王貴の扱い
「はぁ……」
何度目かの溜め息とともにベッドに倒れ込む。
私、秦野胡桃にとってタッグ戦で連戦連勝しているのは奇跡と言っても良い。
「…………最初はどうなることかと思ったけど」
単純に王貴優成という人間が裏表の無いような性格だと言うこと(だからといって善良とは言えない性格をしているが)で、目に見えない事から私が不和を生むことがなかったのが幸いだった。
彼は不和を生むような性格をしているけど、心にもないことは言わないし考えていることの殆どを口に出してしまうような人間だ。それはあくまで殆どであって賞賛の類を滅多に、いや一切言わない辺りなんというか口下手? なのかもしれない。違うかも。あんまり他人を誉めないだけかも。
他人の心をうっかり読んでしまって、その表にならない醜悪さに辟易している私としては、裏が無い、と言うだけで十分なのだけれど。
「さて、と」
私はすっかり見慣れた武器、銃剣を腕輪から取り出した。リボルバーとか呼ばれる、回転式の拳銃に酷似しているが、長めの銃身の下に大きな刃が付いている。剣の心得は無いから剣としては使うつもりはない。
ガチャっとシリンダーを動かして、中を見る。当然のようにそこは空になっている。一応、合う弾さえあれば発砲は可能だが、弾の入手手段が私にはなかった。
だから私は別のものを銃に籠めた。
「ばん。」
引き金を部屋の天井に向けて引く。何も起こらない。それは当然のことで、私は乾いた笑いを浮かべた。
腕輪に仕舞う。結局私にあるのは、与太話と一緒に伝わるこの能力ぐらいだ。他人の心を読み取る能力。しかも距離も大して広くない、それこそ先程の銃剣の剣の射程くらいしかないあんまりにも弱い能力。
「……もう寝よう」
あまり暗いことは考えるべきじゃない。私はさっさと眠ることにした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
王貴優成は、自らが名に恥じぬような生き方をしろ、と両親に常日頃言われていたという。
それが彼の行動指針だった。それが彼の普通で、周りから浮くような人間性の根幹だった。
王とは何か。それを彼は『最上に立つもの』と答えるだろう。最強、と言い換えても良い。幸い彼は最強に至れるかもしれない程度の能力者である。
しかし彼は色々道を誤り、踏み外していた。それは彼の行動指針に依って生まれた偏りのある思考と付随して生まれた孤高、孤独と言い換えても良いか、それにより誰も正す人が居なかったのだ。
「タッグ戦で、多少変わるかとも期待したのだが」
堆く平積みにされた本がノートパソコンを囲んでいる机に向き合った見た目老齢の女性が、一枚の紙をひらひらと振りながらため息を吐いた。
女性は持っていた紙を見る。王貴優成に対する意見が書かれた紙だ。中身は要すると危険だから退学させろ、と言うもの。それができりゃ苦労するものかよ、と天を仰ぐ。
この高校に在籍する問題児は多い。表面化しない問題も多い。学校としてするべきなのはそんな問題を遠ざける事じゃなくて解決することだろうが、と大きく息を吐いて頭を掻く。
数多く至急手を打たなければならないのが王貴優成だと言うわけである。問題視されたのは普段の言動もあるが、結局の所邪神教本に手を出してしまったことである。
問題解決のために白羽の矢がたったのは一人の無能力者とされている生徒だった。秦野胡桃、読心能力の家系であるため、王貴優成をもしかしたら何とかしてくれるかも位の気持ちでの採用である。
失敗してもいいや。ぐらいの軽さで、ここで頭を抱えている白髪の女性流に言えば人柱である。
「まあ、問題の解決を生徒に丸投げする私も言えたものじゃないな」
ズレた老眼鏡を戻しながら、校長がこれで良いのだろうか。なんて他人事のように校長の女性は思った。
「失礼します」
「……ノックくらいしたらどうだ零司……いや、金槻先生と今は言うべきか」
入ってきたのは1年0組担任の金槻零司。音一つ立てずに入室してから声をかけてくるあたり、控えめに驚かせようという意志を感じて、校長は頭を抑える。
「今年の0組は割と活きの良い奴が居るよな。特に結城とか言ったかな。あんまり調子に乗らせるなよ? あれは危ない」
「……あの強さをあの年で手に入れているのは凄いですからね、腐らせないようにしますよ、俺としてもそれは勿体ない」
二人共口にはしなかったが、邪神教に深い因縁がある事が何か悪いことに繋がらないか気をつけるということは二人の共通認識であった。
「で、何の用だ? 連絡もせずに来るとは滅多にないことだが」
「最近、怪我人が増えてます」
「ああ、なるほど。そういえばおまえは今年が初めてか。なるほどなるほど、しっかり教師しているのだなぁ」
校長が金槻の言葉の先を察して、深く頷いた。まあ直訴しにきたという事は余り他に目を向けていないという事だ、何とも視野が狭いものだ。と嘆く素振りをした。
「まさか毎年こんな感じですか?」
「二年生以上はこんなもんじゃないが、まさか見ていなかったのか?」
あえて煽るように言う校長。金槻は無言になる。
「はい、言ってしまえば、想像がついていたので。」
「じゃあ何で来た、おまえにしては浅すぎるが」
「…………誰も聞き耳立ててないですよね」
一瞬で冷徹な眼差しになった金槻に、呆れた。
「はあー、ここを何処だと思っている。他人の目、他人の耳など当然阿呆のようにあるわ、バカ野郎が」
「……それもそうですね」
納得と共に目つきが柔らかくなる。校長は気を緩めた金槻に対してふっと一際柔らかな笑みを浮かべる。
「そうだ、お前にやたらと絡む新人居るだろ? どうなんだ?」
嫌な予感を、金槻は覚えた。しかし逃げることは出来ず、素直に聞き返した。
「どう、とは?」
「何処まで行った???」
「具体性がない。が一応言わせて貰うと何もないからな?」
「何も?」
「ああ。何も」
「ちっ、詰まらんぞそれは」
「俺の人生は他人を楽しませるためにあるものじゃなかったからな」
「それは詰まらん」
2度目の校長の言葉は、毒のある言い方をしていた。
「そうかもしれませんね」
金槻は、詰まらない回答だと思いつつもそう答えるしかなかった。
「本当に、詰まらない奴だ」




