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鬼ぼんじゅーる編11

 やはり菊衛門きくえもんの娘を相手するのはしんどかった。

 刃物をかわしている間に間合いを詰めてきた雛菊ひなぎくが手に持った巨大な棍棒を振りかざして来たときは本当に焦った。体術は鬼の方が得意だもの。

 勝ったには勝ったけど。


 雛菊ひなぎくは木に寄りかかっていて息が荒い。

 鬼は本来妖術が苦手なのに雛菊ひなぎくはたくさん使っていたから疲れたのが大きいのだろう。だから妖術より体術で戦った方が鬼は良いのだけど、そういう戦い方は父の菊衛門きくえもんから教わっていると思うから今回は彼女にとってもじゃれ合いみたいなものだったのだろう。

 僕は春門はるかどの気配を探る。近くにはいないみたいだから山を降りたのかな。


雛菊ひなぎく、大丈夫?」

「ふん、あんたが手加減したから怪我も無いわよ」


 雛菊ひなぎくは横に顔を逸らして不愉快そうだけど、先ほどより落ち着いた様子で答えた。


「なら良かった。ありがとうね、遭難者のことを教えてくれて」

「別に。あたしもあんたたちが殺す前に引き取ってくれて助かったよ。まああたしが殺す前にあたしの気に当てられた子が始末していただろうけど。それにしてもあんたって今はあの人間と行動しているの?」

「うーん。一緒にいるのはあの人じゃないけど彼の実家でお世話になっているよ」

「へえ」


 雛菊ひなぎくは馬鹿な妖怪を見るように僕に目を細めた。


「まああたしはあんたが何をしていようと別にいいけどね」

「あはは……。ところで菊衛門きくえもんさんは元気?」

「さあ。もしあんたがこのまま人間と関わっていくつもりなら嫌でも知ることになるんじゃない?」


 そう雛菊ひなぎくは眉を寄せ苦々しそうに答えた。

 人と関わっていたら知ることになるって。少し怖いな。

 菊衛門きくえもんが人間のことをどう思っているのかよく知らないけど、雛菊ひなぎくの人嫌いを見るに人と暮らしていることを怒られないよう気をつけないとなのかな。

 僕はもう一度、雛菊ひなぎくにお礼を言って山を降りた。



 まだ暗い山の麓にはすでに春門はるかどがいて目を瞑り腕を組みながら車に寄りかかっていた。

 僕に気が付くと目を開き体勢を起こす。


「怪我はないか?」

「うん。雛菊ひなぎくも本気じゃなかったから大丈夫だよ。遭難者たちは?」

「彼らはサポーターが連れて行った。怪我はあったが全員無事だ」

「そっか、良かった」

「そうだな、モフフくんも無事で良かった。では帰るか」


 どうやら春門はるかどは僕を待っていてくれたらしい。

 春門はるかどは助手席の扉を開けてくれたので僕は車に乗り込む。



「今日は君がいてくれて本当に助かった」


 車を走らせながら春門はるかどはそう言った。


「僕も相手が、まあ忘れてたけど知っている妖怪で良かったよ。春門はるかどお兄さんは妖怪と戦ったりするの?」

「そうだな。今日の鬼ほどのものを相手することは少ないが、妖怪と戦うことはよくある。相手ができる人間も少ないから私は他の協会員より派遣されやすい」

「大変だね」

「ああ」


 春門はるかどは息を吐いて頷いた。

 本当に疲れた様子だ。あまり寝ていないしね。



「僕今静かにしていた方が良いかな」

「いや、話してくれて構わない。気も紛れる」



 話して良いならそういえば僕は聞きたいことがあったから聞いてみることにした。


春門はるかどお兄さんの家ってりっちゃんが跡を継ぐんでしょ。春門はるかどお兄さんはそれについてどう思っているの?」


 尋ねると少しの沈黙の後、春門はるかどは答えた。


三門みかどには申し訳ないと思っているよ」

「へ?」

「選ばれる基準が何か私は分からないが、やはり末の弟に大変な仕事を押し付けてしまうのは忍びない」

「当主に選ばれなくて残念だってことはないの?」

「それはないな。三門みかどの心配しかない。家の主など別になりたいと思ったこともないしな。だからこそ私は選ばれなかったのかもしれない。そんな兄ですまないと思っている」


 僕はそれを聞いて似ていないけど二人はやはり兄弟だなと思った。二人して相手のことを一番に気にしている。


「その話、りっちゃんにしてあげて」

「……」

「きちんと春門はるかどお兄さんが何を思ってくれているか分かった方が嬉しいだろうから」


 僕はそう春門はるかどにお願いすると、春門はるかどは少しだけ沈黙してから頷いてくれた。


「ありがとう、春門はるかどお兄さん」


 頷いてくれてホッとした。

 勘違いしたまますれ違うのは悲しいものね。

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