失言
登校して、校舎に足を踏み入れる。この校舎は存外寿命を迎えていないようで、馴れてしまえば歩きにくさは感じない。
……嘘だ。強がった。実は歩きにくさは物凄い感じる。どこが抜けないか覚えたから、ムカつかないだけだ。出来るなら迅速に直してくれ。
「よっす止水! 今日も頑張れよ」
田倉お前もだろ、と思ったが声を返す前に田倉は足元をサングラス外して床を見ながら駆け足で行ってしまった。田倉の足が床を踏み抜くことはなかった。
おいおい、無機物も味方に出来るのかよ………。
「いでっ」
余所見をしていたら床が抜けた。………はぁ。
「で、既に何戦もしたところで馴れてきただろう。そこでこの高校の新入生である君達には毎年恒例の行事が待ち受けている」
朝のホームルームで、珍しくあの無表情担任が長くなりそうな話を始めた。
「タッグ戦。君たちを待ち受けるのは二人一組の戦いだ、当然誰の例外もなく出場……あぁ、いや。病人と重傷者は除くが基本全員参加だ」
ピコン、と学校から配布された端末が一斉に鳴る。マナーモード的なものが無いのだが、まあ、そもそも学内専用なので特に意味ないんだろう。
「見ると良い。細かいルールが載っている」
確かに端末に来たメールには様々なルールが載っているホームページに跳ぶためのURLが載っていた。そのホームページはかなり殺風景だが、見にくい印象はなかった。
「重要なことだけを言うと五月一日までにタッグの手続きが終わっていなければ、ランダムで組まされるからそのつもりで」
タッグは他のクラスとも組めるらしい。そうでなければ一組などのサポート特化能力者が大変だからだろう。
「ついでに言うと君達の戦績次第で俺の昇給も懸かっているから、絶対に好成績を取るように。ダメだったら俺直々に鍛えてやるからな。頼むぞ」
「うわ」「ひでぇ」
「……戦績上位者には褒美がある。狙ってみるのも良いんじゃないか」
先生はそう言って教室を出ていった。
教室はもたらされたイベントの情報で騒然とし、俺はどうしたものかと思案に耽る。
「そもそもうちのクラスの人と組もうだなんて物好きはそうそう居ないと思うけど」
「……あー。それもそうだな。ルールはよく見てないけど戦績上位者はどうせ七組で埋まるもんな」
隣の席の女がため息混じりに呟いたのを俺は拾った。
確か、秦野胡桃。
彼女は一房結われたサイドテールを指先で弄びながら死んだ目で呟く。
「このクラスで勝利を一度でも出来た人はまだ良いわ。結城くんみたいな全勝出来てる人なんて、錬金能力者と組めば最早負けも見えないでしょ?」
「……錬金能力か。まぁ、武器が有るのって便利だからなぁ」
俺としては既に剣で充分なところはあるが、二人一組というのは能力を数段上げるものだ。おそらく使われるステージも変わらないとなれば狭いという広さでもない。
五十メートルというのは結構広いから全力でぶつかったら最早それは大怪獣バトル的な? ……死なないよな?
「死なないでしょ」
「そう言うもんか? ……あれ?」
「次の時間は移動教室よ。結城くん、ボケッとしてると置いて行かれるわよ」
んんー? なんかおかしいような。
「つか、それよりも」
俺は言われたように次の授業の用意をしながら端末を見た。
対戦相手、最城秀治。七組の生徒だというらしいが、果たしてどうなるものか。七組の戦闘能力者の実力というのを俺は依田以外には知らない。非常に気になるところだ。
俺はどこまで通用するんだ、と言うところが。
「と言うわけで最城の情報を教えてください藍逆様!!」
「何がと言うことでなのか……私さっき負けてすごく疲れてるんだけど」
「時間もないことだし手短に教えてくれるとありがたい。ありがとな!」
「まだ何も言ってな……はぁ。うん。結城くんはリーチ掛かってるもんね」
「七組は俺に負けたら逆リーチだけどな」
「そうなの?」
「悲しき運命だよ……」
俺は藍逆を待ち伏せしていた。藍逆はさっきまで依田と対戦していたのだ。当然一瞬で負けたけど。と言うかこのルールであいつに勝てる奴はいないだろ。有利すぎる。
「………あんまりふざけてると教えないよ?」
それは困る。
「ふふっ、冗談。知ってる事も少ないし教えても良いよ?」
「お願いします」
「……炎」
「炎?」
「一応、最初は炎を剣状にして投げてきてたんだよ。しかもかなり加減して」
「それで?」
「炎なら自爆をねらえないかなぁ、って能力を乗っ取ってみたんだよ」
「暴走させたんだな?」
「乗っ取ったの」
「拘るな……まぁ、今はそこまで重要でもないし。それでどうなったんだ?」
「最城くん。燃えたの。見事に」
「へぇ。燃えたのか」
「そして気付いたら場外の壁にぶち当たってたの。多分爆風だね、私が立っていた辺りがごっそり削れてて……やー、死ぬかと思ったね」
「……うっわ」
「勿論すぐに私の能力が解けて炎は消えたけど、最城くんは平然としてて、なんか納得したような素振りでなるほど、とか言ってたよ」
「………へー」
なるほど。わからん。
そもそも藍逆の能力で暴走させても限界を超えられるわけじゃないらしいから、限界がその辺ってのはわかる。
……なるほど。炎になれるんだな。だとすると、何かしら対策が出来るような、出来ないような。、
「ありがとう。参考になった」
口先だけでも礼を言う。でも、通じやしなかったようだ。
「私知ってること少ないって言ったからね? これでも少しは調べてたんだ」
そう言って藍逆は学内専用の端末を取り出して画面を操作する。
「なんと、戦績が見れるのですよ。試合内容も」
「おお!!」
藍逆が見せてきた事で、操作の手順もよく分かった。
「藍逆、マジでありがとな!!」
「どういたしまして、ね」
藍逆は陰のない笑顔でそう言って端末をしまう。
「最初っからこれ教えてくれれば良かったんじゃ」
「…………」
藍逆の笑顔が凍った。
しまった。




