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赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第四章「更新意思」

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第37話「再編表」

 再編初日、会計庫の壁一面に新しい表が貼られた。

 「領政再編表」。

 部署別、便別、責任者別。

 赤線は暫定、青線は恒久。


 私は青線を増やしたい。

 増やすには、赤線を焦って消さないことだ。



 午前、口座凍結の余波が出る。

 旧ルートで回っていた小口支払いが一時停止。

 配給所の副材便が遅れる。


 女将が眉を寄せる。


「勝ったのに遅れるのかい」


「勝ったから遅れる部分もあります。ルートを切り替えるので」


「いつ戻る」


「二日で戻します。戻しきれなければ公開して理由を出します」


 女将は短く頷く。

 苛立ちは残る。

 でも時刻を言うと、怒りは少し待機できる。


 私はその場で副材便の代替ルート票を書く。

 北門経由を一便減らし、西門臨時窓を三日だけ開ける。

 臨時窓は負担が大きい。

 それでも短期で詰まりを解くには必要だった。


 ベルンが票を見て言う。


「西門を開けるなら、人が足りない」


「近衛書記を半刻だけ回します」


「半刻で足りるか」


「足りなければ明日増やします。まず半刻で実測します」


 仮説で全投入しない。

 小さく回して、数字で増減を決める。



 昼、工房側で燃料契約の再締結。

 旧契約は裁量条項が広すぎた。

 新契約は数量連動と上限係数を明記。


 工房主が契約書を見て笑う。


「前より読みにくいが、前より怖くない」


「怖くない契約を目指しています」


 言いながら、私は自分の婚約契約を思い出す。

 読みにくく、怖いまま放置してきた紙。

 次はあれを直す番だ。



 午後、黒字転換見通しの試算会議。

 兵站長、工房代表、配給所代表、監督委員。

 私は三か月試算を示す。

 漏出率低下、単価是正、再配送削減。

 条件付きで月次黒字化の可能性が出る。


 兵站長が腕を組む。


「条件が多い」


「はい。だから条件ごとに担当を切ります」


 私は担当表を配る。

 誰が、いつ、何を満たすか。

 曖昧な見通しは、責任が宙に浮く。


 配給所代表が手を挙げる。


「黒字化の数字はいい。でも現場の疲弊はどこへ入る」


 私は新しい列を足す。

 「人員疲労指標」。

 超過勤務時刻、連続夜勤数、休暇消化率。


「黒字化の条件に入れます。疲弊を無視した黒字は、次月の赤字になります」


 代表は頷き、担当欄へ印を置いた。



 夕刻、カイと契約再定義案の詰め。

 案の柱は三つ。

 相互協議責務。

 行使履歴恒久公開。

 利益相反時の第三者仲裁。


 カイが言う。


「第三者仲裁を入れるなら、私の拒否権は弱まる」


「はい」


「それでも入れるか」


「入れます。拒否権が強すぎる契約は、どちらかを壊します」


 彼はしばらく黙り、最後に頷いた。


「共同名義で出す」


 その一言で、胸の奥が静かに熱くなる。

 情緒の言葉は要らない。

 共同名義という実務語だけで十分だった。



 夜、共同提出文を仕上げる。

 契約局宛。

 件名「契約婚約条項再定義申請」。


 署名欄に、私とカイの名前が並ぶ。

 私は筆を置く前に一度だけ手を止める。

 手は震えていない。

 以前より、確かに落ち着いている。


 記録簿へ書く。

 第九刻五十四分、再定義申請書、共同署名完了。


 明日は最後の話だ。

 数字で始まった物語を、数字で閉じる。

 そして数字の外側に残る意志を、ひとつだけ確認する。

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