7:神殺しのフウマ
「禁断魔法・死に戻りか……確かにお前の言ってることは本当だ。我が国の最重要機密として、この時代から存在する」
父さんの部屋で、ソファに腰掛ける父さんの前で俺は床に正座をさせられ……
取り調べをみっちり受けていた。
洗いざらい、全てを吐かされた。
さすがベテランの騎士だ……。
そしてなんと、父さんは死に戻り魔法について知っていて話が早かった。
王下騎士団に所属していた頃に知ったそうだ。
父さん、昔はかなりのお偉いさんだったからな。
「おう。だから俺は、その術でこの時代に戻ってきたわけよ。ちょっと足痺れてきたんで崩して良いすか」
「はい、どうぞ。まあ戻ってきたのはわかった。殺人鬼を追い払えたことや、お前の力にも納得がいった。わかった、わかったけどな……お前の話だと俺は一年後には死ぬらしい」
「……そうだな」
「待てなかったんか?」
「ん?」
「俺の死後に戻ってくれば良かったんじゃない?」
「その心は」
「俺のかわいいジンを返せ」
A-17作戦にのっとり、父さんに死に戻ってきたことを伝えたがこのザマである。
予想通り父さんは、5歳の俺を返せとぶち切れ寸前なのだった。
「薄情か!」
「だって、だって……俺の天使はそんなふてぶてしく、あぐらかいたり汚い言葉使いしないー!」
「どんなガキだって将来はそうなんだ。早めに幻想から目え覚ましとけ」
「う、ううう……そんな」
「そんでもって、あんたの死後には戻れなかったんだ。戻って来れる日付が、何故か決まってた。どうしてもこのタイミングしか無理でさ」
わーんと父さんは床に突っ伏し、ジンーと泣き始めたのだった。
目の前の、二十年後の息子はどうでもいいのかよ!
なんだこのクソ親父は!
「……なーんて、冗談だよ」
「あ?」
「性格はかわいくなくなっても、お前も俺の息子なことには変わりない」
「……」
「よく、戻ってきた」
泣き喚いてたのは演技らしく、父さんはにやりと笑いながら俺の頭をがしがしと撫でてきた。
……子供扱いされるはされるで、なんかむかつく。
でも、この世界に来てから一番安心した気持ちになったかもしれない。
「お前の未来の仲間が、その殺人鬼とやらを救いたいってのはわかった。けどこの件の協力を頼む以外にも、俺に打ち明けることにしたのには理由があるんだろ?」
「……そうだよ。あんたに頼みがあるんだよ、父さん」
へえ、なになに、それってなにー? と、満更でもない顔をしているこの男をひっぱたきたいが、なんとか我慢だ。
「『神殺しのフウマ』と恐れられた、元王下騎士団のエースだったあんたから……教わりたいことがこっちは山程あんだ」
神殺しのフウマ。
過去に世界を襲った災厄・雷神の襲来。
今でこそ親バカな街の騎士だが。
このおっさんには、そんな超SSS級のモンスターの首を討ち取った過去があったりする。
だから、色んな場所で顔が利くわけだ。
「俺の剣技と、国の上層部の情報がほしいか?」
「ああ、ほしいね」
「勇者になったのに、わざわざ戻ってきてまだ力を望むか。俺の息子はとんだ物好き野郎だ」
「否定はしない」
あんなじゃじゃ馬娘を救う為に、平和を取り戻した世界を投げ捨ててきたんだ。
「俺の息子だよ、お前は間違いなく」
「それは母さんの為に王下騎士団を抜け、城下町騎士団に入った自分と重ねてか?」
「そうさ」
お前がその身体じゃなくて酒が飲めたなら、杯をかわしてもっと色々話せたのになあと、父さんは目を細めて笑った。
それ絶対、数時間は解放されない話だろ。
5歳の身体でよかったと、初めてこの自分の身体に感謝した。
「ま、こうなっちまったもんはしょうがない。お前も俺の息子だ。協力してやる……そして、ハルノちゃんを幸せにしてやれ」
でも俺、来年死ぬのかあ、孫の顔は見れないよなあなんて。
もう気が早いことをぶつぶつと、指をいじりながら父さんは呟いた。
「死ななきゃいいじゃねえか」
「それは無理だよ。ジンも知ってるだろ? 俺の病は治らない」
父さんが死ぬのは事故でも、何者かに殺されるわけでもない。
不治の病でこの人は死ぬ。
〝う、うう……父さん、やだよ……僕、一人になっちゃうよ……お願い、一人にしないで……〟
そんなの、一度この人を喪った俺には痛いほどわかってる。
「驚くことがありすぎて疲れてきちゃったよ。夕食にして、またゆっくり考えよう。まだ時間はあるのだからね」
それからこの晩は殺人鬼の話も。
今後の死に戻り計画の話もすることはなかった。
元の世界であったくだらない話を父さんに聞かせた。
未来のリミヤがこっぴどい結婚詐欺にあうこと。
大酒飲みの召喚士のユーリが、街中の男たちを酒飲みバトルで負かして伝説になった晩のこと。
楽しい話は尽きず、いくらでも出てきた。
「またこの世界でも再会できるといいな。お前の最強パーティの仲間たちに」
「ああ。必ずまた会える」
一人はご近所で悪ガキやってて、いつでも会えるしな。