第一戦目作戦会議
休日は何も起こらずに平和に終わった。あいかわらメリアと言語からは意志疎通は取れないが、少しだけ話が通じるように、なった気もしないことはない。
まあ、そんなこんなでタッグ戦初日。普通の授業をするのかと思いきや、完全に特別仕様の授業編成になっていた。
試合開始より20分前、前の前の試合が開始されていた。
「持ち込める物は一つだけどどうするんだ?」
俺は紫野に聞いた。俺は事前準備に関しては完全に紫野任せにしていた。
何故って。何か特別用意する物も思いつかなかったし。紫野が何かしら対策を考えているとのことだったし。
「松明」
「馬鹿じゃねぇの?」
「冗談だ、本命はこれだ」
紫野は中身の詰まったビニールの球を渡してきた。真っ白な粉が詰まっているが、口がなく、完全に中身は密封されている。
「テッテレー! すり抜け粒子ー!」
「上機嫌だな」
「当然よ、これはあの黒い鎧がすり抜ける原理を私なりに研究して何とか形にした物だからな!! まあ、酷く安定しないから叩き斬るなりして開封すると中の粉末がまき散らされるのだがすりぬけられる時間は持って十秒!! まあ、そんな所よ」
紫野は、すり抜けられる原理を自分なりにでも理解できたというのか。右腕を持ち帰ったとは言え、それはかなり凄いのではないだろうか。
「まぁ、さすがの私も魔法は無理だからなぁ。これ以上は時間がかかりすぎてしまうから、お手上げなのだよ」
「それは良いけど……こういう時氷対策するもんじゃないのか?」
聞けば紫野は、しれっとこう言った。
「氷に対する策を考えるのを、それ作るのに没頭してて忘れてた。今更遅いし」
「おい」
無策で突貫しろと言うのか。文句の一つでも言いたくなるような状況だ。
紫野は焦りもせずに一冊のA4サイズより少し大きい黒色のバインダーを取り出す。中には大量の紙が綴じられているのが分かるが、書かれている中身は分からない。
「因みに私の持ち込む物はこれ」
「なんのファイルだか分かんないけど、役に立つのか?」
「……無人島に一つだけ持ち込めるなら何を持ち込む?」
切り替えされた質問に俺は疑問符を浮かべる。何故、突然そんな話に。紫野はそんな疑問をよそに話を続ける。
「あぁ、答えは求めていない。単純に一つ持ち込むなら出来るだけ応用の利く物が良いと考えるだろう? これはそういった物だよ」
やっぱり分からない。そのバインダーに閉じられている膨大な数の紙に何か書かれていて、それが応用が利く物という事だろうが、そんなものが何だと……あぁ、そういうことか。
「空想上の物質メモか」
「その通りだ。なんだ、分かったのか」
紫野には存在しない物質をも錬金する能力がある。その補助の為の物なのだろう。妄想上の産物が幾つもゴロゴロとそのバインダーの中にある。それはさながら───
「所謂黒歴史ノートって奴か?」
「……見せられないものでも……無いぞ? 何故ならその全てが現実的で素晴らしい物質なのだからな!!」
ちょっとヤケクソ気味にぐいぐいとバインダーを開いて中の紙を見せつけるように押し付けてくる。
「わかっ、黒歴史じゃ無いの分かったから離れろって」
「分かればよいのだ。とにかく知っている物質のメモだから、これがあるのと無いのとでは錬金速度が大きく違うのだよ」
不服気に、引き下がった。妄想上の物質を作り出せるという能力があるという事は、つまるところ持ち込み制限では何一つ制限がないのと変わらない。何故なら、その場に存在しない金属だろうが何だろうが、問答無用で生み出せるのだから。
生成速度だけが気掛かりだが。
「じゃあ持ち込みの品に関しては分かった。で試合は三崎風花が前衛であるとして、俺はそっちから狙うんで良いよな?」
「そうだ、助手二号が出来るだけ前衛を集中して攻撃して撃破……だがそれをさせないための後衛、倉崎楓が魔弾で妨害してくるだろう。私も出来るだけ前衛を狙うが……恐らくは1対1の二組になるはずだ」
「……二人同時に足止めみたいな事は出来ないのか?」
「ムーバーを後衛に押しつけて私本体が前衛に攻撃をすればいいのか? やっても良いが倉崎には氷結させる能力がある。放置は出来ないぞ?」
「ん、や、言ってみただけだ。そもそも俺が後衛を倒すなら相当強引に一撃入れる必要があるから、そっちの対処は紫野に丸投げするつもりだったし、何よりコレがあるならな」
紫野から受け取った球の使い所はもう決まっている。
「コレさ、生き物をすり抜けたりはするのか?」
「……ああ、しないな。一方的に無機物が透過状態になるのだ。どう設定されているのかは正直分からないが、そういうものなのだと私は思って創ったが……それがどうしたか?」
「いや、やっぱりあの鎧、生物は透過出来なかったんだなと」
確かにそうだな、と苦笑する紫野。彼女も、細かいことはよくわかっていないのだろう。
「んじゃ、こっから五戦の間、頼むぞ相棒」
「はっ。助手二号が調子に乗るな」
「いや、一番調子に乗ってるの、紫野じゃねぇか」
「うぐっ」
そんなこんなで、一回戦目が始まる時間がもうすぐそこまで迫ってきていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「────なーんて、相手は思ってると思うからさ、頼むよ風花?」
「そっちこそちゃんとやってよね、楓?」




