SecretFile06:駄菓子屋奪還
注意!本編読了を推奨!ネタバレあり!
今回もギャグですがシリアス寄りです。
時系列は本編より前となります。
ことの始まりはとある年配の女性を助けたときのことだ。重そうな荷物を抱えながら歩いているのを見掛けて声をかけたのだ。
「あら、お兄さん。ありがとうねぇ」
「あぁ。にしてもかなりの荷物だな。運ぶのは家までか?」
「えぇ。…実は怖い男の人達に店を追い出されちゃってねぇ。旦那から引き継いだばかりの大事な店だったんだけど。あれもこれもと大事なものを詰め込んでいたらこんなに重くなって」
「それはいつ?」
「昨日突然出ていくように言われたの。俺らの店にするから老害は出ていけって」
「大変だったな婆さん。どんな店だったんだ?」
「駄菓子屋だよ。子供達の笑顔が見たくてね。旦那が子供達のために自分で始めたんだ。
旦那が居なくなっても子供達の憩いの場を絶やしたくなくて引き継いだんだけど、まさかこうなるなんてねぇ…」
女性の顔は笑顔だが、言葉の端々に悔しさが滲んでいた。
旦那が遺した店を子供達のために引き継いだ、一人の女性の思いを踏みにじった連中に怒りを覚えた。
「なぁ婆さん。提案があるんだが、俺が店を取り戻すって言ったらどうする?」
「優しい人だね…。でもそこまでしなくていいよ。男の人達に言われた通り、私は老害だからね」
「そんなことはない。子供達のために継いだんだろ?大事なものを奪われる辛さを俺は良く知ってる。だから、俺に任せてくれないか?」
「見ず知らずの私のために、ありがとう。
それじゃあお言葉に甘えさせてもらうわね」
「…で、ここで店番してそいつらを待ち伏せするってことでいいんですよね?」
「あぁ。…おい悠仁そのにやけ面をやめろ」
「いやだって、絵面がシュール過ぎて...。エプロン身につけた兄貴が裏の掃除屋にしか見えなくて...」
必死に笑いを堪えている悠仁に手をデコピンモードにする。
するとこの前のことを思い出したのか、ひきつった顔になった。
これから来る連中にお見舞いしようかと思ったが、誤って脳破壊する可能性があるのでやめておいた。
「あいつら出所は割れたか?」
「はい。俺達のシマだって知らない余所者ですね。高齢者を対象にした強制立ち退きでシマを拡大しているようです。…兄貴、この駄菓子屋をオイルまみれにしちゃ駄目ですからね?」
「お前、俺のこと何だと思ってるんだ…」
子供達に被害が及ばないように店は閉めてある。奴らを待つ間に在庫確認や売り上げのデータ入力をする。
店には駄菓子やおもちゃがところ狭しと並び、値段やイラストが手書きで書かれた札が商品ごとに付けられている。
子供好きな老夫婦の優しい人柄が出ているいい店だ。
「兄貴、終わったら駄菓子全種類三人分買いましょう。俺駄菓子食べたことないんで」
「そういえば俺もだな。薫にもいくつか見繕って行くか」
するとパネルを見つめていた悠仁が顔を上げる。
「来ました。全部で五人です」
「よし、掃除の時間だな」
「兄貴、良ければハッキングで動き止めます?」
「お前は奴らに顔がバレないようハッキングだけしてくれればいい」
「俺も暴れたいのにぃ…」
「後で暴れさせてやるから我慢しとけ」
俺は店で見つけた縄を手にした。
そして店にスーツに金のチェーンネックレスといういかにもな男達がやってきた。
「おい、ババァ。さっさと出てけつっただろうが‼」
「いらっしゃいませ~‼」
悠仁がパチンと指を鳴らしてハッキングする。
「くそっ!何だこりゃ⁉」
縄を手に男達の間を一瞬で通りすぎる。
俺の後を追うように縄が男達を縛り付けた。
「今日は閉店だ。てめぇらにこの店はやらねぇよ」
ぽいぽいとロープにぐるぐる巻きにされた男達を外に放り投げる。
もごもごと何か言ってるが気には留めない。
続きはここからだ。
エプロンを畳んでレジ横に置く。
「悠仁、こいつらとドライブするぞ。車呼んでくれ」
「ということは兄貴‼」
目を輝かせながら悠仁が身を乗り出す。
「フッ、後で暴れさせてやるって言ったろ?」
奴らの本拠地である事務所の前に車を停める。
悠仁に「聞き込み」をさせて場所を吐かせた。
「悠仁、さっき言ったこと覚えてるか?」
「いくつだと思ってるんですか。えっと、気絶厳守・組長に強制退去取り消し依頼・やばくなったら兄貴に連絡、ですよね。……兄貴、ホントに俺のこといくつだと思ってます?成人済みですよ俺」
「弟分を心配しない兄貴がいるか?」
「親バカならぬ兄バカだなぁ……」
「んん?」
「ナンデモナイデース。行ってきます兄貴」
「おう、気を付けろよ」
悠仁に共有してもらったスキャンデータを確認する。悠仁を示す矢印を目で追いながらカメラをハッキングして様子を伺う。
ーー『アクセス承認 村雨悠仁の視点に切り替え』ーー
簡易マップを見る。普段は二人か後方支援が多いが今回は俺一人。願ってもない完全な一人になれる好機だ。
とはいえ兄貴のことだからカメラをハッキングして見ているだろう。兄バカだホントに…。
気絶厳守だし脚のブレードは使えない。
ハッキングで全員一気に眠らせるのもつまらないし、ステルスでもいいけど…。んーどうせならもっと兄貴みたいに派手にやりたい。
ここを赤いオイルの海に変えていいなら楽なのだが。気絶厳守なのは、あのお婆ちゃんも含めて奴らが退去させた高齢者達の土地を返させるためだ。ま、なるようになるか。いずれ来る「その時」まで生きていればそれでいいのだから。事務所全てのカメラにハッキングして壊す。ごめんね兄貴、「その時」までバレるわけにはいかないから。
フードを被り笑顔の仮面を捨てる。
ーー『警告 不正アクセスを検知 文章生成を中断』ーー
ねぇ、読者のみんな。俺の事はいずれ話すって言ったけど、今回はここまでで許して。
だって今はギャグ編だしシリアスにさせる訳にもいかないから。
ーー『不正アクセス解除 文章生成再開』ーー
ーー『アクセス承認 雨宮愁染の視点に切り替え』ーー
カメラが壊れ、映像を写していたパネルが闇に染まる。
矢印は消えていない。矢印は進むが組員の赤い点滅は灯ったまま。死んだら消える仕様だから、気絶厳守している証拠だ。
カメラが壊れた程度では取り乱さない。
本当にやばければ、連絡か何かしらサインがあるからだ。
悠仁の実力は知っている。あいつは俺のように特攻するというよりは着実に相手の弱点をついて翻弄する、意外と慎重な戦い方だ。
そんなに時間も経たないうちに組長までたどり着いたようだ。しばらくして悠仁からチャットが送信されてきた。
『兄貴、お待たせしました!
強制退去取り消し依頼、快く承諾してくれました!戻りますね!』
『お疲れ、良くやった』
戻ってきた悠仁には怪我一つ無い。胸を撫で下ろす。
「もう兄貴、カメラ越しに俺のこと見ようとしましたね?子供扱いにも程がありますよ!」
「悪い、お前一人で行かせることがあまり無いからついな」
「兄貴だけ駄菓子半分にしますよ?」
「頼む、全種類食わせてくれ…」
「んふふ、冗談ですよ。これからは心配だからってカメラ越しに見ないでくださいね」
「わかった」
駄菓子屋と被害に遭った高齢者達の強制退去は取り消された。
買っていって良いか婆さんに聞いたが、お礼にととても食べきれない量をタダでもらってしまった。これでは街の人に配らないと減らなそうだ。事務所に戻る前に薫の墓に寄っていくつか駄菓子を供えた。般若面の男はまだ見つかっていない。必ず見つけると手をあわせた。
事務所に戻ると駄菓子を両腕一杯抱えた俺達を見て親っさんは目を丸くした。
男しかいないが、童心に帰って駄菓子パーティーを楽しんだ。
ーー『警告 不正アクセスを検知 文章生成を中断』ーー
自分の墓を見るのは不思議な気分になる。
彼が供えた駄菓子を手に取って眺めた。
見ず知らずの人のために、手を差し伸べる優しさは変わっていない。
ごめんなさい。もう少しだけ辛抱してね、二人とも。




