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 30s   作者: リョウゴ
万魔剣製と遊園地蹂躙
30/98

通りすがりの。



 はいほらまーた病室、違った保健室だ。


 傍らには女子生徒の頭。あ、そうだ、前王貴にやられたときに治療してくれた人じゃないか。


 跡見、って言ったっけ。うん、覚えている。


「……足と腕、治ってる」


 包帯だけぐるぐる巻きにされていた。園下を覗けば、若干傷跡が残っているが肌だ。肌。多分足なんて強引に肉ごと拘束を脱したような気がするから、普通こんなに早………あれ。


「外暗!? うっそだろ!?」


 窓の外は既に闇の帳が降りているのが見える。時計を見れば10時を回っていた。おいおいうわぁ、どんだけ寝てたよ俺。


 これもう泊まるコースだろう。何故か、この高校は泊まる用の設備がいくつも存在する。まあ、何とでもなる。


 ……あれ、と言うか。


「この子、寝てるな……」


 跡見はベッドに突っ伏して寝ている。涎を垂らして……あぁ、見ないでおこう。


 にしてもどうするか。どうするかー。


「レインは……と」


 俺の荷物は誰かがこの部屋まで持ってきていたようだ。携帯も端末もある。先生あたりだろう。


 通知はあった。まあ、グループのみだ。どうせ俺には関係ないな、と電源を切る。


 連絡先は増えたが、だからと言って個人的に用もないのにチャットは送らない。夕張の連絡先を手に入れたときは送ろうかとも思ったが、用もないのに意味もなく連絡したら、なんかほら、迷惑じゃない?


 と、そこまで脱線して、ようやく俺は思いだした。


「あー。負けた。あれは負けだ。間違いなく足りてなかった」


 左腕が駄目だったから均等に力が加わらず、相手の吹き飛び方が左側に逸れたのだ。で、相手の意識が飛んでなかったから、剣を突きつけられて負け。


 勝てなかったなぁ。勝てなかった。


「あーぁぁぁぁぁぁ……………」


 勝てないよなぁ、勝てない。ここ何年も頑張ってきて、結局能力者には勝てないのか。


「足りてない」


 手札が足りてない。遠距離攻撃の手段が、今の所剣を投げるというだけ。確かに剣は手元に戻る。だが、練気が、はっきり言って面倒だ。一回一回が重すぎる。下手な集中状態では使えないし、こんなの使ってる奴は気でも狂っているんじゃないか?


 と、今は冗談を言っていても仕方がない。


 けれど何一つ思い付かなくて、溜め息を吐いた。





 ………と言うか起きないな、この子。


「………むにゃ」


 10時過ぎ。まあ、このくらいに眠くなる人もいるだろう。かといって、なぁ、ここで寝るか?


 跡見は無防備にも寝ている。よくよく観察してみれば目の下に隈が……───


「どーもー!!! 通りすがりのマッドサイエンティストでーす!! フゥーー!!」


 バダムと扉が大きく音を立てて開かれる。開けたのは制服の上に白衣を着た少女だ。眼鏡をくい、と上げて高らかに叫んだ。


 この時間に高校にいるんだから、泊まりなのだろうが………見た目子供っぽいと言うか、もはや高校生であることを疑うレベルで小さかった。制服着てるし、高校生だとは思うが、小学生でも通じるのではないだろうか。


「うわ」


 うるさかった。俺は反射的に耳を塞ぎ、白衣の女を睨んだ。寝てる奴が居るんだよ、と言う意味合いを込めて睨んだのだが、彼女、まだ騒ぐ。


「おお!! 跡見 御津(みと)!! 死んでしまうとは情けない!! そんな君にはこれを授けよう!! テテレテッテレー!! 副産物ー!!」


 白衣のポケットから、ではなく何もないであろう背後からメスシリンダーを取り出していた。その半ばまでは透明の液体が入っている。


 彼女はくるくると回りながら近付いてきた。リュックやポケットの類すら無かった。


 副産物って叫びながら俺の眼前にそのメスシリンダーを突きつけるのは止めて欲しかった。


「っ、静かにしろよ。寝てるし」


「何故?」


 それ、寝てる事に関してだよな?


「そりゃ、疲れてたんじゃないのか?」


「まさか。跡見御津には素晴らしい実験の末の成功作を投与し、疲れ知らずの体に」


 何を言っているのか。成功作て?


「お前は、結城止水か?」


「突然話変えるなよ……ああ、結城止水だよ」


「そうか、君があの試合の!! おお、なんと運がいいんだ!! こうも目的通りに! 跡見御津助手には感謝しなくてはな!!」


 ……そういや、跡見の目の下、隈があったな。もしや、この女が?


 ……だとすると、なんだか、嫌な奴に絡まれたみたいだな。


「君に申し出がある」


 しん、と急に落ち着いた様子になった白衣の女。俺はその変化に戸惑って口を閉じた。


「私の助手になってくれないか?」


 …………。


「はあ???」


 開いた口がふさがらなかった。


「タッグ戦が有るのは知っているだろう? なにぶん私はサポート方面のクラスでな、実戦というものの経験がない。当然前に出て戦う、と言うことが出来るわけもない」


 そしてそのまま説明に入る白衣。なるほど、取り敢えず話の方向性は分かった。


「タッグ戦の相方になれ、ってことか?」


「本当は 助手一号(あとみ みと)にやって貰いたかったんだが。君の方が良さそうだ」


「素性も知らない人とは組めない……」


「そうか。素性を知っていれば組むというのか!!」


 言ってない。が、知ってれば組まない可能性は低くなるだろう。第一印象はかなり悪いが。


 白衣はぴょんこぴょんこと跳ねる。よく見たら白衣がワンサイズ大きいようで、裾は平気だが袖は捲られていた。


「………」


 あ、今跡見が起きた。薄目を開けて白衣の女の気配を察するとびくりと動いて、それから寝たふりを敢行した。


 ……うん。なんとなく分かったわ。この白衣の女のこと避けたな。


「取り敢えず日を改めてくれ」


「じゃあ、これが連絡先だ。渡しておく。……おおー! 私の野望が近付いてきたぁぁ!!」


 白衣の女はメモを置いていき、上機嫌で帰って行った。と思って、跡見がゆっくりと起き上がり、バッと引き返して顔だけ見せた白衣の女に見つかる。


「ふぁぁ……行きましたか」


「わぁっ!!」


「ひっ、きゃぁぁぁあぁ!!!!」


 後ろから忍び足で寄った白衣の女が大声で脅かすと跡見は俺に被された掛け布団の中に頭から潜った。


「あ、ちょ、どいて」


 乗られているのは腹と胸の上辺りで、まあ別にそこなら駄目だとは言えないけど、それじゃ、俺は下手に動けない!!


 目をギラつかせて白衣の女が手をわきわきさせる。


「ふっふっふ、狸寝入りなど! お見通しよ!!」


 そして布団の中の跡見目掛けてダイブする───ってそこ俺が下敷きになって


 跡見はバッと布団をはねのけて白衣の女に布団を当てる。真っ正面から食らって前が見えない様子の彼女の前から俺も跡見も慌てて退いた。


『うわ、前、見えな──』


 そのままベッドにダイブ。多分頭から行った。


 中身がぴくりとも動かなくなったのを、跡見がぺしぺしと叩いて確認する。そして彼女は着ていた制服から紐のようなもの──結束バンドだ──それを取り出すと手慣れた動きで布団を外から縛り付ける。


「これでよし……ふふ、ふふふふふ」


「良いのか?」


「良いのです……よし、帰っ……え?」


 跡見はようやく外が真っ暗であることと、今の時間について気付いたようだ。


「……あのあの、完全下校って何時でしたっけ」


「知らないけど、八時とかじゃないか? 多分」


 白衣の女が沈黙してから完全な静寂がようやくやってきた。その事で跡見も平静さを取り戻したのだろう。


「あちゃあ……しまった……これで5連泊目だぁ……」


 5連泊………?


「今日は帰れると思ってたけど。寝過ごしちゃった……って、事だよね?」


「いや、俺も起きたら10時だったし」


 いつから跡見が寝ていたかは知らない。


「ところで……怪我大丈夫? 前よりはちゃんと治せたと思うんだ」


「平気平気、思ってた以上に治ってるから、感心してるくらい」


 左手を見せる。さっき見たとき包帯が緩くなっていたのでもういっそ外してしまえ。


「………それで平気って言えるのが信じられないよ」


 跡見は目を逸らしてそう言った。大きめの傷はまだ残っているが粗方血は止まってるし、何よりちゃんと肌が戻っている箇所がある。平気だろ。もうすぐ治る。


「とにかく包帯巻き直すよ! この子がこれを脱出する前に」


「私が何から脱出するまでだって!?」


「その布団からっ……ひっ」


「ガチ目の小さい悲鳴は止めてくれ、私にも傷つくハートが存在する! なんならガラスなまであるぞ!」


「ガラスのハートなんて似合わないでしょうに」


 跡見は、諦めたかのように脱力し、死んだ目で呟いた。


「助手、助手って、ただの被験者が欲しいだけじゃない。もう嫌よ、ちょっと危険な薬嗅がされたり飲まされたり、怪我したりとかは」


「あれは……その……」


「今日も寝過ごして帰れないし、どうしてくれるのよ」


「ご、ごめ」


「謝ってすむなら、良かったのだけれどね」


「え?」


「夜中の保健室で騒いでるのはあなたたちですねー!!」


「生憎と、説教は免れないみたいよ?」


 ずかずかと入ってきたのは見覚えがある女の先生だ。たしか、そう、黒い鎧を追い払った後にうちの担任の先生と一緒にいた先生。どことなく緩い、ふわっとした雰囲気がある人だ。


「ほんと、もー、またあなたですか紫野さん! 跡見さんに迷惑かけてはいけないと何度も言って聞かせたじゃないですかぁ、子供じゃないんだから聞き分けてくださいよぉ!」


 紫野(しの)、というのはこの白衣の名前だろう。いや苗字か。


「あ、はい。ほんとすいません」


 一瞬で『あー、この人なら怖くないけどめんどくさいなー』って目をして真顔で応対を始めた白衣に、俺は呆れた。本当に何度も怒られているんだろう、なるほど、あれはいつも通りの平常運転なのだ。


 問題児、と言う奴だろうか。跡見に言われたときよりも断然フラットに受け流している。


「んもぅ、泊まりで能力試す許可は今日は取ってないでしょ? 行きますよ」


「うぇ、すいません。はぁぁ………。また来るから」


 重い足取りでぷんすこ怒る先生に連行されていった。


「何だったんだ………」


「……紫野、茉美(まふみ)って言うんですけど……あ、そうだ。タッグ戦で組むように頼まれてましたけどどうするの?」


「あー、どうしよう」


 実力も知らない相手とは組めない、というか、あの性格の子と組むのはちょっと……って感じだ。


「……あの子悪い子じゃないんですよ? 何か変な物に影響されてるときはあんな感じだけど、根は素直で大人しい子だから、今度連絡取って見てくれないかな」


 まじめな顔で跡見が言った。嘘は言ってないような気がする、が。


「厄介払いとかじゃないよな」


「本人前にしてそう言うこと言います? 違いますぅ。……と言うか大丈夫かな、ちょっとあの子気になるんで私はこの辺で」


「そうか、じゃあな」


「はい、おやすみなさい」


 跡見も軽い駆け足で保健室を出て行く。心配なんだろう、それが先生かあの紫野かは俺には分からないが……。


 話くらいは聞いても良いかな。


 って、あ。


「包帯解けた……直して貰うの忘れてたなぁ」

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