鬼ぼんじゅーる編22
「ちゅう。チーは体育祭ちゃんと見たの、はじめてです」
今日はりっちゃんの学校の体育祭。
僕はチーと一緒に体育祭を観戦するために校庭の端にある木の上に上って並んで眺めていた。
体育祭前の長い校長の話の後に選手宣誓が終わり競技が始まると、生徒達は同じクラスごとのこの日のために用意した色とりどりのTシャツを着て自分のクラスの競技に出たり応援したり賑わっている。
そんな中僕らは一緒に話をしていた。
「初めてって、今まで見ようとしたことなかったの?」
「はい。チーは体育に興味はありませんし。人がいっぱいいるのは怖いのでたぶんはじめてです」
たぶんということはチーはちゃんとは覚えていないらしい。
体育祭一緒に見ようと誘った時も興味がなさそうだったからね。チー運動には興味がないのか。
「興味なかったのに僕と一緒に来てくれて良かった?」
僕は念のため確かめた。するとチーは声を大きくした。
「もちろんです!チーはモフフ様と一緒にいられるのはうれしいです」
「そう?ありがとう」
僕はチーの言葉にお礼を言った。
やっぱり一人で観戦するのは寂しかったからチーが一緒に来てくれて良かった。こんなに盛り上がる中で一人は居心地悪いし。まあ僕は人から視えてはいないけど。
「あっ、りっちゃんの競技だ」
100メートル走のアナウンスが流れた。
りっちゃんは個人競技は100とリレーに出るらしい。後は綱引きとかの団体競技だと聞いている。
「僕、近くに行って応援するけど。チーは来る?」
「えっと。チーは……。あのモフフ様の近くにいていいのでしたら」
「うん、ちゃんと僕はチーのこと守るから大丈夫だよ」
「あっ、はい。ありがとうございます。モフフ様、かっこいいです」
「どちらかというと可愛いの方が好きだけど、まあ僕は格好可愛いだから仕方がないか」
「はい!」
僕の言葉に、チーはよい子に元気に返事を返したのに少しだけ内心たじろいだけど。まあよし。
「よし、じゃあ行こうか!チー」
「はい!モフフ様」
そうして僕らはりっちゃんの勇姿を見に行った。
「わあっ、りっちゃん速い!りっちゃんがんばれー!」
徒競走は足の速い人から先に走るのだけど、りっちゃんは一番最初の回だった。さすがはりっちゃん!
走る姿も格好良く、応援の声も響きわたる。
僕らも応援する女の子たちの横で声を張り上げ応援した。
りっちゃんの100メートルの結果は二位だった。一位は陸上部の子らしい。爽やかな運動青年そのままな子だ。
息を整えながらりっちゃんはこちらを向いて僕らの方を見たから、隣にいた女の子達が黄色い悲鳴を上げる。僕は両前足を上げて大きくりっちゃんへ手を振ると顔をしかめて視線をそらされた。たぶんあれは恥ずかしがっている。
その後すぐにりっちゃんは一位だった子に声をかけられていた。それにりっちゃんは姿勢を正すと、お互いに健闘を讃え合うよう手を握って握手した。青春だね。
「りっちゃんやっぱり格好良かったな。さすが僕のりっちゃん!」
僕は興奮が収まらずに横にいたチーに話すと、チーは小さく頬を膨らませた。
「チーの方が走ったら速いです」
うむ。
どうやらチーはりっちゃんへ対抗心があるようだ。
とはいえ僕らは種族が違うしね。
「まあそれを言うならこの中で僕が一番速いけど。りっちゃんは人の中では速いじゃない。がんばって成績の良いのは僕偉いと思うよ。チーが鼠の中でも頭が良いのがすごいのと同じようにさ」
「えっ。あ、ありがとうございますモフフ様」
チーは僕の言葉に丸い目を見開くと、頬を両手で押さえて照れたようにお礼を言った。可愛いね。
こうして少し競技を見た後、チーとやることがあるからと別れた。
僕が向かったのは美術室など実技系の教室がある校舎の三階だ。
今は体育祭なので人のいないそこには体育着姿の雪門が一人待っていた。
「雪門お兄さん、200メートルお疲れ様。すごいね、一位だったね」
「ありがとう。二番目の組だったから三門よりは大したことないけど」
「それでも足速いことに変わりないよ。格好良かった、すごく!」
雪門を応援してる女の子達も顔を染めていたしね。走るフォームも綺麗だったもの。
「モフフくんにそう言ってもらえて嬉しいよ」
雪門は言葉の通り嬉しそうに少し頬を染めて言った。
「でも本当に良いの?僕が400メートルの競技に出て走っても。雪門お兄さんは最後の体育祭なのに」
「最後だから良いのかもね。僕は何度も経験したし、最後くらい少しこういう悪ふざけをしてもいいかなって」
僕は雪門に雪門の代わりに体育祭に出てみないかと誘われてここに来たのだ。僕が前に雪門と話していたときに体育祭良いなと零したのだけど、それを叶えるつもりで提案してくれたみたいだ。
楽しみな反面ちょっと罪悪感もある。
思わず耳を下げると雪門お兄さんはしゃがんで僕の頭を撫でた。
「本当に気にしないで。普通は個人では一競技なのに二競技もあるから僕は大丈夫だよ。それよりモフフくんが喜んでくれた方が嬉しいから」
「……雪門お兄さん、ありがとう」
うん。雪門はやはり優しいな。
僕は意を決して尻尾を振って雪門を見上げてから、ボフンと雪門の姿に変化した。
僕の変化を初めて視た雪門は驚く。
「すごいね。モフフくん」
「どう、雪門お兄さんに似てる?僕、格好良い?」
我ながら巧みな変化に満足して僕はその場でくるりと回り雪門に雪門の声で確認すると、雪門は困った表情で頷いた。
「うん。たぶん僕そのものだと思うよ」
「りっちゃんにもバレないかな」
「バレないかもしれないけど、あまり遊ばないであげてね」
「大丈夫。僕は競技が終わったらすぐに戻るから。悪いことしないよ」
「うん……。口調にも気をつけてね。自分がモフフくんの話し方だとすごく違和感あるから」
「はーい!」
僕は元気よく返事をすると雪門お兄さんはより心配そうな表情になった。
「まあ僕は少しくらい何かあっても構わないからモフフくんは楽しんできてね」
雪門はそう見慣れない自分を見ながら困った表情で優しく微笑んでくれて、僕は笑顔でお礼を言った。




