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 30s   作者: リョウゴ
帰国子女と異界騎士
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呼び出し



「結局何だったのか分かんなかったな……面白そうなものって何だと思う?」


 翌日の放課後。藍逆に聞いてみた。その話題に対して彼女の反応は実に微妙なものだった。


「うぇー……? いやいやなんで私に聞くの」


「俺の友達の中じゃ多分藍逆さんが紫野さんと一番仲良いでしょ」


「そりゃあ、うん。てか言っちゃうとそれ作るのに協力させられてるから知ってるんだけどね」


「えっ、マジ?」


「マジマジ。茉美ちゃんが隠してるのに私が言っちゃうのもなんかおかしいしこの話やめよっか。たぶん六月一杯までには出来上がるし、それまでお楽しみにーって事で」


「……そうだね」


 意外にも紫野の手伝いをしていると言う話を聞いて想像しようとしたが全く想像できない。そりゃそうだ。紫野の研究とやらの実態を知らないのだから。


 強いて言えば、白衣を着た藍逆を想像したけれど、それが想像力の限界だった。恐らく似合うだろうが、そんな事は今知りたいこととは関係ない。


「にしても相変わらず囲まれてるねぇ」


「ね」

 藍逆の視線の先には湯沢がいた。今日もまたこのクラスの女子に囲まれて、談笑していた。


「そういや、ハーフなんだっけ?」


「みたいね。苗字が湯沢なのはやっぱりハーフだからみたい」


 俺の問いに藍逆が答えた。湯沢ミアスはハーフらしく、日本語がそこそこ喋れているのも親の影響と言うことらしい。


 そう言えば他のクラスにも留学生が来ているらしいけどその人たちは日本語はからっきしだと依田に聞いた。誰も彼も強いらしい、とも。


 当然私は負けないけれどね、なんて心なしか自慢気な依田の顔が思い浮かぶ。あいつに勝つには能力を無効化でもしない限り無理じゃないだろうか。そんな都合のいいものは無いのだけれど、能力封じても本人の対人戦闘能力は高い方だから、まー無理だろ。


 なんてのんびり考えていたらサングラスを外した田倉が教室に転がり込んできた。


「っ止水!! ちょっとこっち来てくれ!!」


「どうしたの田倉、そんなに慌てて……」


 俺は理由を聞く前に支度して立ち上がっていた。目を見てしまったからだが、別に見なくても行っただろう。どうせ暇だし。


「牧男が! 留学生に喧嘩を売られた!!」


 廊下を走る田倉を追いかけながら、彼の言葉に率直な反応を返す。


「なんじゃそりゃ」


「言うにはさ、ほら、牧男って凄いデカいじゃん」


 意味は分かる。五月雨の鍛えられた筋肉は彼を一回り大きくし、もはや凶器の域だ。


「ま、デカいな」


「で、なんかその喧嘩ふっかけてきた留学生はさ牧男と会話を成立させてる風だったんだよ!!」


「ふーん……ん!? 会話を!?」


「そう!! 英語っぽかったんだけどさ、どうもちゃんと会話できてる風でさ、見てたら突然留学生が切りかかってそっから激しい殴り合いを始めてて、その仲裁に」


「俺を? 依田とかでもいいじゃん」


「うん、そりゃ考えたよ? でも依田さんは結局俺から頼んだところで動いてくれないと思ったし、そもそも居るか分からないし、暇もなかったし!!」


「……そうか?」


 依田なら頼めば何だかんだ言いつつ受けてくれると思うが、きっとその何だかんだ、という点でその案を切り捨てたのだろう。


「というか、留学生ってどんな感じだった?」


「ガタイの良い女だった」


「なるほど」


 そりゃあ、五月雨と会話を成立させると言うわけだ。






 咆哮が聞こえた。所々破壊の跡が見える中を二人で駆け抜ける。五月雨と留学生は訓練場に行かずに移動しながら殴り合っているのだ。成る程、かなり厄介な事になっている。


「ねえこれ平気なの!?」


「知らねーよ!!」


 ともかく言い合いながら走って。戦う二人を第15屋内訓練場の横で見つけた。


「ゴァァァァァアア!!!!!」

「ヴォォォアアアア!!!!!」


 大剣と大剣をぶつけ合う二人を。




 五月雨が剣を振り下ろす。それは力任せで強引な動きで、しかし下手に受ければ衝撃だけで戦闘不能に陥る程に強烈な一撃。


 それを留学生は左腕に装備した円盾で受ける。衝撃に足はコンクリート舗装された地面を陥没させる。しかし盾が僅かに押し上げられるのを俺は見た。留学生はあの一撃を受けきったのだ。


 留学生は笑っていた。盾で剣を振り払い己が獲物たる平たい六角棍にも見える大剣を水平に振り抜く。ただ片手で。


 並みの人間には両手で持つ事すら適わないであろう大質量をただの片手でまるで棒切れを振るかのような軽々しいスイングに目を奪われる。それを可能にするには相当な力を必要とするだろう。


「グォアァァァァ!!!」


 五月雨は左腕に大きな盾を装備していた。右腕で左腕を押さえつけながら盾を体当たりするように剣に真っ向からぶつける。


「うわっ!?」「マジか……!!」


 剣と盾がぶつかる衝撃が風を起こし、俺達にまで届く。田倉は少し体勢を崩した。


「アハハハハハハハ!!!」


「ガハハハハハハハハ!!!!!」


 五月雨が独楽のように回り剣を留学生に叩き付ける。構えられた盾は衝撃に耐えたが逃がしきれない圧倒的な力は留学生の足を浮かせ、そのまま吹き飛ばした。


 十メートルは足を地面にガリガリと跡を付けて後退したかという所で一層姿勢を低くし、地面を踏みしめて停止。盾を地面に叩き付けスタートダッシュの勢いに加えて走り出す。


 爆発音。それから0.3秒で突きを五月雨にぶつけるのを俺は目視した。


「《クラスチェンジ》バーサーカー!!!!」


 五月雨が斜めに構えた盾で突きを受ける。しかし留学生は盾に剣をぶつけた瞬間に剣を引き足を止め、剣を振り上げた。


 五月雨はその隙に空いた胴へと飛び込むように盾を掲げて体当たり。


「マズいな……」


 しかし留学生はそれを読んでいたかのように盾を蹴り返す。そして盾を足の裏に捉えたまま剣を振り下ろした。


「つか止水早く止め──」



「ゴ、ァ、アァァァァァアァアァァァァァア!!!!!!」



 瞬間留学生だけでなく俺達まで吹き飛ばされる。空気はバリバリと震え、隣の訓練場の窓が揺れてその幾つかは割れていた。


 揺らめきながら立ち上がる五月雨は赤の煙を上らせる大剣を肩に担ぐ。狂化だ。


「──────ァ」


「ハハッ」


 留学生も立ち上がる。盾を捨てて剣を片手で持って、手を顔の高さに上げて手のひらを上にし、指を曲げる。挑発だ。


 五月雨はその意味を分かっているのか分かっていないのか。剣を掲げてゆっくりと歩を進める。


 そして両者が同時に動く。


「ゴウァァァァァッッッ!!!!!」


「ダァァァァァッッッッ!!!!」


 五月雨の振り下ろしに合わせて振り上げられる剣と剣がぶつかり合い流れるように弾かれる。両者反対に回り、同様に当たる剣が爆ぜる。


 ──連打。力と力のぶつかり合い。五月雨が押せば留学生も押す。一歩も引かず、ただ前に出る技すら無い斬り合い。


「おい、止水? ……止水!!」


「……聞いてる。止めろって言うんだろ? アレを?」


 留学生が剣戟の合間に放った蹴りが五月雨の腹に突き刺さる。それまで間の空かなかった剣の音が停滞する。が、五月雨の目は猛獣のようにギラついていた。


 飛び、縦に回転して振り下ろされた剣を五月雨は吼えながら盾で殴りつける。ブレた留学生の動き。斬撃は失敗して辛うじて着地すると、留学生の頭を思い切り蹴り上げた五月雨。


「おい!! 止めさせろよ!?」


「……いや、多分だけど先生はもう来てる。それに、ほら」


 蹴り上げられた留学生は後ろに倒れ込むように転がってから飛び上がり立ち上がる。口内に溜まった血を吐き出すと獣のような笑みで剣を構えた。


 大して五月雨は、構えていた剣を取り落とし、膝から崩れ落ちた。蹴り上げられた時にカウンターで蹴りがもう一度胴体を捉えていたのを俺は見ていた。


「牧男!?」


 慌てて駆け寄っていこうと田倉の肩を掴む。すると当然、田倉は俺を睨む。


「……そもそも仲裁に俺を連れてくるのがやっぱり間違いなんだよ」


 五月雨が剣を取り、立ち上がろうとしている。きっと意識は朦朧としていて、そして狂化なんてもうとっくに解けているのだろう。だというのに立ち上がる。きっとまだ足りないのだ。この"試合"を終わらせるには、まだ。


「こういうの見ると止めるのがもったいないと思うような人間だからなぁ」


 圧倒的な力と力のぶつかり合い。小手先の技など存在しないただバカ正直の試合。そんなもの、止めてしまうのがもったいないと感じるのは当然だろう?


「フハハ」


 五月雨が俺をちらと見て笑った。そういうことだ。存分に戦え、牧男。



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