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日常を彩るライフハック短編小説集  作者: 地野千塩


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パスタを茹でる時

 ちゃんと手順通りにやっているはず。「正解」だと思うのに、どうも美味しくない。


 パスタを作っていた。手順通りに塩を入れて煮る。パッケージの時間通りにゆでる。タイマーを使ったので間違いないはず。ザルで湯ぎりして完成……のはずが美味しくない。特にオイル系のソースとあえると、イマイチ。


「なんで?」


 そんな私、かなり几帳面だし、真面目な方だ。キッチンも綺麗に片付いてるし、コツコツと仕事もこなし、投資もやって将来に備えていた。それが「正解」だと思っていた。もっとも「隙がなくてつまんねー女」だと最近フラれたばっかりだが、男に人生をあずけるなんて今の時代リスキーだ。結婚しない男女が増えている理由、私はよくわかってしまっていた。


 そんな時、大学時代の友達から家に来ないかって誘われた。どうやら私がフラれたことを噂で聞きつけ、心配しているらしい。


「別にそんなショックじゃないんだけど」


 とはいえ、せっかくの好意だし、遊びに行くことに。


 友達、白鳥鈴菜の家はちょっとボロい二階建てのアパート。駅からも遠く、内心、もっと良いところに住めばいいのにとも思ったりもした。


 家の中もけっこう乱雑。音楽や演劇の雑誌が積み込まれ、古いレコードも飾ってある。古い木の枝とか変な石とかも飾ってあり、いかにもサブカルな雰囲気。確かに鈴菜は舞台関係の仕事をしていた。全く稼げないらしいが本人は全く気にしてなさそう。


「ま、パスタでも食べない?」


 あっけらかんとそんな話題も持ちかけてきた。


「パスタ?」

「ちょっと余ってさぁ。これから茹でるわ」


 私の了解も聞かず、鈴菜は狭いキッチンに立ち、パスタを作り始めた。


 キッチンも皿や鍋、スパイスの瓶が乱雑にありごちゃごちゃ。一応清潔にはしているようだが、鈴菜のパスタの作り方は適当だった。フライパンにお湯を入れてるし、塩も大さじを適度に放り込んでいる。その上、パスタの表示よりも一分早く茹で上げ、ザルも使わずに適当にトングで盛り付けていた。市販のペペロンチーノのソースとあえて完成させてはいた。


「な、なんかズボラ?」

「いいの、いいの。パスタなんてイタリアでは庶民の食べ物だし、ズボラの方がおいしいって」


 ガハハと豪華に笑う鈴菜に引きながらも、一緒にパスタを食べてみた。


 サブカルな雰囲気の鈴菜の家、ちょっと隠れ家感があり、確かに「正解」のパスタより美味しく見えてしまった。実際、美味しかった。なぜだろう。「正解」にこだわって作ったパスタは美味しくなかったのに。


「鈴菜、なんで? なんか美味しいよ、このパスタ」

「実はパスタはザル使って湯ぎりすると不味くなりらしいよ。ズボラの方がおいしいんだって」


 目から鱗。そんな邪道な方法のが「おいしい」という目的にはたどりつけるなんて。「正解」にこだわっていたのは無意味だったのだろうか。


「なんかよくわかんないけど、たんと食え。いっぱい食ったら元気でるって」


 明るい鈴菜の声を聞きながら、ちょっと鼻がつんとしてきた。「正解」はもうよくわからなくなってしまったけれど、このパスタはおいしい。だったらそれで間違いはないはず。

ご覧いただきありがとうございます。完結です。

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