タッグ最終試合
屋外第6訓練場、ステージは森林だった。
「来たか、結城止水」
木々の間に、王貴が見える。偉そうな態度で、見下すような目を向けてきていた。
以前と全く変わらない態度だが、寧ろ変わっていたら気持ち悪く感じるだろうからこれで良いのかもしれない。
「来たよ」
俺は一言、王貴の言葉に応える。向かい合う距離も、立ち位置も既視感がある。
ただ、前と違って今回は1対1ではない。
「前回の雪辱、晴らさせて貰うぞ」
「嫌だね、今回も勝たせてもらうよ」
俺が相手をするのはお前じゃないし、お前が相手をするのも俺じゃない。
俺もそれが理解できているからこその会話。
「ふん」
王貴が鼻で笑う。
『本日最終グループぜーんぶ位置についたね!!』
放送が入る。紫野に視線を送ると、持ち込んだノートを開いたり閉じたりを繰り返しているのが見えた。
王貴はジャージのポケットに手を突っ込み空を見上げていた。口が動いていてぶつぶつと呟いているように見える。当然何を言っているのかは聞き取れはしないが。
秦野は木に寄りかかって、銃を胸の前に寄せて遠くを眺めていた。
俺は、屈伸をしていた。準備運動は大事だ。
客席を見てみればそこそこの人数がいた。まあ、騒ぎ声みたいなのは聞こえていたし、分かってはいたが見られているというのはあんまり気分が良いものでもない。戦闘が始まれば大して気にはならないだろうけども。
『さぁて準備は良いかなー!!? 例の如く遅れてたら容赦なく始めの合図させて貰うからね!!』
左腕の感覚を確かめる。"少し重い"が、大丈夫だ。邪魔になるほどじゃない。
『さーん!!』
カウントダウンが始まった。紫野がノートを閉じる。
『にー!!!』
王貴がポケットから手を抜く。その右手首には宝石が多数嵌まったブレスレットが装備されていた。
『いち!!!!』
秦野が銃のシリンダーを確認する。当然のようにそこには空だった。
『試合────』
俺は練気を漲らせて踏み出した。
『────開始!!!!!』
「木々よ舞い踊れ!!」
「全て撃ち抜く!! 先に、走れ!!」
王貴が俺たちの周りの木を叩き下ろすように動かす。紫野が一瞬で地面から大量の筒を錬成するとそこから何かを射出する。
ドガ──────と鼓膜が破れるんじゃないかと言うほどの音を伴って木々が爆発する。攻撃する木々を紫野が壊したのだ。
「ふん」
王貴は空気の弾を俺に向かって撃ち込んでくる。俺はそれを避けるように木を盾に迂回するように走る。
「王貴、お前の相手は俺じゃないぞ!!」
言いながら腕輪から王貴の方へ葉刃を射出する。
「それは、知ってた」
──囁き声。はっとして声の方に振り返る。
「ばん」
発砲音。飛んでいた葉刃が制御を失い落ちていく。気付かぬ内に秦野に後ろを取られていたのだ。
嘘だろ……、と呟く間も勿体ない。いつの間に後ろを取られていたのかが分からない。始まる前には王貴相当に離れた位置に居たというのに。
「ばん」
続けざまに引き金を引き撃鉄が降りる。発砲音と共に失われたのは剣を持とうとした右手の感覚。戸惑う俺に向かって距離を詰めてくる秦野。
──マズい。恐らく次の攻撃次第で詰む!!
そんな焦燥感に駆られて《暗翔》で距離を取る。
「ばーん」
2歩目に発砲を受け、左足の感覚が消える。転び掛けたところで咄嗟に出た右手をついて転がりながら立ち上がる
……ん、消えていた感覚は戻ったな。
手足の感覚を確認して俺は秦野に聞く。
「……どうやって後ろに回り込んだの?」
「結城君が勝手に飛び込んできたの、私は歩きながら待ってただけ」
「……そうか」
秦野は平然と答えつつ銃のシリンダーの中身を確認して戻した。
俺は立ち上がると剣を構える。葉刃を正面に展開する。もう葉刃の扱いにも慣れてきているから、手間取ることもない。
「私あんまりこの距離好きじゃないんだけど」
「そうかな、悪くないでしょ」
彼我の距離は七メートルほど、一瞬で詰められないほど遠いと言うわけでもないが、かといって近いと言える距離でもない。
秦野が銃を構えながら独特のリズムで歩いてくる。6枚だけ葉刃を飛ばそうとした所で発砲、葉刃が落ちる。──動かさなかった1枚を除いて。
6枚の葉刃が撃ち落とされたのを見て俺は笑った。
「それだけで勝った気になってるの?」
冷や水を浴びせてくるような秦野の言葉。確かに勝った気になるのはまだ早い。だが一歩前進したことは間違いない。
残っていた葉刃を一直線に飛ばす。秦野は銃剣を振り抜き葉刃を弾き飛ばす。
間を空けずに追撃。剣を上へ放り投げ、落ちた葉刃を2枚目拾い上げ、足元の1枚を蹴り飛ばし持った葉刃を投げる。
「くっ」
三枚の葉刃を左へと走ることで避けると秦野は銃を撃った。彼女の後ろ通り抜けてブーメランの如く弧を描くように動く途中で制御を止められたため遠くへと飛んでいった。
落ちていた葉刃を一枚腕輪に納め落ちてくる剣を取る。そのまま勢い良く俺は秦野へと駆ける。
「《暗翔》」
発砲。両足の感覚を見失ってしまい前のめりに転ぶ所を左手をついてそれだけを起点に跳ねるように前転。
「《螺旋》」
右手に持った剣を縦回転する体の勢いを活かしてブン投げる。避けようとしない秦野の横を剣は通り過ぎていく。
狙いが雑、か。当然片手で前転かまして狙える方がおかしいだろ?
両足でしっかりと着地して秦野を見る。彼女の右の人差し指が引き金に指を置いていた。
「《陰転》」
足元には木の影。殆どが木の影。秦野の後ろもまた影。《陰転》を発動し、秦野の背後に転移する。
「──それも聞こえた!!」
転移した先で俺の目の前には銃口があった。引き金が引かれ目の前で撃鉄が下りるのをスローモーションのようなった視界で捉える。
『き』
俺は左手を前へと出す。時間が無い。予定もしていない。本来なら葉刃で殴り倒す予定だったのを急転換した。
『ま』
秦野の口が動いている。高速で巡る思考が、左手をもっと前へと伸ばせと火を散らす。
『り』
秦野の表情が歪む。やはり気付かれてしまうのか。左腕がガキガキジャリと金属のぶつかり合う音を伴って締め上げられる。
『よ』
炸裂音と共に俺は吹き飛ぶ。左腕が軋む音と、ジャージが裂ける音も同時に聞きながら──────意識が落──
『何? 意志一つでスイッチが入る鎖?』
『そう、場外に弾き飛ばしてくれて、携帯性がある手軽なものって事でそう言えば紫野の鎖ってそう言うこと出来そうだからなぁって』
『……まあ、出来るが』
「い………け……」
意識が朦朧としたまま歯を食いしばる──左肘から手首に掛けてぐるぐる巻きに装備されていた鎖が前へと伸びていく。
「っ!?」
それは横一文字に秦野の腹部を打ち据えて数周巻き付くと場外に向けて飛んでいく。思い切り叩きつけ締め上げてきた為に呼吸が狂い一瞬の思考も同時に飛ぶ。
慌てて踵を地面に叩きつけて減速させようとするが、ふわりとした浮遊感から察していたが足は地面を空振った。
「こ、この……!」
銃を叩きつける。剣だが、切れ味は腕輪武器らしく、悪すぎた。切れるはずもない。引き金を引こうか考えたが、思考のないものを止めることは出来ない。だから腰から銃を抜いた。
己の腕輪武器に酷似した銃を思い切り叩きつける。切れ味は悪くないが切れるはずもない。これはわざわざ外で紫野が作った鎖なのだから。
銃口を鎖にくっつける。恐怖から顔が引きつるのが分かる。これは鎖に付いてはいるが自分に向けて弾かれるかも分からない。
撃った。壊れず。撃鉄を上げ撃つ。壊れず。撃つ。壊れず。撃つ。壊れず。撃つ。撃つ。
「く───」
抜けられない。手立てはもう無いのだから無理だ。
諦めるか。秦野は、そう考え───
「ぐ……ぁっ」
背に強い衝撃。溜まらず身を捩ると鎖がガリガリと音を立てて停滞していた。止まっていた時間はほぼ一瞬だった、がその原因はまるで地面から生えた枝かとも思うほど細い木だった。根を張っているようには見えない。
「────っ」
自然と歯を食いしばる。両手で遠ざかるまでの一瞬でその枝を掴む。が。その枝はまるで存在しなかったかのように霞んで消えた。
……は。ははは、そっかぁ。
秦野は腕輪を掴んで銃を取り、ヤケクソに発砲した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「なるほど。これはしまったな」
「詰みだよ、王貴」
紫野は鎖で四肢を縛り付けた王貴に向かってトドメを刺した。
そうして王貴を場外に飛ばした後紫野は溜め息を吐いた。
「ファンタジーかよ。あの男……ちょっとあの能力羨ましいな」
───そうして最後の試合が終わった。




