鬼ぼんじゅーる編10
現場の山に着くとそこには背広姿の男性が二人いた。
彼らも悪霊払いの人かなと思ったけれど、春門へ駆け寄ってきた彼らには僕が視えていないようで違うということはすぐに分かった。
彼らは悪霊払いのサポーターらしい。予め用意してきた資料を春門に手渡すと、地図を開き説明を始めた。
それを春門は真剣な表情で聞く。僕もその話を漏れ聞きながら山を視て気配を探った。
やはり夜の山。複数の黒い靄の異形とかがすでにこちらを伺っているけど、手を出してくるほど強く積極的な異形は近くにはいない。
……ただ山の中腹くらいに強いのを感じるけど。
隠そうともしない気配は僕らを呼んでいるのか、ただ怒り狂っているのか。
普段なら面倒くさいから近づかないけど行くしかなさそう。
「私は行くが、モフフくんは捜索に付いてくるか?」
「もちろん行くよ。もう話はいいの?」
「話は終わった。そもそも話を聞くまでもなく気配を隠そうともしていないからな。そちらに行くつもりだ。できればさっさと行方不明者を捜したいが、君の言うとおりに鬼なら挨拶をしない訳にはいかないだろう」
「いることに気が付きませんでしたって言い訳は通じないものね。鬼の縄張りに入るのに勝手に入るのは怒る子多いし」
「そうだな」
春門は疲れたように頷くと、持っていた黒いビジネスバックから黒い手袋と短刀を二本取り出し手袋は手に、短刀は腰に装着した。
「では行くか」
「はい、お供します」
僕は春門と一緒に気配の元へと向かった。
山の中を夜に歩くのはやはり人間の春門には骨が折れるらしく大変そうだったけど、それでも速度を落とさずに登っていくので服に隠れてあまり分からないが結構鍛えてはいるのだろう。
前にりっちゃんにしたように背中に乗せてあげることもできるけど、何が出るか分からない今、急ぐことより周りに注意した方がいいと思い提案しなかった。
ずっと山の異形たちがこちらを見ているし。ああ、あそこに目玉が浮いてる。
少しして僕らは何かに襲われることなく気配の源まで来た。そこにはまるで偽物みたいな大きな黒い幹の松の木があった。
すぐ近くにいることは分かるけど姿を見せないのを警戒して僕はあたりを見渡しながら、春門は腰の短刀に手を添えながら探した。
「なんであんたがここにいるのよ。しかも、人間と一緒に」
若く気の強そうな声と共に松の木の影から一人の女の子が現れた。
赤みのかかった長い髪を上の方で一つに束ね、同じような色合いの赤い着物を来た女の子だった。年は高校生くらいの容姿で、つり目の瞳も赤い。側頭部には二つの小さな赤い角がある。
そんな彼女は僕に気安く話しかける。
けど、誰だろう。
「えっとどちら様ですか」
「殺すわよ」
「い、いやお姉さんみたいな綺麗な人に会ったことたぶんない気がするけど」
殺されてなるものかと僕は言い訳を言いながらもこっそりと思い出す。
けど、鬼の知り合いなんて少ないし。その中にいなかったような。
「まあそうね。あんたってあいつしか見ていなかったから仕方ないか。あたしは雛菊、菊衛門の娘だよ」
「ああっ、菊衛門さんの!確かにちっちゃいのがいたかも」
「ふんっ」
菊衛門とは鬼の幹部の一人だ。
鬼の中では一等親しくしてもらっていたし、昔付き合いがあった。
その際にこの子、雛菊も視たことがあった、ような。ぶっちゃけ菊衛門って子供が多かったから記憶が薄い。
「それで?ずっと音沙汰もなかったあんたがどうしてここに?」
「えっと、この山に人が迷い込んだらしくて。知らない?」
「人ね。あの肝試しの馬鹿どものこと?」
「そうその子たち」
「……」
妖怪の子供なので元が人の子より安定しているから話が通じると。
これは案外簡単に話は済みそうだと思ったけど、雛菊は少し黙るとまた妖力を溢れさせた。
思わず後ろにいる春門を背に庇いながら、僕は雛菊を視た。
「ああ、本当…人間なんて滅べばいいのに。勝手にあたしたちの島に侵入して、勝手に迷い込んであああ殺してやりたい」
雛菊は牙を赤い口から覗かせながら吠える。
「雛菊、落ち着いて」
「あいつらならそこの獣道を真っ直ぐ行ったところにいるわ」
雛菊は頭を抑えながら、左側を指差した。
そこには確かに分かりづらくはあるけど獣道がある。
「ありがとう!じゃあ僕たちは早くその人間たちをこの山から出すから」
僕の言葉が終わる前に、クナイのような鋭い刃物が数本僕たちへと降り注いだ。
それに僕は慌てて青い炎を作り出し防ぐ。
「待ちなさい。モフフ、あんたはあたしの憂さ晴らしに付き合いなさい」
雛菊は彼女の周りにいつの間にか浮遊している金属の刃物を片手で操りながら、僕を睨みつけそう言った。
相当人間が現れてむしゃくしゃしているらしい。
まあ彼女はまだ年若い妖怪だから、問答無用に攻撃して来ないだけ安定しているか。
「春門お兄さん。お兄さんは行方不明の人たちを早くこの山から連れ出しておいて。僕は彼女の相手をするから」
「モフフくんは大丈夫なのか?」
「うん。僕の方が年長者だからね。負けはしないよ」
「……分かった」
菊衛門の娘ならあまり油断はできないけど。若い子にこの意識ってもう少し僕も鍛えておかないとかな。……とりあえず保留で。
春門が去っていくのを気配で悟りながら、僕は雛菊へ向かって駆け出した。




