5 ところで手古山先輩は
そして岩佐先輩は帽子を取り、監督に向かって頭を下げてこう言った。
「すんません監督!逆転されました!」
それに対して遠川監督はめずらしくプッと吹き出してこう返す。
「岩佐よ、お前も随分出世したものだな。
あの劉庵寺を相手に五回三失点では不満か?」
「あ、いや、そういう訳じゃないですけど、
先発としてリードを守れなかったんで・・・・・・」
目を泳がせながらまごつく岩佐先輩に、
監督は一転して真剣な顔になって言葉を続ける。
「正直この試合では、
お前には前半の三回を三失点以内に抑えてくれれば合格だと思っていた。
それを五回まで持たせたのだから、合格どころか想像以上の大手柄だ。
いいか、お前は松山の体力温存の為の前座なぞではなく、
試合の前半を作るれっきとした張高の先発投手だ。
その事を心に突き刺しておけ!いいな!」
「は、はいっ!」
遠川監督の目力と、声と、言葉が胸に突き刺さった様子の岩佐先輩は、
目ん玉が飛び出そうな程に大きくまぶたを見開いて返事をした。
今回の合宿で、一番進化したのは千田先輩ではなく岩佐先輩なのかもしれん。
それを肌で感じた俺は、岩佐先輩を頼もしく思う以上に、
バッテリーのライバルとしての闘争心をかき立てられるのやった。
そんな中遠川監督は、俺と碇を交互に見やって言った。
「次の回からはバッテリーの交代だ!
ライトの松山はピッチャーに、正野は八番の岩佐と交代してキャッチャーに入れ!
そして手古山が九番の近藤と代わってライトだ!
ウチの攻撃はまだ五回残っている!さっさと追い付いて逆転するぞ!」
「おっしゃぁあああっ!」
張高の面々が拳を突き上げて声を張り上げたが、
その輪の中に次の回から出場する手古山先輩の姿がなかった。
「あれ?手古山先輩はどうしたんですか?」
俺が誰にでもなく尋ねると、キャプテンが何でもないという様子でこう答える。
「ああ、手古山なら鼻血を出して貧血になったから、
ベンチの奥で小白井が介抱しとるで」
相変わらずやなあの人は!
そんなんで試合に出られるんか⁉
・・・・・・まあ、あの人はいつもこんな調子で試合に出てるんやけどな。
ある意味凄いわ。




