６ 碇の変態的野球センス
さて、そんなこんなで五回裏の張高の攻撃が始まった。
さっき逆転を許してしもうたけど、
碇の活躍でそれ以上にピンチを広げる事を防いだので、
流れはまだ完全には向こうに行ってない。
幸いこの回は、打順の巡り良く一番の小暮から。
ここから巻き返すチャンスは十分にあるで！
が、
「ストライィーク！バッターアウト！」
「ストライク！バッターアウトォッ！」
期待の小暮と向井先輩は、
難出家念のキレのあるカーブの前に連続三振に打ち取られてしもうた。
前半はあのカーブを見せ球程度にしか使ってなかったけど、
ここに来てその割合が多くなっている。
しかも段々キレも良くなり、
そう簡単に三振にならないはずの小暮や向井先輩が、
連続であのカーブで三振に仕留められた。
「あのカーブは相当厄介だな」
遠川監督が苦虫を噛み潰したような表情で呟く。
「難出家念は、回を追うごとにカーブの投げる割合が多くなり、
それと比例してキレも良くなるみたいです。
今のうちに攻略しておかないと、後半はさらに手こずるかもしれません」
とは鹿島さんのコメント。
確かにここから更にあのカーブのキレが増していくのなら、
後半に攻略するのは至難の業になる。
次のバッターは碇やけど、
流石のあいつもそう簡単にはあのカーブに対応するのは難しいやろう。
そうなると俺が何とかするしかないっちゅう事やな。
今のうちにしっかり難出家念のカーブを観察し、
次の打席で見事にホームランに――――――
カキィン！
今の音は、俺のイメージの中での打球音ではなく、
実際にバッターボックスから響いた打球音やった。
碇の奴が難出家念のカーブを、物の見事に打ち返したのや。
そしてその打球はライトの頭を越えてそのままフェンスの向こうへ消えて行った。
そうそう、あんな感じで下半身にグッと溜めを作ってボールを懐に呼びこんで、
自分の体勢を崩さずにピンポイントで打ち返す。
俺のイメージも正にあんな感じ・・・・・・って、
どぇええええっ⁉
ホームランやとぉっ⁉
そう、今碇の奴は、正に俺が頭の中で描いた理想の打ち方で、
難出家念の難攻不落のカーブをホームランにしたのやった。
これでスコアは三対三。
試合は俺の活躍する間もないうちに同点に戻ったのやった。
グラウンドでは、打った碇が何という事もないという表情で、
ダイヤモンド上をゆったりと走って行く。
それを眺めながら、俺は嬉しいのやら、悔しいのやら、
何とも複雑な気持ちに襲われるのやった。
