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赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第二章「逆照合の反撃」

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第24話「失脚審査」

 評議会大広間は、朝から満席だった。

 傍聴席、商会席、工房席、配給所席。

 誰もが、私が落ちる瞬間を見に来ている顔をしていた。


 議長が開会を告げる。


「会計顧問ルチア・ヴァレリの適格性審査を開始する」


 失脚審査。

 言葉だけで胃が重くなる。

 それでも椅子に座る。

 逃げないと決めたのは、私だ。



 第一論点、欠配責任。

 反対側は見出し紙面を掲げる。


「公開照合導入後、欠配悪化日がある。責任は顧問にある」


 私は否定しない。


「悪化日はあります。導入初期の分類誤付与が原因です」


 そして時系列表を示す。

 悪化日、改訂日、回復日。

 三点で因果を閉じる。


 議場後列から声が飛ぶ。


「都合のいい日だけ選んでる!」


 私は公開板写し全期間分を卓へ積む。


「全期間です。欠落があればその場で指摘してください」


 静けさが少し落ちる。

 全部出すと、騒ぎは一段下がる。



 第二論点、恣意判定。

 旧街区評議員が鋭く言う。


「後日処理は差別運用だ」


 私は判定ログを開く。

 危険度基準、人命・寒冷・機械停止。

 共同判定署名、異議窓口記録。


「地域基準は使っていません。基準は固定、判定は二者です」


 評議員が畳みかける。


「なら旧街区だけ後日率が高い理由は」


「提出時刻の偏りです」


 私は提出時刻分布図を示す。

 旧街区は第七刻以降集中。

 基準該当便が少ない。

 数字は冷たい。

 でもこの冷たさがないと、議場は感情で割れる。



 第三論点、照会過多。

 王都側の委員が言う。


「照会の増加は領内自立性を損なう」


 これは正論だ。

 私は頷き、逆に問う。


「自立性は“見えない裁量”で守るべきでしょうか」


 照会履歴板を示す。

 送信時刻、返答時刻、照会理由。

 履歴のある裁量だけが検証可能になる。


 委員は黙る。

 否定しづらい地面へ、議論を移せた。



 第四論点、私的利害。

 最も重い論点が来る。


 グレゴルが立つ。


「顧問は契約婚約の当事者です。領主室と私的関係を持つ者に、会計主導権を委ねるのは危険では?」


 議場がざわつく。

 胸の奥が一度強く跳ねる。

 逃げ道はない。


 私は立ち、答える。


「私的利害はあります」


 ざわめきが大きくなる。

 私は続ける。


「だからこそ、判定を一人で持たない設計にしました。共同判定、公開履歴、異議分離。私情を“無いこと”にせず、制度で縛っています」


 喉が熱い。

 でも言葉は途切れない。


「私情の存在は失格理由になりません。私情を隠し、制度を歪めることが失格理由です」


 議場が静まる。

 この静けさは、怖い。

 同時に、届いた手応えでもあった。



 採決前、カイが発言を求める。


「領主として言う。顧問の運用は痛みを伴った。だが欠配は下がり、偽装便は減った。私は継続を支持する」


 短い。

 だが重い。


「加えて本日付で、公照監督委員会を設置する。会計庫単独権限は持たせない」


 私は顔を上げる。

 守る言葉ではなく、縛る言葉。

 それがいまは一番ありがたい。



 採決。

 失脚動議は否決。

 賛成少数、反対多数。


 勝った、とは言い切れない。

 ただ落ちなかった。

 落ちなかった足場が、次の準備を許す。


 議場を出る時、女将が小さく言った。


「今日は逃げなかったね」


「はい」


「なら、次は勝ちな」


 私は頷く。

 次は主導権奪取だ。

 審査を生き延びただけでは、冬は越せない。

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