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光の黒魔剣士は異世界で冒険します!  作者: 水定ユウ
第2章 王都の黒羽
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迫り来る闇


僕は剣を納刀した。

そして一度息を吐き、呼吸を整えると周りを見た。周りには先ほどまでたくさんいた鬼の姿はどこにもなく、あるのは横たわる死体達だけだ。僕はそれを見て、改めてここで起きたことを思い出す。


「終わったか」


そう短い一言を添え、僕はこの惨状をどう処理したらいいのか頭を掻いた。

ーそのときだ。

僕は背中からぞくっとする何かを感じた。それは前も感じたことのあるどうしょうもないほどに暗い気配だった。殺意に満ち溢れているわけでも、それでいて幸福を願うわけでもないそれは僕の知る限りではアレ(・・)しかない。


僕はその正体を探るべき後ろを振り向いた。

そしてそこにあるのは先ほど僕が倒したゴブリンロードの死体がある。しかし、その自体は初めから妙に黒ずんでおり、今見て思うがあの時からまるで死んでいるかのようであったことを思い出す。


「気のせいかもしれないけど、もしこれが仮にあの時と同じだとすれば、僕がこの世界に来たのは何か必然的なものがあるのかもしれない」


そう唱えながら僕は自問自答をした。

そしてその自体を調べるため、触れようとした時だ。先ほど感じた殺気とは明らかに違う何か……こう、温かいもの感じた。


「何だ、この感覚!」


僕はとっさのことで、驚きを隠せなかった。

僕はそれを認識した上で、再度その死体に手をかざす。すると、僕の首から下げるペンダントが反応した。

黒の宝石は鮮やかな紫色を醸し出し、星が散りばめられたかのように踊りだす。まるで、今僕が感じているかの感覚に呼応するかのようだ。僕はそれを瞬時に理解すると、ペンダントの秘めたる力に身を委ねる。

すると、そのペンダントから特殊な光が発せられた。こんな変な演出がされているのはきっと彼の癖だろう。まあ、僕も嫌いではない。その光が包み込んで行くのは目の前に転がるゴブリンロードの死体だ。

僕はその光が完全に照射されるのを待った。

そしてその光が役目を完全に達成すると、その光は消え元の黒い宝石へと戻る。僕はその光景を見届けた後、そのゴブリンロードの死体に目をやった。


目を凝らして、集中する。

そして《魔眼》を発動していないのにその死体から感じられたのは魔力とは明らかに違うものだった。何となくそれが肌で感じられたので、その正体に気づいた。そしてその感じたものが形となって、ゴブリンロードの体から溢れるようにして浮き上がる。

やがてその黒い光と白い光とが混じり合ったかのような不思議な感覚のものは、空へと還るのではなくある形を作り出す。それはとても大きくて、先ほど僕がこの手で倒したゴブリンロードのようであった。


「もしかして……ゴブリンロードなのか?」

「そうだ」


その黒い化身は僕に語りかけてきた。

それはまるでテレパシーのようだ。


「何で僕と会話ができるんだい?」

「わからない。が、一言礼を言わせてほしい。ありがとう、私を含めた同胞の魂をこの地から解放してくれたこと。感謝する」

「いや、僕はそんな感謝されることをしていない。それに僕は君たちを殺したんだよ?それなのに、どうしてそんな憎悪なく僕と会話できるんだい?」

「そんなこと決まっている。私たちは、あの日(・・・)から当に死人出会ったからな」

「どういう事?それってもしかして、君たちがこの麓にやってきて、女性を連れ去ったことと関係があるのかい?」

「いかにも。私たちは他のゴブリンどもとは違い今まで一度たりとも麓に降りることはなかったし、人族を襲うなどもってのほかであった。ひっそり富山の奥で暮らしていた変わり者であった。が、あの日からだ。あの日、あの者(・・・)が現れてから全てが狂い始めた」

「あの者?」


僕はゴブリンロードの思念とも思えるものと会話をした。

その魂は弔われたことを感謝したのだが、僕に対してその時の情景を事細かくに話し出す。僕はそれをきっちりと受け入れ、内容を留める。



「あの日、私達は洞窟の中にいた。そこにあのものがやってきた。そして私達にこう言った」

「やあやあゴブリンさん達、君達は何でこんなところにいるんだい?人を襲わないのかい?」

「何者だ貴様は」

「何者か……うーん。君達に名乗るほど落ちぶれてはいないの。君達のような輩にはね」

「私達を侮辱するか」

「まあそうだね。でも、残念だけど君達からは憎悪も悪意も感じられない。むしろ『欲望』を一切感じられないなー」

「何が言いたい。そんなもの私達には関係のないものだ」

「なーんだ。つまんないの!ゴブリンはもっと狡猾で残忍で、下等生物の中でも嫌わ物。私と同じ扱いかと思っていたのにもかかわらず、そんな風にいい魔物ぶるのかい?……一番手駒にはいいと思ったんだけどなー。期待外れだよ」

「そんなこと知ったことではない」

「だからね。私は君達を殺すことにしたの」

「はっ?」

「君達を殺して、私の手駒にしようと思う。いいよね?拒否権はないよ。さあ、闇の(ショー)を始めようか!」



と、そこまでの会話だったらしい。そこからの記憶はなく、ただあるのは今こうして地に伏せ魂が解放されたことだけだそうだ。

僕はここまでの話の中で、ひとつ気になる言葉を見つけた。その言葉に僕は引っかかり少し聞いてみる。


「ゴブリンロード、君に一つ尋ねたいことがある」

「何だ」

「君は『欲望』について聞かれたんだろう?何故答えなかったんだ」

「決まっている。私にはそのような欲はないからだ」

「それはおかしい。全ての(ことわり)には必ず其れ相応の感情がある。それは存在がないものであったとしても、何らかの思いが綴られているはずだ。人間は特にそうだ。だが、君たち魔物も同じはずだと僕は思っている。そんな君達が『欲望』に見合う感情がなかったとは思えない」

「そうか。ではしいて言おう。それは種の繁栄だ」

「種の繁栄?」

「我々の種は多勢をなすことにより、その訝しさを強めてきた。そのため必要なものが私の遺伝子の中にもあったのだろう」

「つまりそこを突かれたというわけ?」

「それはわからない。今の私にはそれを突き止める手段はないからな」

「そうか、じゃあもうひとつその相手は君達に何をしたのかわかる?」

「わからない。が、今となってはもうどうでも良いことだ」

「そうかもしれない。でも、僕は知りたいんだ」

「残念だが人間。私はそれを知らない。突然の問い。その後には私の魂はすでに自我を失っていたからな」

「つまり、死んだことによって(・・・・・・・・・)抑え込んでいた欲望が(・・・・・・・・・・)が解放され(・・・・・)魂を飲み込んだ(・・・・・・・)という訳だよね?だとしたら、納得がいくよ。僕はそいつについて心当たりがある」


と、僕は忌み嫌うようにそう答えた。

堪え難い怒りと恨みとが脳内にひしめき、僕の悪魔を呼び覚ます。感情の牙を剥き出しにしかけたところで、自制心に身を任せた。そして心を落ち着かせると、僕はゴブリンロードに向けてこう言い放つ。


「ゴブリンロード。何かして欲しいことはない?」

「ない。私たちの魂を解放してくれたことに感謝をしたいほどだ。だが強いて言うならば、あのものを私や私の同胞に変わり倒してほしい。これ以上の被害者を出したくない」

「わかった。約束する。それにしても君は優しいんだね、ほかの魔物と違って」

「かもしれないな」


そう言ってゆっくりとその姿は消えていく。瞬いた星のようにその身は黄昏の中へと消えていく。天へと昇るように還り行くその魂を僕は見つめ、誓いを果たすことを約束したのだった。





本当はもう少し長く書く予定でしたが、この話はこのぐらいで収めました。

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