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8:好きな子にライバル認定されて報われない件




「ジン! 今日も剣の練習するわよ!」


 父さんに全てを打ち明けた翌朝。

 仕事に出かける父さんを見送ると、今日もハルノが家にやって来た。

 本当は昨日のこともあり俺の身が危ないんじゃないかと、駐在所で預かる話も出たようだが……

 父さんがうまく丸め込んでくれたらしい。





〝中身は変われど、自分の息子なことには変わりねえんだ〟

〝そうよ、ジン。お父さんを信じて、戻ってきたことを打ち明けるのも良いかもしれない〟

〝もう一度会って来なよ。大切な家族だったんでしょ?〟





 パーティのみんなも、ああ言って背中を押してくれてたっけなと思い出す。

 思いの外騒ぎ立てもせず、父さんは俺のことを受け入れてくれた。

 ……話してみて良かったのかもしれない。

 本当は受け入れてもらえなかったらどうしようかと怖かったんだ。


「お前は朝っぱらから元気だな。キヨも付き合わされて大変だ」

「大丈夫だよ。ハルノと出会ってから振り回されるのにはもう慣れた」

「き、キヨ! 振り回してるつもりはなかったの! い、嫌だったらごめんね?」


 こいつは昔からキヨには弱い。

 初めての『親友』と呼べる友達であり、竜との混血の竜人だ。

 大切にしたい思いが、キヨとのやりとり一つ一つからいつも伝わってきた。


「大丈夫だよ、ハルノ。そんなハルノとの生活が楽しいと思ってるから」

「キヨ……」


 キヨはぽんぽんとハルノの頭を撫でて笑いかけた。

 その様子を見て俺の胸の中で、ざわりと黒い砂利のようなものがねじれるような。

 嫌な感覚が起きる。

 ようは……嫉妬である。

 25歳の男が子供同士の掛け合いに嫉妬しているのである。

 ぐっ、なんと俺は大人気ないのだろうか!


「ありがとう! キヨが見ててくれるなら頑張れるよ、キヨ、大好き!」


 過去にもなかなか俺には見せてくれなかったような笑顔で、ハルノはキヨにそう言ったのだった。

 雷にでも撃たれたような衝撃と、ハルノの『キヨ、大好き』が頭の中にリフレインしていく。


「さ、ジンやるわよ」


 ハルノは生き生きしながら腕をまくると、呆然としてる俺の襟首を掴み……

 いつも剣の修行をしている家の庭に連れて行った。

 それからまた俺とハルノは剣を構え、素振りの練習に入ったのだった。

 元の世界でもこうだった。

 二人で剣の修行をしている隅で、魔導士志望のキヨはにこにこしながら俺たちを見ていた。


 あの頃は毎日が穏やかで幸せだったな。


「こうやって剣先を見ながら、こうだ」

「こう、こうって、ジンって本当に感覚派ね! わけわかんないわ」

「あ? わかんねえのか?」


 頬を膨らませてぶーたれてるハルノの背後に回り、じゃあ貸せよと後ろから剣を握る手を握り締めた。


「な、ななな」

「こう上にあげてだな、こう振り下ろ……っぐあ!」


 教えようとした結果。

 俺の顎にハルノの頭ががつりと入って、俺は地面にぶっ倒れたのだった。


「何すんだおめーは! 人の親切を!」

「お、教え方! もっと良い教え方あるでしょ!」


 ハルノは顔を真っ赤にして、目をぎゅっとつぶってきゃんきゃん怒ってくる。

 文句の多い奴だなあ!

 キヨは相変わらずそんな俺たちの様子を見て、くすくす笑ってる。


 くそっ、本当は……本当は大切にしたい子なのに。

 なんでかハルノと居るといつもこんな調子になっちまう。

 昔からそうだ。

 顔を合わせればいつも憎まれ口を叩き合ってた。

 でもそれはまあ、照れ隠しも入っててだな。

 けど、せっかく25歳の俺で戻ってきたのに、この少女にこうもまた調子を狂わされている。


「あら、あの坊やもしかして」

「おお! フウマさんとこの坊主! お前、昨日すごかったらしいな!」


 ハルノとしょうもない争いをしていると、外から声をかけられた。

 近所の爺さん婆さんたちだ。


「さすが雷神殺しのフウマさんの息子だ! この歳で、殺人鬼を追い払ったとは!」

「四番地の農園のおばさんの命を救ったんだってねえ」


 ……よし、狙い通りだ。

 早速、俺の噂が街に広まったらしい。

 父さんにも広めておくように言っといたのだ。


「いやいや、お父さんに教えてもらったことを少し試しただけです」

「謙遜しちゃって!」

「ジンくんはまさに神童、この街の宝じゃ! 将来、災厄が襲ってきても、君が勇者になって守ってくれると信じとるよ」


 爺さん婆さんにそう言われ、いやいやと俺は作戦関係なく、本気で照れ始めていたのだが……

 みるみるうちにハルノの顔が青ざめ、驚きに変わっていくのを見て、言葉を失った。


「ジン、すごいなあ……えらい褒められようだったね! 昨日、街に出た殺人鬼を追い払ったのが、まさかジンだったなんて!」

「ああ、たまたま出くわしてな。助けたい一心だったよ」


 よくもこう嘘と綺麗事がべらべら出てくる。

 目を輝かせ、尊敬の眼差しで見てくるキヨにはなんか申し訳ない。


「ハルノ、すごいね。ジンが居てくれると心強いね!」

「……! そ、そうね。そうだけど」

「あ?」

「あ、あんたには私、負けないから!」


 ハルノは俺を指差すと、ぎらりと睨みつけてきた。


「勇者になるのは私! ジンには負けないし……私たちライバルだから……やっぱりジンにはもう教わらない!」


 しかもジンの説明、全然わかんないしっと言って、ハルノはすたすたと歩いてその場を後にしたのだった。


 ……拝啓、最強パーティの皆様。やっぱりこの世界でも、好きな子にライバル認定されてしまいました。まだまだ当面は、俺、報われそうにありません。





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