エピローグ
カタラーナ王国にあらたな国王が誕生した。十六歳の若き国王だ。
亡くなったはずの前王太子ルーシェルが生きていたのだ。彼は革命を起こし、圧政を執っていた王族を裁いたのである。革命を起こした立役者とはいえ、前王太子で正当な後継者である彼を国は快く迎えた。
ルーシェルは国王となると、非課税の提案、貧民街の整備、国民の救済措置など様々な政策を打ち出し、あっという間に国を立て直していく。善政を執る国王に国民は歓喜した。これで自国は発展すると。
◇◇◇
今日は国王の戴冠式とともに結婚式が行われる。国王が王妃を迎えるからだ。
王妃となる女性は奇跡の力を使い、王国中の病で苦しんでいた人々を治療していた人物である。名前はピアージュ・ラージェリン。慈悲深く、初代神女の姓を持つ少女だった。
こんこんと扉がノックされる。入室を促すと、現れたのは国王ルーシェルだった。妃になる女性をエスコートしにきたのだ。
「支度はできたかな? 奇跡の神女殿」
「できましたわ。革命家の国王陛下」
鏡に向かっていた女性がゆっくりと振り向く。白いウェディングドレスを纏った彼女は美しかった。ルーシェルは見惚れてしまう。
「口がぽかんとしたままよ。ルー」
「君が美しいからだ。ピア」
赤くなった顔を隠すためにルーシェルは手で口を抑える。
「二人だけにしてくれないか?」
支度をしていた侍女たちを下がらせると、ルーシェルはピアージュに手を差し出す。
「美しい姿をあの方たちにお見せしないとな」
転移魔法を使い、あの場所に行く。『魔神の領域』へ。
◇◇◇
ピアージュの花嫁姿を見るなり、シルヴィアナは泣き出してしまった。
「きれいだわ……娘の花嫁姿を見られる日がくるなんて……」
ジンは顔を背けているが、あれは密かに感動しているのだ。その証拠に肩が震えている。
「ご両親に花嫁姿を見せたくて参りました。というわけでお父さん、あらためて娘さんを俺にください」
「誰がお父さんだ! おまえの父になった覚えはない!」
こちらを向いたジンの金色の瞳は涙で濡れていた。泣いたジンはスルーしてルーシェルはピアージュの前に跪く。
「ピアージュ・ラージェリン。貴女を愛しています。どうか私の花嫁になってください」
ルーシェルにプロポーズされたピアージュは「はい」と頷くと手を目元にあてた。紫の大きな瞳から雫が落ちる。
ルーシェルは胸元からハンカチを取り出すとピアージュに渡す。
「式の前に化粧直しをしないといけないな」
まだ泣いているジンを引っ張ってシルヴィアナがルーシェルに一礼する。
「ピアージュを……娘をよろしくお願いします」
「幸せにすると誓います」
ルーシェルはシルヴィアナとジンに礼を返す。
「絶対だぞ! いつも見てるからな。娘を泣かせたらぶっ飛ばしに行くぞ!」
ピアージュはジンとシルヴィアナの娘だったのだ。荒んだカタラーナ王国を嘆いたシルヴィアナとジンは自らの娘であるピアージュを遣わせたのだ。生まれた時から額に『ティアの印』があったのと、両親がいなかったのはそのためだった。この娘がいることで国民が少しでも救われるようにと願って……。
だが、人間たちはピアージュを魔女として断罪しようとした。怒ったジンはピアージュを助けに行こうとしたのだが、シルヴィアナに止められる。娘を助けようとしている少年がいるからと……。
「本当に革命を成功させてしまうとはな。大した小僧だよ。お前は」
ジンは子供の頃のようにルーシェルの頭を撫でまわす。
「ところであの者たちはどうしていますか?」
「森の小川でゲコゲコ鳴いている」
森を指すとにやりとジンは笑う。
「そうですか」
ルーシェルもいたずらっぽく笑う。
「行こうか? ピア」
ピアージュは差し出されたルーシェルの手をとり「はい!」と笑顔で答えた。
◇◇◇
ルーシェル王の治世は長く、国民は平和で幸せに暮らすことができたと後世に語り継がれた。
こんなおとぎ話も語り継がれる。
『むかしむかしこの国に美しい神女がいました。神女を見初めた主神は彼女に求婚し、神女はこれを受けました。主神は神女とともに神の国を作りました。主神の花嫁となった神女は、主神と同じ永遠の時を生きることになりますが、神と一緒であればといつまでも幸せに暮らしました。恩恵により、この国も平和になりました。めでたしめでたし』
これで完結となります。
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