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赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第三章「契約線の監査」

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第28話「二つの監査線」

 契約行使履歴を貼った翌朝、公開板前の足が止まった。

 数字欄より先に、新欄へ視線が集まる。

 噂は速い。

 検証は遅い。

 だから今日は、遅い方を先に進める。



 午前、合同監査団との実査。

 セレナは会計線と契約線を交互に投げてくる。


「R-23の裁量理由は誰が起案した」


「旧審査室補佐官です。起案票番号はこちら」


「同日の契約行使は」


「第七条照会のみ。監督委員立会あり」


 私は交互の質問に、交互の台帳で返す。

 片方だけ追うと、もう片方で足を取られる。

 両線同時運用が、今日の主戦場だった。



 昼、監査団補佐官が新しい指摘を出す。


「契約行使履歴の時刻と、公開照合準備会議の時刻が重なっている」


 利益相反の疑義を作るための、鋭い突きだ。

 私は会議室入退室簿を確認する。

 重なって見える。

 ただし片方は書記の代理記載時刻。

 実時刻ではない。


 私は代理記載規程を引き、補記欄を示す。


「こちらは代理記載です。実時刻は三分後」


 補佐官は眉を寄せる。


「三分の差で何が変わる」


「同席可否が変わります。規程上は重複禁止です」


 細い差だ。

 だが細い差でしか守れない線がある。



 午後、現場波及の確認。

 配給所で列が再び伸びていた。

 理由は掲示欄が増え、読み込み待ちが発生したため。


 女将が苦笑する。


「透明すぎて、読むのに時間がかかるよ」


 私は即座に板構成を変更する。

 要約欄と詳細欄を分離。

 要約は三行、詳細は横掲示へ移動。


 工房主が言う。


「それなら読める。仕事前に立ち止まらずに済む」


 透明性と可読性は同じではない。

 見せ方を誤ると、善意でも遅延を作る。



 夕刻、グレゴルが現れる。


「契約線まで公開した。これであなたの私事はずっと晒される」


「晒しているのは履歴だけです」


「人は履歴から妄想する」


「妄想される余地より、隠蔽される余地を減らします」


 グレゴルは肩をすくめる。


「強いですね」


 私は首を振る。


「強くはないです。順番を守っているだけです」


 強いふりはできる。

 でも監査は、ふりで長く持たない。



 夜、カイとの短い打合せ。


「明日の争点は」


「代理記載時刻です。三分差を“改竄”に見せる可能性があります」


 カイは即断する。


「全代理記載を再照合して公開しろ。疑われる前に出す」


「量が多いです」


「多いなら三班で割れ。近衛書記を二名出す」


 私は一瞬黙る。

 近衛書記の投入は、領主室の手札を切る合図だ。


「そこまでしますか」


「ここで遅れる方が高くつく」


 私は頷き、班分け表を書く。

 会計庫、兵站庫、近衛書記。

 三班同時。



 深夜、再照合の山が机を埋める。

 手が痺れ、目が乾く。

 それでも頁をめくる。

 途中で一件、代理記載の補記欠落を見つけた。

 小さな穴。

 放置すれば明日の矢になる。


 私は補記追完票を作成し、時刻を明記する。

 そして記録欄へ書く。

 第十刻三十六分、補記欠落一件、追完済み、公開対象。


 小さい穴を先に塞ぐ。

 幕3は、そういう戦いだ。


 灯を落とす前、私は机端の契約局通達をもう一度折り直す。

 紙角が指に触れ、薄く痛む。

 痛みのある紙は忘れにくい。

 忘れにくい方が、次の判断を遅くできる。

 速さだけで勝てる局面は、もう終わっていた。

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