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赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第四章「更新意思」

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第36話「摘発確定」

 摘発確定の翌朝、領主館前には普段より短い列ができた。

 陳情ではなく、確認の列だ。

 「これから何が変わるのか」を聞きに来る列。


 勝った日ほど説明が要る。

 説明を怠ると、勝利はすぐ噂に負ける。



 午前、処分公示会議。

 強硬派中核は職務停止、関係口座凍結、審査権限剥奪。

 収束派の協力者には限定保護と供述義務継続。


 私は処分票へ押印しながら、手順欄を確認する。

 処分理由、証拠番号、異議窓口。

 罰だけで終わらせない。

 異議の出口を残す。


 兵站長が低く言う。


「厳しいな」


「はい。ですが理由を全件公開します」


「そこまで要るか」


「要ります。理由がない厳罰は、次の反動になります」



 昼、公開板へ摘発確定を掲示。

 人々の反応は割れた。

 安堵の顔。

 不安の顔。

 怒りを抑えた顔。


 工房主が言う。


「これで炭は安定するか」


「単価外れ値は是正します。即日ではなく三日移行で」


「なぜ三日」


「急な切替は逆に欠配を出すからです」


 勝った勢いで急ぐと、現場が折れる。

 その失敗は幕1で学んだ。



 午後、契約局から正式通知。

 「契約条項の暫定維持」。

 無効でも更新でもなく、維持。

 先延ばしの文言だ。


 私は通知を畳み、しばらく黙る。

 公的決着がついた日に、私的決着は保留される。

 王都らしい。

 でも今回は、保留を受け身で飲まない。


 封筒の端が指へ触れ、最初の解任通知の紙縁を思い出す。

 王都の紙はいつも、切る時だけ正確だ。

 私は封筒を机へ置き、呼吸を数える。

 一つ、怒りを落とす。

 二つ、焦りを落とす。

 三つ、提案文の見出しを決める。


 ミレナが問う。


「どうしますか」


「再定義案を出します。契約局へ逆提案です」


「また逆提案」


「はい。待つだけだと、また誰かの文面で決まるので」


 彼女は小さく笑う。


「待つより書く、ですね」


「書いて残す方が、あとで訂正できます」


 待ったまま失うより、書いて直す方がまだましだ。

 この領地で覚えた実感だった。



 夕刻、カイへ提案。


「契約再定義案を共同提出したいです」


 カイは短く返す。


「内容は」


「優先的協議権を“片務”から“相互責務”へ。履歴公開義務を恒久条項化」


 彼は一度だけ目を細める。


「私情を制度へ上げる気か」


「私情を制度外へ置くと、また武器にされます」


 カイは頷き、命じる。


「案を作れ。明日、共同名義で出す」


 胸の奥で、硬かった塊が少し動く。

 終わりではなく、更新の準備が始まる。


 退室しかけたところで、カイが呼び止める。


「ルチア」


「はい」


「共同名義は飾りじゃない。責任も半分持つ」


 私は振り返り、短く返す。


「承知しています。半分ずつ持つ方が、長く持つので」


 彼はそれ以上言わず、書類へ視線を戻した。

 その背中が、以前より近く見える。



 夜、会計庫で摘発後三日移行表を作る。

 口座凍結、便再編、単価是正、監督引継。

 勝った後の実務は、いつも地味だ。

 地味な作業を外すと、勝ちが残らない。


 記録簿へ書く。

 第十刻二十七分、摘発後移行計画、第一版。


 外は冷える。

 でも鍋の湯気は昨日より厚い。

 その厚みを落とさないことが、いまの最優先だった。

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