時に役に立てずにすみませんでした。」


 4人は数日ぶりの再会を果たしたのだ。

 その時、ネルヴァはノイファへ話しかける。


「ノイ、お前またやらかしたんだって?先生(ヤブ医者)に聞いたぞ。」


「ギクッ!…お姉ちゃん、それは…」


 ボコッ!


 ネルヴァは言い訳を聞く間もなくノイファの頭に拳骨を入れた。


「いったぁ!…酷いよお姉ちゃん!」


「問答無用!看護師ってのは命を預かる仕事だって何度も言っただろうが!そんな軽々しい気持ちでやっていいと思ってんのか!?あん!?アンタはアンタのミスで死んだ患者に対してもそうやって言い訳するのか?」


「うぅ…ごめん…」


「私に謝ってどうすんだ。迷惑かけたこの人たちと先生に謝れ!!」


 そう言ってネルヴァはノイファの頭を掴んで無理やり頭を下げさせた。


「皆さん、愚妹が迷惑かけてすまなかった。コイツには後でキツく叱っておく…今は私の顔を立ててどうか許してやってくれねぇか。頼む。」


 そう言ってネルヴァは地面に自分の頭を叩きつけた。それを見て4人は各々の反応を見せる。


「ネルヴァさん!大丈夫ですよ!!私たちそんな風に思ってないですから!!」


「そうね、それに貴女は私たちの命の恩人、許すも何もコチラは感謝しか感じてないわ。」


「全くその通りさね。」


「私もです!!それにノイファさんだって一生懸命にやってるんです!!だからそんなに叱らなくても。」


「いや、看護師ってのはそんな覚悟でやって良い仕事じゃねぇんだ。皆んなの気持ちはありがたいが、ノイの為だ。あのヤブ医者に代わって私が厳しくしてやらないとな。」


 立ち上がったネルヴァはノイファの首根っこを掴んで持ち上げた。


「グヘッ!お姉ちゃん、ごめんなさい!!許してぇ!!」


「ダメだ、今からたっぷりと説教してやるから、覚悟しとけ。」


 ネルヴァはノイファを持ち上げたまま病室を出て行った。


「うわぁあん!!助けてぇ!!パーナぁ!!ニューズぅ!!」


 連れて行かれるノイファの断末魔を聴きながら2人は両手を合わせた。


「ノイファ、頑張って…」


「人は怒られて成長します、彼女が立派な看護師になる為の試練です。」


 2人はノイファが無事に帰って来てくれる事を切に願った。





 そして病室には4人だけになった。


「…さて……皆んな、少し近くまで来てくれる?」


 セイナは非常に小さな声で皆を集めた。重傷で動けないセイナとアンリのベッドの近くに2人が来た。


「さて、皆んな分かってると思うけど私とアンリの怪我が治るまでは大人しくすること、勿論魔法は禁止。いいわね?」


 それに対して3人は何も言わずに小さく頷いた。


「まぁ、もしバレたら動けない私とアンリは詰み、この場で処刑かまた拷問ね。その時は今度こそ私たちを見捨ててパーナとニューズは全力で逃げなさい。捕まったら私のように酷い目に遭わされるわ。」


 そう告げたセイナは疲れ果てたように目を閉じた。


「…はぁ…それじゃあ私はもう休むわ…後はよろ…しく…」


 先ほどからもずっとしんどそうだったセイナはそのまま眠ってしまった。


「分かったよ……おやすみ、セイナ。」


 パーナはその寝顔を見ながらその頬を優しく撫でた。





〜数時間後、ネルヴァの自宅〜


「そういえばノイファ、あの子達と随分と仲良さそうだったな。」


「………」


 1時間にわたるネルヴァからの説教で、すっかりいじけてしまったノイファはネルヴァと目を合わそうとしない。


「…まだ説教が足りなかったみたいだな。いや、拳の方かな…」


 そう言ってネルヴァは腕を捲りながら近づいて来る。それを見て顔を真っ青にしたノイファは返事する。


「ま、待ってよ、お姉ちゃん!!」


「いいから早く話せ。あの2人はどんなヤツなんだ?」


「…ええっとね…パーナはちょっとムカつくけど、一緒にいて楽しいよ!ニューズはいつも冷静だけど、いざとなったら凄く優しいの!」


「ほぅ…そうか、それは良かった。これからも仲良くするんだぞ。」


 そう言ってネルヴァは振り上げた拳を優しくノイファの頭の上に乗せて、ガシガシと撫で回した。ノイファも嬉しそうに返事する。


「うん!もちろん!!あの2人は私の()()だからね!!」


「友達か…」


(ノイファはこんな性格だかんな。昔から友達が出来なくていつも1人で寂しそうにしていた…こんなに楽しそうに話すのは久しぶりだな…嬉しい限りだ。)


 そう言ってネルヴァは小さく笑った。

『アインス国』の人間(旅人や商人などを除く)は例外なく全員が『ラバス教徒』です。勿論、ネルヴァとノイファもです。

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