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赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第二章「逆照合の反撃」

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第13話「指標の朝」

 公照施行の初朝、会計庫の黒板は文字で埋まった。

 欠配率、遅延率、停止便、再配送回数。

 私は最後に、新しい欄を一つ足す。

 「住民待機時間」。


 ミレナが首を傾げる。


「それ、必要ですか」


「必要です。配れた量だけでは生活は測れません」


 言いながら、私は王都三課の待合室を思い出す。

 あの日、解任通知を待つ時間だけが異様に長かった。

 待たせる側は、待つ側の体温を勘定に入れない。

 辺境では、その勘定を落としたくなかった。



 午前、兵站長が新指標に難色を示す。


「項目を増やせば、現場が回らん」


 私は受領票束を開き、前週との差を示した。


「記載追加は平均三十六秒。待機時間削減は一人当たり七分です」


「七分で何が変わる」


「配給列が一巡早くなる。工房交代の遅刻が減る。北村診療所の薬受け取りが間に合う」


 兵站長は腕を組んだまま、しばらく黙る。


「数字の因果は分かった。だが人は分かるか?」


「分からせます。公開板に“改善前後”を並べます」


 彼は溜息を吐き、押印欄へ印を置いた。



 昼、旧街区から書類便が一度に九束届く。

 分類は同じ、記載は細かく、どれも「要即時確認」。

 書類妨害の洪水だ。


 ミレナが票束を抱えたまま言う。


「これ、全部見ますか」


「全部見ると沈みます。三つに割ります」


 私は机上に札を立てる。

 緊急、当日、後日。

 さらに緊急の中を、命に関わる便と資材便へ分けた。


「分割基準は」


「人命、寒冷、機械停止。この順」


 かつての私は、平等に処理することを正義だと思っていた。

 今は違う。

 不平等な現実には、優先順位でしか対抗できない。



 午後、配給所で列整理を確認する。

 公開板に「待機時間平均」が加わったことで、受取窓口が二本に分かれた。

 女将が笑う。


「数字を貼ったら、皆“早い列”を探すようになったよ」


「早い列を作るのが目的です」


 女将は鍋をかき混ぜ、声を低くした。


「でもね、数字が悪い日は、誰かが悪者になる」


 その言葉が胸に刺さる。

 制度は責任を見える化する。

 同時に、誰かの肩へ重さを集める。


「悪者を作らないために、原因欄を先に出します」


「できるかい」


「やります」


 答えた声は、思ったより細かった。



 夕刻、カイが会計庫へ来る。

 私は書類洪水の分割表を見せた。


「旧街区からの妨害です。即時確認を装って処理を詰まらせています」


「対策は」


「運用分割を本則化します。公照に補則を追加」


 カイは一読し、短く言う。


「今夜中に施行する」


「速すぎると反発が」


「反発は明日の仕事だ。凍死は今夜の仕事だ」


 彼は近衛隊長へ命じた。


「旧街区便は入門時に三色札を付けろ。分類未了は門で止める」


 領主の一撃は、時々乱暴だ。

 だが今夜は、その乱暴さに救われる。



 夜、補則案を綴じる。

 題名は「公照補則一号 運用分割基準」。

 最後の署名欄へ手を置くと、指先がわずかに震えた。


 この震えは疲労だけではない。

 制度を増やすほど、私の名前も増える。

 失敗した時、切られる札も増える。


 それでも署名する。

 切られる怖さより、鍋が空になる怖さの方が、いまは重い。


 窓外で北門の灯が動く。

 分類札の色は、今夜から変わる。

 結果は次の朝に出る。

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