11 河川敷に熊
と、まるで熊が吠えたような怒声が河川敷一帯に響き、
その声にびっくらこいた俺と宗太は、思わずその場にひっくり返った。
「な、何や何や?一体何なんや?」
そう言いながら上半身を起こして声がした方を見上げると、
何とそこに、ホンマに熊が立っていた!
・・・・・・というのは目の錯覚で、熊のようなごっついガタイと、
恐ろしい目つきをした、中年のオッサンが立っていた。
ちなみに俺と宗太は、この熊のようなオッサンの事を知っている。
何とこの人は、伊予美のお父さんなのや。
名前は小白井大二郎。
普段は隣町の工業団地の製鉄所で働いていている傍ら、
空手道場の師範もしている。
見た目通りに腕っ節がハンパなく強く、腕毛がモサモサで、
今日みたいに白のポロシャツにベージュの綿パンを穿いて居なければ、
山から下りて来た熊にしか見えない。
こんな人の種からよくぞスミレの花のような
純真可憐で可愛らしい伊予美が生まれたモノやと驚くけど、
お母さんの方が伊予美とそっくりでものっっっっっすごく綺麗な人なので、
伊予美はお母さん似なのやった。
もしも伊予美がこっちのお父さん似の顔つきやったら、
俺は伊予美に恋心を抱いたかどうかは甚だ疑問やし、そんな伊予美が、
『甲子園に出る人って、カッコええなぁ~』
と言うた所で、
『ほぉ~、そうかぇ』
で終わり、俺は野球を始めていなかったかもしれない。
まあそれはさておいて、俺はすぐさま立ち上がり、
伊予美のお父さんである大二郎さんに向かって深深と頭を下げて叫んだ。
「こんちゃーっす!どうもお久しぶりです!」
すると隣の宗太も立ち上がり、
俺と同じように大二郎さんに深深と頭を下げてこう叫ぶ。
「ご無沙汰してます!」
それに対して大二郎さんは、
鋼のように堅そうな眉毛を吊り上げ、俺と宗太を交互に見やって言った。
「フン!久しぶりやな!
二人ともしばらく見んうちにガタイだけはいっちょ前に成長しとるみたいやけど、
中身はまだまだ青臭いガキと変わらんようやな!
相変わらずウチの大事な娘にちょっかい出しとんのか⁉あぁん⁉」
「ちょ、ちょっかいだなんて、とんでもないですよ・・・・・・」
凶暴な狼すらもしっぽを巻いて逃げ出しそうな大二郎さんの物凄い剣幕を前に、
俺は引きつりまくった笑みを浮かべながらそう返す。
ちなみに大二郎さんは奥さんと、
娘である伊予美をそれはそれは大事にしていて、
特に伊予美の事は、目の中に丸ごと入れても痛くないという具合の可愛がりようなのや。
そういう訳なので大二郎さんは、
昔から伊予美に近寄る悪い虫をメチャクチャ警戒していて、
幼なじみである俺や宗太ですらも、
いや、むしろ幼なじみであるからこそ、
俺や宗太が伊予美に変なちょっかいをかけないかと目を光らせている。




