4 碇のレーザービーム
そんな中マウンド上の岩佐先輩にヤジが飛ぶ。
「うぉーい!ツーアウトでピッチャー油断しとるぞ!」
「打ち崩すならここやぞ!」
ちなみにこのヤジは、劉庵寺のベンチではなく(・・・・・・・・・・・)、
張高のファーストの千田先輩と、
ショートのキャプテンから発せられたモノや。
それに対して、岩佐先輩はグルリと振り返り、
「うっせぇよ!誰も油断してぇよ!
俺がバッチリここで抑えるからそこでガッチリ守っとけや!」
と声を荒げた。
流石は千田先輩とキャプテン。
ひねくれた性格の岩佐先輩(本人には言わんといてください)
の立ち直らせ方をよく分かっていらっしゃる。
これで岩佐先輩は、
気負う事なく次のバッターである難出家念に向かう事ができるやろう。
ここで抑えれば同点で仕切り直し。打たれれば逆転される。
この試合の後半の流れを作る大きな山場や。
そんな中岩佐先輩は、渾身の一球を難出家念に、投げた!
カキィン!
快音が響く!
岩佐先輩の外角のストレートを、難出家念が打ち返した!
打球は鋭くファーストの千田先輩の頭上を越え、
フェアゾーンでワンバウンドしてそのままライトのファールゾーンに転がって行った!
その間に三塁ランナーの祖矢念がホームに帰って三対二!
ここで遂に張高は劉庵寺に逆転を許してしもうた!
そやけど岩佐先輩は決してかわす気持ちで投げ込んだ一球ではなかった。
コースも外のボールになるかギリギリの所。
それを難出家念が見事に打ち返した。
流石は劉庵寺。
どの打順のバッターでも、隙のないバッティングをしてきよるで。
そして打球は長打コース!打った難出家念は一塁ベースを蹴って二塁へ向かう!
その時ファールゾーンに転がったボールをライトの碇が掴んだ!
そして全く無駄のない動きで二塁ベースに向かって投げる!
ビュオン!
という音が聞こえそうな程に、碇の右腕から放たれた送球は一直線に、
二塁のベースカバーに入ったキャプテンのグラブに向かっていく!
そこに難出家念が滑り込む!
碇の送球はノーバウンドでキャプテンのグラブに突き刺さり、
そのグラブを難出家念に叩きつけるようにタッチ!
判定は⁉
「アウト!アウトォッ!」
二塁塁審のおっちゃんが、右手を大きく振り上げてコールした!
これでスリーアウトチェンジ!
逆転を許しはしたものの、碇の見事な送球で、
それ以上ピンチを広げる事は何とか食い止めた。
「凄い松山君!ホンマに凄い!」
碇のプレーを見た伊予美が、両手を組み合わせて感動している。
くそぅ、俺だって試合に出れば、あれくらいの活躍をして、
伊予美を感動させられるのに!
碇がいくら活躍しても、素直に喜べないのは俺の性格が悪いからやろうか?
(著者注※そうです)いや違う!
それはあいつが俺の活躍の場を、ことごとく奪っていくからや!
この物語の主人公は俺やぞ⁉
分かってんのかオイコラ!
と、俺が心の中で誰とも分からずに怒りの声を上げていると、
張高ナインがベンチに戻ってきた。




