表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第三章「契約線の監査」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/38

第27話「契約局の封」

 幕2決着の翌朝、机の上の封筒はまだ未開封だった。

 王都契約局の正式印。

 逃げ場のない封。


 私は深呼吸を一つ入れ、封を切る。

 文面は短い。


『契約婚約条項の適用確認審査を実施する。王都合同監査団へ付議』


 会計不正と私的契約。

 二つの線が、ここで一つの卓へ乗る。


 喉の奥が少しひりつく。

 王都はいつも、ここで人を折りに来る。



 午前、王都合同監査団が到着。

 団長はセレナ・ドロウ。

 契約局出身、無表情、質問が速い。


「領内主導権移管の正当性と、契約婚約当事者の利益相反を同時に監査する」


 最初の一言で、論点を二重に縛ってきた。

 逃げ道を作らない構えだ。


 私は頷き、資料束を差し出す。


「公開照合の全履歴、共同判定ログ、契約条項写しを提出します」


 セレナは資料を受け取り、即座に問う。


「契約条項第七条、優先的協議権。これは領主室への特権アクセスでは?」


 核心を最初に突く。

 私は答える。


「はい、アクセス権はあります。行使履歴は全件記録済みです」



 昼、監査室で一次聴取。

 セレナは会計不正線ではなく、契約線から先に掘る。


「契約当事者が監督対象と同席する場面がある。自制で足りるのか」


 私は契約行使履歴簿を開く。

 同席回数、議題、第三者立会の有無。

 自制ではなく、手順で縛る。


「同席時は監督委員立会を必須化しています。単独協議はゼロです」


「ゼロの証明は」


 私は会議室入退室簿を重ねる。

 時刻一致。

 ゼロは言葉でなく記録で示す。



 午後、会計庫でミレナが低く言う。


「団長、最初から“私情を起点”にしてます」


「はい。そこが崩れると、会計線も崩せるからです」


 私は契約局通達の余白を見る。

 文末に古式払い線。

 脅し文と同系。

 偶然ではない。


「会計線は守るだけでは足りません。契約線も照合対象へ上げます」


 ミレナが息を呑む。


「契約まで公開するんですか」


「全部はしません。行使履歴だけ公開します」


 私情の中身は守る。

 私情の運用は守らない。



 夕刻、カイへ提案。


「契約行使履歴を公開板へ追加したいです」


 カイは一拍置く。


「嫌われるぞ」


「はい。ですが隠すと監査団の論点が固定されます」


 彼は短く頷き、命じる。


「追加しろ。項目は最小限だ。条文名、行使時刻、立会者」


「内容本文は」


「伏せる。私事を餌にする気はない」


 その線引きは、私が言うより先に彼が言った。

 胸の奥の緊張が、少しだけほどける。



 夜、公開板に新欄を貼る。

 「契約行使履歴」。

 初行は空欄。


 人がざわつく。

 当然だ。

 契約の文字は、数字より速く噂になる。


 私は空欄のまま掲示する。

 明日から埋まる欄だと示すために。


 後列で若い御者が、隣へ小声で言う。


「契約って、結局えこひいきの紙だろ」


 私は振り向かず、板の下へ注意書きを足した。

 「行使内容本文は非公開、行使有無と立会のみ公開」。

 私事を見世物にしない線を、先に引く。

 線を引かない公開は、ただの晒しになる。


 帰り際、板の下に紙片が差し込まれていた。


『契約を出した時点でお前の負けだ』


 葡萄香。

 古式払い線。


 私は紙片を証拠袋へ入れ、記録簿へ書く。

 第九刻十二分、契約線脅迫文、二件目。


 書き終えた指先に、わずかな汗が残る。

 契約の話になると、身体の反応が数字より先に出る。

 それでも記録欄へ落とす。

 落とせば、怖さも運用に組み込める。


 幕3は始まった。

 今度の戦場は、数字だけでは足りない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ