私的な復讐
私がルミとそのクラスメイトの三浦さやが戦技を休んでいることを知ったのは、休み始めてから一か月たってからだった。なにをいまさらと私は毒づいた。
恥ずかしいと思わないのだろうか。
娘も娘なら母親も母親だ。いくら娘のためとはいえ、自身が動くことの意味を全く理解していない。
現職の防衛省の大臣が動けば、学校側に不備があったのではと騒ぎになるのは当然である。
それでショックのあまり指導教員が寝込んだのだ。これほど迷惑をかけてしかも将来性の低いCクラスの生徒を教えるなど、まったく理解できない。
このことを叔母に相談しても「まあ、ルアはそういうの全く考えないから。しょうがないわ。」としか言わなかった。
近くに叔母がいるからわかることだが「最強の世代」は間違えなく一般常識に欠けている。だから、嫌いだ。
「サツキさんごきげんよう」
Aクラスの教室の前を通っているといきなり声をかけられた。
「ええ、ごきげんよう養老さん。」
わたしに声をかけてきたのは養老さゑ子という医療グループの令嬢である。
「ねえ、聞きましたか。落ちた龍が年度末の対抗戦に向けて母親指導の下鍛錬に励んでいるとか。いったいどんなことをしているのやら」
さゑ子の言い方にサツキは腹が立った。落ちた龍などとルミを馬鹿にできるほど実力があると思っているのだろうか。親の権力がなければなにもできず、Aクラスにすらいられないくせにと内心毒づく。
「そうですね、一体何をしているのやら。そういえば、噂によると養老さんは年度末の対抗戦に出られるそうですね」
「ええ、そうですの。最終戦はSクラスとですからとても楽しみです」
「はい、私も楽しみにしています。でも、上を見すぎて足元をすくわれないように気をつけてくださいね。今回は番狂わせが起こるかもしれませんよ」
わたしは、満面の笑みで答えてそのまま歩き始めた。すれ違いざまに見た養老さんのひきつった笑顔は面白かった。
私は別に対抗戦の結果がどうなろうと関係ない。
ただ、わたしは許せない、あの程度で心が折れて一年まるまる努力することをあきらめたルミのことが。
上がってくるなら上がってくればいい、今まで努力してこなかったことを後悔するぐらい力の差を見せつけるだけなのだから。
これは、とても私的で小さな復讐だ。