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湯気の向こう側

ーーーー

温泉ってのは不思議だ。


知らない奴同士でも、

同じ湯に浸かれば少しだけ距離が縮まる。


まあ――


縮まりすぎて問題になることもあるが。


ーーーー

湯気立ち込める山間の温泉町。


硫黄の匂い。

川沿いを流れる湯煙。

珍しく巨大な木造旅館前に駐車する2台。


Zから降りると赤髪

「温泉だァーーー!!!」


カカポが雑嚢から飛び出す。

「覗きスポットあるだろ絶対

虹色に輝きそうだぜ!」


赤髪

「お前さてはプロだな?」


カカポ

「地形で分かる」


銀髪

「……くだらない」


ハスキーは尻尾を振りながら川を見てる。

水路へ一直線。


カカポ

「うわもう反応してる」


赤髪

「マジモード以外は本当に犬だよな」


趣きの有る旅館に入ると女将がお出迎え。


部屋に案内されながら

女将が温泉の決まりを説明する。

「この町の温泉には【順番】があります」


壁には札。

女将はゆったりと指し示しながら


「一番湯、二番湯、三番湯

身分、年齢、役職によって

入れる順番が決まっています」


赤髪

「うわ面倒くせぇ」


カカポ

「風呂くらい自由に入らせろよ」


女将は慣れている様で笑顔で

「昔からの決まりですので」


銀髪、札を見る。

「……非効率だな」


ストレートな批判に少し感情が出る女将。

「はい?」


赤髪は溜息混じりに

「お前そういうとこだぞ」


温泉街の中央広場の共同温泉(巨大な足湯施設)


ハスキーダッシュで飛び込む。


飛沫に赤髪

「うおっ!?」


カカポ

「テンション高っ!!」


ハスキー無表情のまま、

温泉をバシャバシャ。

泳ぐ程深くないが無理矢理泳ぐ。

潜る……(耳が出てる)ブクブクブク……

掛け流し口が小規模の滝

滝壺でお座りして滝行みたいになる。


赤髪はポカンと

「お前そんなタイプだったのかよ」


カカポ足湯に浸かりながら

「犬だしな」


ハスキー滝の下で無


赤髪

「悟ってんのか?」


温泉滝行で気持ちいいのか悟ってるのか

ハスキー目と口半開きでジッとしてる。


銀髪は飲み物可能ゾーンで足湯しながら

ティータイム。


ーーーー

カカポ

「さて……女湯はどこだ」


赤髪

「やめとけって」


カカポはキリリといい顔をして。

「男には戦わなければならない時が有る

そしてそれは……NOW(なう)だ」


ーーーー


数分後。


ーーーー


頭から底が抜けた桶で拘束されてるカカポ。

なんかホコリまみれで葉っぱや小枝まで刺さってる

「すみませんでした」


女将

「二度と来るな変態鳥」


赤髪

「早ぇよ捕まるの」


カカポ

「警備ガチすぎる」


銀髪

「私も入るんだ当然だ」


ーーーー

露天風呂


木造の屋根の下

湯気の中温泉の縁をなぞる岩。


掛け流し口の近くの

岩に寄りかかっている赤髪。


ふと隣を見ると

洗体が終わった銀髪が入って来た。


尻の位置をズラして鼻まで温泉に浸かる。


ブクブクブク


(デカい)


色んな意味で。


赤髪

「……」


ずっとこっちを見ながらブクブクする赤髪に

銀髪は

「どうした?」


赤髪

「……ブハッ!いや別に」


視線を逸らす。


「?」と首を傾げる銀髪


赤髪ボソリと

「……何食ったらそうなるんだよ」


銀髪

「飯……大体同じ物食べてるだろ?」


赤髪

「参考にならねぇ」


銀髪は首を傾げる。


赤髪

「その……」


銀髪

「?」


赤髪

「ぐぬぬ〜!

……はぁ、胸は負ける」


銀髪

「……はあ」


赤髪

「だがバイクはあたしの方が速い!」


銀髪はキョトンと

「そうだな」


ガッツポーズをとる赤髪。

「勝った」


銀髪

「何がだ?」


赤髪

「勝者の特権だ!

コーヒー牛乳奢れ!」


銀髪

「何故そうなる」


赤髪

「いーじゃんか〜アイス買ってやるから〜」


その時

仕切りになっている

生垣辺りが虹色に光ってる気がした。


「……なんだアレ?」

「……わからない」


しばらくして……

生垣の向こうから……


「コラーーー!!性懲りも無くこのエロ鳥!」


「待って!これは冤罪です!」

「出禁です!出禁です!」


「待って!それマジ危ない!

ああああぁぁーーー!!」


呆れ顔の赤髪

「……あいつよりはマシか」


肩をすくめる銀髪

「そうだな。

それにレッドは

バイクにも乗れるし度胸もある」


急な褒め言葉にお湯以外の理由で顔を赤くして

「ど、度胸はシルバもだろ

それに

あたしはシルバみたいに冷静になれないし……」


お互い何言ってるんだろう?

と気持ちになり可笑しくて笑いだす。


ーーーー

夕食時

宴会場にて


【第42回隠し芸大会】

一般参加大募集


の張り紙を見て。


浴衣姿の赤髪はニンマリと

「だって!」


浴衣姿の銀髪はいつもと同じに

「……くだらない」


「優勝はここの1か月御招待券!」

食い下がる赤髪。


「そんなに滞在する気はない」

一刀両断する銀髪。


「副賞コノチイキ産ブランド米20キロ!」


銀髪ちょっとピクリとする。


ーーーー

宴会場の舞台の上で女将が

「エントリーナンバー1番

一番湯筆頭 弐織 源流さんです!どうぞ!」


舞台上には巻き藁

袴姿のお爺さんがゆっくり歩き一礼して

巻き藁の前に正座……


暫くの沈黙の後……


だん!と一歩!右手には抜刀した日本刀。

ゆっくりと納刀。


巻き藁が逆袈裟に切断され倒れる。

「おお〜!」と言う声に拍手の中

一礼して退場する。


赤髪は唖然としながら

「……今の見えた?」


銀髪も同様に

「……いや見えなかった」


ーーーー

「エントリーナンバー23番

ハスキーさん」


牛大腿骨の野太い骨をバキバキと音を立て

早食いをして若干引き気味の会場を

満足そうに帰って行く。


「エントリーナンバー24番

……カカポさん」


派手な女性物の浴衣に濃い化粧で

わざとらしい高い声で

「この町の温泉には【順番】があります」

わざとらしいゆったりと指し示し


「一番湯、二番湯、三番湯

身分、年齢、役職によって

入れる順番が決まっています」


女将は怒りでプルプルと震え

従業員達は女将の目を気にして別の意味で

プルプルとしていた。


「エントリーナンバー25番

シルバさん、レッドさん」


舞台の上には机が1つ。

何故か宙吊りのハスキーとカカポ。


「……何をするんだ?」


「拳銃の組み立て競争しようぜ」

「ルールを言え」

赤髪はニヤッとモーゼルを2挺出す。

「あ、私の」


赤髪は片手づつで分解しながら

「あんたの銃だ。

どっちが早く、組み立てられるか

獣2匹を賭ける」


「……いいだろう」


嫌な予感しかしないカカポは

「よくねぇ〜よ!」と声を荒げる。


赤髪はニヤッと

「3でいくぜ!

いーーち、にぃーー」


問題無用の赤髪に焦るカカポ

「ちょ、ちょと待っ!」


「……さん!」


銀髪、赤髪が同時に

銃のパーツに手を伸ばし結合を開始する。


お互い物作りの動画の様に結合していく。


赤髪完成して弾を込め控桿を引……


チャキっという金属音と共に装填された

モーゼル拳銃の銃口が赤髪の眉間に向けられる。


「……」


「ふうぅぅぅぅーーーーー!!!!」

カカポの安堵の溜め息。


「も、もう一回!!

今度のが実戦!」


銀髪は無言で「良いだろう」と目を細めて

控桿を引いて弾が飛び出し机に置く。


お互い睨む様に目詰めたまま再度分解する。


分解完了……


銀髪

「合図しろ」


赤髪

「始め」


銀髪、赤髪同時に結合を開始する。


相変わらず手順書通り

正確に素早く結合していく。


赤髪も基本的に手順自体は一緒だ。

2人共順調に組み立てていく……

が、やはり銀髪がリードしている。


銃身を組み立てる時、銀髪は手順通り。


だが、赤髪が組み立てる時、

先に弾を薬室に込めて組み立てる!?


銀髪はその工程にピクリとし

手の動きを更に速める。


結合完了!弾を込めて控桿を!


カチャ!


赤髪が銀髪の眉間に拳銃を向ける!!

「バンっ!」


ハスキーとカカポ

「おお!?」


静まり返る会場


「……速いんだろうけど

マニアック過ぎの上、地味だ」


「で、どっちが勝ったんだ?」

「いや、わからない」


「なんだろ?

何処かで見た既視感は有る」


微妙な会場の空気の中

吊るされたままのカカポ。

「……あれ?レッドが勝ったって事は?」


カカポが繋がるロープの先……

女将がニコリと

「では賭け金の回収を行います」

「待っ!」


ロープを踊る様に引っ張り解く。


「あああぁぁぁ!!」


ーーーー

旅館の部屋内


浴衣姿でまったりしている銀髪と赤髪。


机の上には隠し芸大会参加賞の温泉饅頭が

人数分鎮座する。


窓際の謎スペース広縁で

茹で上がって横になっているハスキー。


窓の外に吊るされた雑嚢の中で

蚊と戦う包帯を巻かれているカカポ。


そんな中、

ドンと地面から突き上げる様な振動。


机の湯呑みがカタカタと揺れる。


ハスキーがガバリと起き上がり

耳をヒクヒクさせる。

「……何か変。

外も騒がしくなってる」


ーーーー

住民

「大変だ!源泉が止まった!!」


温泉供給停止したらしい町の死活問題である。


だが誰も動けない。


町役人

「修理は一番湯階級の許可が必要だ」


職人

「いや、源泉区域は二番湯管理だ」


老人

「勝手に触るな!」


議論開始されている。


赤髪はやれやれと

「また始まったよ」


カカポ

「この世界ルール多すぎだろ」


源泉圧が上がり続けているという事だ

豊富な湯量を誇るこの町。


自然の力は巨大だ。


停滞した温泉は温度を上げ続け、

圧力は刻一刻と上がり続ける。


職人

「このままじゃ噴くぞ!?

いや、噴くなら良い方だ爆発するぞ!」


銀髪は浴衣の袖の中で腕を組みながら

「……で、止め方は」


職人

「地下源泉区の排水弁を開ければいい!」


銀髪

「じゃあ開けろ」


職人

「こんなの初めてなんだ許可が――」


赤髪

「うるせぇ!!

番号なんか旅人に関係ねぇ!」


地下源泉通路に向かう一行。


熱気と蒸気、滑りやすい足場。


ポタリと

作務衣姿の赤髪のうなじに落ちる温水。

「っあっちぃ!!」


浴衣の袖押さえて片手が塞がる銀髪に

赤髪は

「お前その格好で来るなよ!!」


銀髪は困った様に

「分かってる

着替える時間が無かった」


赤髪

「いや作務衣くらい貸してもらえよ!!」


銀髪は言いにくそうに

「サイズが無かった」


赤髪

「デカすぎんだよお前」


ハスキー、

熱湯の上を迷いなく進む。

カカポ

「なんでそんな慣れてんだ!?」


ハスキー

「知らねぇ

でももっと酷い場所なら知ってる」


赤髪

「絶対強がりだろそれ」


ハスキーは無言で進む。


最深部の巨大な排水弁。


早速取り付く銀髪だが「……開かないな」


赤髪は「貸せ」と言って思い切り蹴飛ばす。

【サンダルのままで】


「っっってぇぇぇぇ!!」


悶える赤髪を指?差してカカポ

「バカだコイツ!!」


銀髪

「レッド!」


赤髪

「おうよ!!」


今度は助走して飛び蹴り!

しようとした時


「ちょっと待てい!」


一番湯筆頭の弐織源流と数名が

息を切らせて立っていた。


「緊急事態を客人に任せて申し訳なかった

者共かかれ!」


各番責任者及び作業員が一斉に取り掛かる。


「二番札管理所!排水弁緊急開放了承!」

「三番札所開放了承確認!ロック解除!」

「三方弁切り替えヨシっ!」

「バイパス開放ヨシっ!」


連携の取れた階級制度と

それぞれの役目を熟知した者たちの効率は

最大化される。


銀髪はその光景を過去の光景と重ねる

ーーーー

振動と傾く船内。


防水扉から顔を出す水兵。

「右舷破口からの浸水止まりません!」


「区画を放棄!防水扉閉鎖!補強開始!」


「2番高角砲電力消失!」

立て続けに伝令員からの報告に即座に返答。


「応急電路敷設!電力復旧を優先しろ!!」


「応急電路敷設終わり!」

「通電しろ!」


「2番高角砲電力復旧!」

「補強を再開しろ!」



「第2戦闘配置に移行」

ーーーー

銀髪は作業姿を見てフッと笑い。

「いい連携だ」


弐織が各報告を受け取り

「よおし!排水弁開放!!」


赤髪が排水弁に取り付き。

他の作業員もサポートに付く。

「よおおぉしゃぁーーー!!」と開放する。


勢いよく水の流れる音。


「水圧低下!」

「間に合ったか……」


「筆頭!

水分低下が止まり再度上昇!

排水量が少ない様です!」


「湯の花か!!」


その時排水口方向から

ドゴォンッ!!!と不穏な音が響いた……


数秒沈黙。


カカポ「……あ」

銀髪「……まずい」


ーーーー

次の瞬間


ゴォォォォォォォォォォッ!!!!


という音と源泉が迫って来る!?


銀髪

「流されるぞ、掴まれ!」


赤髪

「うわぁぁぁぁぁっ!!?」と走って逃げるが源泉の方が速い!


カカポ

「熱っっっっっ!!」


阿鼻叫喚の中次々と全員流されて行く

ハスキーだけちょっと楽しそう。


ーーーー

温泉街中央。

振動がだんだんと大きくなる。


そして……


ーーーー


ドバァァァァァッ!!!!


ーーーー


地面を突き破って源泉噴出。


大量の湯が中央広場に流れ込み、

即席巨大露天風呂化。


住民達騒然とする。


老人

「げ、源泉が……」


女将

「広場に……」


赤髪中央広場の

巨大露天風呂の湯に浮かびながら

「セーーーーフ!!」


カカポは

流されてきた洗面器の上で

「どこがだ!!アウトだよ!」


ハスキーは犬掻きしながら

「爆発はしなかった……あと楽しい」


銀髪は普通に浸かってる。

周りを見渡し……ぽつりと


「……広いな」


赤髪

「お前ら順応早ぇな!?」


ーーーー

騒動に住民達と客は最初は困惑していた。


だが――

子供が湯へ飛び込む。


「広ーーい!」と笑う。


別の客も入りだす。


職人も、老人も。


服のまま湯に浸かる職人

「……一番湯も二番湯も関係ねぇな、これ」


女将はハッとして

「まだここは番湯が決まっていません!

皆さん上がって下さい!

1番湯筆頭からも何か言って下さい!!」


「いいかこれは甲冑御前游と言ってな

甲冑を着たまま泳法でな……」

と銀髪に教えながら泳いでいる1番湯筆頭。


女将は「ハハ……」と乾いた笑いをして


「もう好きにしてください……」


ーーーー

広範囲に立ち昇る湯気。


赤髪は前開け気味の作務衣姿で

腰に手を当て瓶コーヒー牛乳を一気飲み

「やっぱ風呂上がりはコレだよなァ〜」


浴衣姿の濡れ髪の銀髪は湯呑みで緑茶。


赤髪

「老人か!?」


ーーーー

少し離れた場所。


風呂上がりのレッドブルを

「翼を授ける〜」と飲むカカポ。


湯に浸かりながらタバコを噴かし

モンエナ飲むハスキー。


その姿を見て赤髪

「行儀終わってんな」


銀髪

「……真似するなよ」

「しねぇーよ!……多分」


ハスキーをジトリと見るカカポ

「コイツ絶対常習犯だろ」


ハスキー、無言で目を逸らす。


赤髪

「やってんなコイツ」


夜空へ湯気が昇る。


ーーーー


ルールってのは、

崩れる時は案外一瞬だ。


でも――


全部壊れてみて初めて、

同じ湯に浸かってたことに気付く奴もいる。

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