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 30s   作者: リョウゴ
万物支配の王と邪神教本
22/98

保健室では静かにしてくれないかなぁ



 生徒棟に入ろうとすると中から先生が二人出てきた。あれは、うちのクラスの担任と、1組の担任だろうか?


 1組の担任が、夕張を抱えてよたよたと歩いている。


「お、結城に藍逆か。あの鎧はどうした?」


「撃退しましたよ。と言うか勝手に逃げました」


「うん、勝手にね」


 まるで何事もないことを強調するかのように藍逆が笑顔で追従する。田倉の武器はついさっき光になって保健棟の方へと飛んでいった。今の俺は武器を持ってはいない。


「そうか。流石だ」


 文字にしてみれば褒めているととれるが、とても心が籠もっているように聞こえない。悪いのは無表情なところか。


「さて」


 先生二人が一点を見ている。気になって振り返って見れば


「あぁ、何とかなったんですか……っ」


 依田が歩いて来ていた。体の形に歪なところは無いものの血だらけだった。


「………おい、依田それ」


「あぁ、これかい? 平気だよ。何とかした」


 心配ないさと両手を振る依田だが。俺じゃなくても強引に能力で動かしているのは分かる。腕に穴が空いていて、血の色に混ざって白い何かが見え──


「……見えないようにするべきだったかな」


 それを確認した次の瞬間傷口が真っ黒に染まる。光を全て弾いたのだろう。変に吹っ飛んで肉が抉れてしまっていたのか、先ほど見えたのは骨、だろうか。


「そう言うことじゃねぇよ!!? 先に保健棟言ってこい!!」


「君なら分かってくれると思ったけど……確かにそうだ。識杏が無事なら無理する必要もないね」


 藍逆は黒くなっている依田の腕から目を逸らして見ようとはしていない。当然だろう。痛々しい。


「はは、きっつい」


 依田は最後にそれだけ呟いて保健棟へととぼとぼ歩いていった。その後を1組の担任がとてとてと追いかけていった。


「で、先生?」


「もう言うことはない。安心しろ」


「そうですか! 良かった……」


「そうだな、もう帰れ」


「わかりました」


「あと、結城残れ」


 藍逆が一礼して走っていく。相変わらずの無表情で藍逆を見送った。やり取りが乾燥してて無駄に無駄なところがないからか即座終わった。


「それで何でしょうか?」


「目の贄」


「識杏の事ですか」


「……通じた、と言うことは訳知りか」


「はいそうですよ」


「邪神教本の事も知っていたと言うことはお前は」

「違う、誰が邪神に信仰なんて捧げるか」


 食い入るように、俺は担任を睨んだ。気のせいか、一瞬怯んだようにも見えたが、なにぶん無表情である故にとても分かりづらい。


「……燃やそうとした地点で察している。変に疑って済まないな」


「分かってくれれば良いんですよ」


 ちょっとついてこい、と先生は言った。大人しく俺はついて行く。


「何せ、目の贄。物騒な単語だ」


「贄は五つ 、『目の贄』『耳の贄』『口の贄』『心臓の贄』『体の贄』。 邪神教本に依れば、それらの三十代目が真の生贄として捧げられて邪神が現世に」


「おいおいおいおい、待ってくれ。邪神教本に依れば? どう言うことだ?」


「どうもこうもないですよ。ただ、読んだことがあるってだけですよ、あのクソッタレな本をね」


 そうでもなきゃ、あの本の存在を俺が知るわけがない。そうでもなきゃ、俺があの本を持った男に警戒しないはずがない。そうでもなきゃ、俺があの男が使ってくる技を先読みなど出来るわけもない。


 そういうものだ。


「俺が知ってたのはただの偶然ですよ、偶々中身を見てしまっただけで」


「なるほどな」


「で、聞きたいことってその五つの生贄についてですか?」


「いや、まぁ。そうだが、お前の様子からして他の生贄を知らないんだろう?」


「そうですよ。あくまで知識としてしか知らない。それで」


「有益な話だな。ほらよ」


 先生は下手投げで何かを投げてきた。缶だ。山がプリントされた青色のコーヒー缶。──熱っ。


「やる」


「俺コーヒー飲んだこと無いんだけど」


「飲んでみろ、美味いぞ」


「そうですか」


 ───苦っ。


「夕張識杏の様子なら異常はない。目の贄なんて言うから眼球も見たがな」


「そうですか、良かった……」


「昔馴染みなのか?」


「そうですね、依田と識杏とで」


「両手に花か。羨ましい限りだ」


 少し、想像した。依田は外見はそう悪くもない。夕張は言うまでもない。


「そうかも、しれないですね」


 ちまちまとコーヒーを飲みながら返事をする。


「さて、俺はもう呼ばれているようだ。はっきり言って時間がない」


 いや、のんびり話してたじゃないか。そう思って缶から目線を上げると、先生は携帯の画面を見せてきていた。"綾田先生"?


「と言うわけだ、これから保健棟行ってから帰ると良い」


「そうしますよ」


 ふ、と先生の口元が緩むのが見えた。それから踵を返して歩いていった。


「…………苦い」


 俺はコーヒーを飲みながら、保健棟へと向かって歩く。


 ───この後も警戒しながら行動したが、俺に分かるような襲撃はもう何一つ行われなかった。






「一緒の保健室か」


 言われたとおりに、いや、言ったとおりに保健棟に足を踏み入れていた。


 依田香織、夕張識杏の文字を見つけた俺はその部屋に入る。


「やあ、止水。早かったじゃないか」


「……お前の傷の治りもな」


 腕を挙上して俺を迎え入れた依田。見える範囲には傷一つ無い。派手に骨折してた割にはどうもその名残がない、と言うのには落ち着かない。


「いやぁ、優秀だね。私を治した人、今年の新入生だって聞いてたけどなかなか肝が据わってたよ、私の傷を直視して平然を保てるなんて」


「自覚あったんかよ」


「馬鹿にするなよ止水。君じゃないんだから自分を客観視するくらいは平気で出来る」


 あぁしまったなぁ名前聞きそびれたなぁ、なんて言いながら依田は上機嫌だ。


「ヤケに機嫌が良いな?」


「良い能力を見たらちょっと気分が上がらないかい?」


「上がらないな」


 寧ろ下がる。相手したら面倒だなぁって。


「そうかい? 超能力は万能に近いんだな、って感動しないかい?」


「……そうかもしれないな」


 俺は夕張の寝ているベッドの横の椅子に座る。一応この位置は丁度夕張と依田の間だ。俺と依田の間にベッド一つ挟んでいるが。


「私が悪化を抑えるのがやっとなのに、この子は容易に傷を治してくれるんだなって」


「……でも依田程万能な能力でもないだろ、ただ人を治す事だけ凌駕したところで」


「………万能でもないんだけど」


 そう呟いた依田。能力に不満が有るようだが何も出来ないようなものよりかは数百倍良いと思うんだが、彼女にとっては違うらしい。


「邪神信仰者が動き出したな」


「………もう二度と見たくなかったんだけど。小学六年の時と全く同じ神官が来たよ。まあ、止水はあの男を見てないから知らないだろうけど」


「……案外人手不足なんだろうな」


「どうするよ、止水。私はこれからも反抗して危険な目に遭うくらいなら差し出すなり───」


「───依田?」


 俺は、依田を見た。


「……この高校なら多少国の主幹に顔が利く。保護してもらうって言うのも一つの手だと思うんだけど」


「依田、分かってて聞いてるのか?」


「………真面目に聞いてるのさ。と言うよりは私のスタンスだね。君には悪いけど私は識杏の事なんてどうとも思っては居ないよ。平穏の為の犠牲にするくらい……どうという事は…ない」


「反対だな」


 依田にとって俺が何を言おうが想定内だろう。平然としたままに依田は言葉を続ける。


「そうかい。そう答えることは知ってるよ。言いたいことは言ったから私は寝る、一人で帰っててくれ」


「……分かったよ」


 識杏は幸せそうに寝言を言っていた。その様子を改めて見て、俺は立ち上がる。


「ただ、私は君を信じていないわけじゃない。それは」


「当然分かってるよ。俺はどうあっても識杏を守る。依田だってしたいようにすりゃ良いじゃないか。」


 俺は、保健室を後にした。依田は依田で頑なな俺に、識杏を見捨てる選択肢が存在することを示してくれているのだろう。もっと良い言い方が有るだろうに、何故そんな言い方しか出来ないのか。




「ガハハハハハ!!」


「よし次は倒立腕立て百回だ!!」


 ………えっとこれは?


 俺は田倉他二名の居る保健室に来ていた。そこで物凄い勢いで筋トレする二人と耳栓とアイマスクをして沈黙している田倉の姿があった。


 ………これは。


「思ったより元気じゃないか。心配して損した気分だ」


「おぉ、結城か! そうだな、見ての通り元気だ! ぬおおおお!!」


 倒立しながら腕立てする相楽。余裕そうだ。


「藍逆も一度顔見せには来たが、一度この場を見て笑いながらすぐ帰ってしまったぞ! 結城もやるか!?」


「やらない」


 後藍逆に関してはそれ只の苦笑いだし、まずこの様子見て心配はいらないと思うしな。そりゃ帰るのも分かる。


「そうか!」


「あと保健室では静かにしろよ!?」


「分かっている!!!」


「ガハハハハハ!」


 声量は少し減ったけどうるさいままだ。


 俺は寝ている田倉の肩を叩く。田倉はアイマスクを下から指でくい、と浮かして俺を見た。一瞬だけで、すぐアイマスクで隠してしまう。


「まだ目が痛いんだよ。歩いて帰るにも支障があるレベルで。聞いてはいたけど能力暴走って結構キツいな……」


 言葉を返そうと俺は口を開いたが、田倉は耳栓を外そうとしてなかった。


「……帰るか」



 俺は保健棟から出た。


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