第24話「失脚審査」
評議会大広間は、朝から満席だった。
傍聴席、商会席、工房席、配給所席。
誰もが、私が落ちる瞬間を見に来ている顔をしていた。
議長が開会を告げる。
「会計顧問ルチア・ヴァレリの適格性審査を開始する」
失脚審査。
言葉だけで胃が重くなる。
それでも椅子に座る。
逃げないと決めたのは、私だ。
*
第一論点、欠配責任。
反対側は見出し紙面を掲げる。
「公開照合導入後、欠配悪化日がある。責任は顧問にある」
私は否定しない。
「悪化日はあります。導入初期の分類誤付与が原因です」
そして時系列表を示す。
悪化日、改訂日、回復日。
三点で因果を閉じる。
議場後列から声が飛ぶ。
「都合のいい日だけ選んでる!」
私は公開板写し全期間分を卓へ積む。
「全期間です。欠落があればその場で指摘してください」
静けさが少し落ちる。
全部出すと、騒ぎは一段下がる。
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第二論点、恣意判定。
旧街区評議員が鋭く言う。
「後日処理は差別運用だ」
私は判定ログを開く。
危険度基準、人命・寒冷・機械停止。
共同判定署名、異議窓口記録。
「地域基準は使っていません。基準は固定、判定は二者です」
評議員が畳みかける。
「なら旧街区だけ後日率が高い理由は」
「提出時刻の偏りです」
私は提出時刻分布図を示す。
旧街区は第七刻以降集中。
基準該当便が少ない。
数字は冷たい。
でもこの冷たさがないと、議場は感情で割れる。
*
第三論点、照会過多。
王都側の委員が言う。
「照会の増加は領内自立性を損なう」
これは正論だ。
私は頷き、逆に問う。
「自立性は“見えない裁量”で守るべきでしょうか」
照会履歴板を示す。
送信時刻、返答時刻、照会理由。
履歴のある裁量だけが検証可能になる。
委員は黙る。
否定しづらい地面へ、議論を移せた。
*
第四論点、私的利害。
最も重い論点が来る。
グレゴルが立つ。
「顧問は契約婚約の当事者です。領主室と私的関係を持つ者に、会計主導権を委ねるのは危険では?」
議場がざわつく。
胸の奥が一度強く跳ねる。
逃げ道はない。
私は立ち、答える。
「私的利害はあります」
ざわめきが大きくなる。
私は続ける。
「だからこそ、判定を一人で持たない設計にしました。共同判定、公開履歴、異議分離。私情を“無いこと”にせず、制度で縛っています」
喉が熱い。
でも言葉は途切れない。
「私情の存在は失格理由になりません。私情を隠し、制度を歪めることが失格理由です」
議場が静まる。
この静けさは、怖い。
同時に、届いた手応えでもあった。
*
採決前、カイが発言を求める。
「領主として言う。顧問の運用は痛みを伴った。だが欠配は下がり、偽装便は減った。私は継続を支持する」
短い。
だが重い。
「加えて本日付で、公照監督委員会を設置する。会計庫単独権限は持たせない」
私は顔を上げる。
守る言葉ではなく、縛る言葉。
それがいまは一番ありがたい。
*
採決。
失脚動議は否決。
賛成少数、反対多数。
勝った、とは言い切れない。
ただ落ちなかった。
落ちなかった足場が、次の準備を許す。
議場を出る時、女将が小さく言った。
「今日は逃げなかったね」
「はい」
「なら、次は勝ちな」
私は頷く。
次は主導権奪取だ。
審査を生き延びただけでは、冬は越せない。




