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04 マスコットキャラの定義


 (14歳に、プロポーズって!?)


「ロイは、……ロリコンなの?」

「ろりこんとは?」

「平たく言えば、“変態”って事」

「アーリア様限定なら、ロリコンですね」


 これまた清々しい程に開き直った綺麗な笑顔のロイヴァールを目の前にして、思わず莉愛は両手で身体を抱きしめた。


(前に会った時よりも、パワーアップしていない?!)


「……結婚なんて、無理! 無理無理無理」


 莉愛が必死で首を横に振っているのにも関わらず、ロイヴァールの微笑みは消えない。その様子に、莉愛の背筋は凍るのだった。 


 やがて、ずっと首を振っていた莉愛の動きがスローモーションとなり、身体が崩れ落ちる瞬間、ロイヴァールが莉愛を受け止める。


 バサッ


「…んぅ……」

「……アーリア様」


 腕の中で眠る莉愛を横抱きに抱え直し、頬にかかる髪を優しく寄せた。口角を上げたロイヴァールはそのまま部屋を出たのだった。





△▼△




「ひーめーさーまぁーん。ほら、起きないとぉー。このお髭で姫様のマショマロほっぺをゴリゴリしちゃうぞーーー」


 ジョリ


「!! ひぃにゃぁぁぁぁ!!」

「うわ! シーーーー」



 暗い部屋の中。眠りから覚めると真横には、客室で会った顔中髭の騎士。しかも、大きな毛深い手で口を押えられて、莉愛はパニックになる。


「ふんへががい!! ふんがぁ!(この変態! 離せ!)」

「だから、姫様ってば。シーーーだよ?」

「…!!」


(この、ちょっとムカつくお姉言葉は……?!)


「んー(スー)?」

「あ、わかってくれた? 良かったー」


 口から毛深い手が取り除かれ、莉愛は思わず口をぬぐう。


「うわ、ペッ、毛が口に入った」

「わーー酷ーい。マックも傷つくよ?」

「ぺぺぺッ、……マックって?」

「ん? この騎士の名前だよ。下の名前がドゥナルドで、マック=ドゥナルドだって。若干惜しいよね? しかもこの髭面じゃースマイル0円でも遠慮したいね」

「……スー。自分で言いながら…どうして涙目なの?」

「うん。マックの中に入ってあまり時間がたってないからさ、感覚を共有しているからかな? この図体と髭で、内面が乙女でさー。休日には刺繍してんの。クククク。それとレースのパ……」

「スー! やめてあげて! スーの話している明るい話口調と、マックさんの顔の号泣具合に私の心のダメージも半端ないから!!」

「そう?」


 薄暗い部屋の中、髭面のガタイのいい騎士が首を傾げながらも号泣している状態に莉愛の心臓も持ちそうになかった。


「向こうの世界の…その…“お兄ちゃん”にも入ってたんだよね?」


 中二病患者まっしぐらだった莉愛の同じ施設で育った5つ年上の血の繋がらない“お兄ちゃん”。スーが中に入っていなかったら、彼はあんなにも変態で、残念な男ではなかったかもしれない。


「あの人間とは、波長もピッタリだったし。一日の半分は身体を返していたしね! 超仲良しだったよ! 彼の中は居心地がよかったなぁー」 


 ……そうでもなかったようだ。

 莉愛は、白目をむきそうになった。


「マックは、恥ずかしがり屋なのかな? 今も精神が必死でボクを拒否しているよ。無駄な事……後1時間もすれば……へへへ。よせばいいのにね?」


 黒い笑顔を見せて嗤うスー(外見はマック)に、引き攣った笑顔でしか対応出来なかった。


「それにしても、姫様には参ったよ。 マジで寝ちゃうんだもん」

「あーーごめんね?」




 莉愛がスーが入っている“ピニーちゃん”に頬ずりをしようと顔を近づけた時。


『3分後。寝たふり』


 その伝言を聞いた次の瞬間、ナイフがピニーちゃんの額に突き刺さっていた。




「ロイヴァールの奴も、やる事がこすいんだよね。紅茶とクッキーに睡眠薬と痺れ薬をいれているなんて。スライム様をなめんなよ! って感じ」


 しかも、睡眠薬よりも痺れ薬の方が、効き目が長くなるように調整されていた。もちろんそんなもの、莉愛の口に入る前に全部、スーの体液で消化済みである。


(エロガキが)


 莉愛には滅多に見せない、スーの悪態。(実はバレバレ)ずっと、この世界でも前の世界でも莉愛を護ってきたという自信とプライドにかけて、たった数十年生きた若造や変態に安々と渡せないと考える。…しかし、莉愛からは一番変態なのはスーと思われていた。悲しきかな、知らぬが本人ばかり。


「で、どうするの姫? このままロイヴァールと結婚するの?」

「いや、しない。しない」


 莉愛は慌てて、人が4,5人は眠れそうな豪華なベッドからはい出た。


「うん。良かったー。『する』とか言われた日には、あのロイヴァールの中に入らないといけないと思った」

「へ? なに?」

「んーんー。なんにもなーい」


(変なの)


 スーの薄暗い告白を聞きのがした莉愛。

 ベッドわきにある靴を探すが見当たらない。

 代わりになるのは、繊細な細工がしてあるキラキラしたミュールのようなもの。

 そして、違和感に気付く。

 自分の足をみてみると……履いていた靴下がなくなっている。見えるのは白い素足ばかり。


 バッバッバッ。


 焦って、手で身体のいたるところをチェックした。

 触れるのは手触りの良い薄いピンク色の布。そしてヒラヒラとしたレース。

 極めつけは、前についた細いリボン。


「そのリボンを引っ張ると、あっと言う間に脱げるみたいだよ? 引っ張ってもいい?」

「……ちょっと、黙って」


 莉愛は、スーに見られないようにソット中の…下着をチェックする。

 穿いたこと事もないような、可愛いくて布の少ないフリッフリの上下おそろいの下着。


「~~っ!!! ロイ坊め! ませガキ! ……いや、今じゃあの子の方が年上? あーもう!! ロリコン!! ほんっと、信じられない!! 頼んでもないのに、召喚なんかするし! こんなネグリジェみたいな服も勝手に着せて!!」


 ロイヴァールの命令で、メイドが数人がかりで着せたと思われる“ネグリジェ”と“下着”。

 スーの忠告を聞かずに、あのままお茶とお菓子を頂いていたらと考えると…顔の色が真っ青になったり、真っ赤になったりと忙しい。


(冗談にも程がある)


 もちろん、ロイヴァールは冗談のつもりはない。

 莉愛は改めて記憶を取り戻した時に感じた『ヤバイ』という危機感に実感する。


「姫様、()っちゃおうか?」


 スーが、ニヤニヤと莉愛の命令を待つ。


「それはダメ。ロイはあれでも王子だからね。それに、元の世界に帰還する時に手伝わせないといけないし。ちょっと、お仕置きをするだけ」

「えーー。つまんないのー」


 両手を前に、身体を左右に振る。“お兄ちゃん”時代もよくやっていたスーの仕草だ。しかし、今の姿は、髭面強面騎士。流石に甲冑は着ていなかったが、詰襟の制服からもわかる厚い胸板が両手を前にした事によってさらに強調され、腰にさした剣が身体を左右に振ることによってカチャカチャと音を立てる。


「……スー」

「なぁに?」

「その、マイクさんの身体……早く返してね」

「え? なんでなんで? どうして?」

「いや、その……違うから」

「ん?」

「……そんな髭面……。マスコットキャラと違うから」

 

 ちょっと後ろめたくて、顔を赤らめてそっぽを向いた莉愛だったが、スーの反応がなかったので、気になってチラリと顔をみて……後悔した。


 スー……もとい、マックは両手で顔を覆いその場で三角座りになって肩を震わせて泣いていたからだ。



「……姫様が、……マックに酷い事言うから…、ヒック。マックの乙女心が傷ついた…って。ヒック…」



(そんな乙女心なんて、再起不能になるくらい壊れてしまえ)



 暗闇の中、莉愛は薄笑いを浮かべた。

 一番“マスコットキャラ”に拘っていたのは、彼女なのかもしれない。





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